プロローグ
最後の結末の日から、既に三年が過ぎようとしていた。
今年も白い息が漏れ、マフラーが恋しくなる季節がやってきた。一人の男は公園の自動販売機の前に立ち、缶コーヒーを買おうとしていた。かつて世間を大いに騒がせた未確認生命体やアンノウンなる存在は姿を消し、少し前までは夜に外を歩くことさえ憚られるほどだった世界も、ようやっと安穏を取り戻しつつあった。
そんな呑気な一日を今日も終え、男は自動販売機の取り出し口からコーヒーを手に取る。その時、ふと男が目を暗陰とした夜空に向けたのはただ、勘だったから、としか言いようがない。いや、あるいはその勘は意図しないものではあったが、必然的だったと言えたのかもしれない。
今夜は星も見えない曇天。そんな夜空を高速で動き回る奇妙な何かがあった。目を凝らさなければ、暗い夜空と見分ける事も出来ない「それ」は飛行機にしては随分低い空を飛んでいるように思われた。
「ん……?」
男は更に目を細める。
気のせいだろうか? こちらに近づいてきている気がする。
不幸な事に、それは気のせいなどではなかった。宙を飛び回るそれは、見る見るうちに滑空し、その人型を視認出来る距離にまで近づいてきた。
男は思わず、片手に持ったコーヒーを地面に落とす。最早、相手が何者なのか、本当に自分に向かっているのか、などと問うてる暇などない。男はコーヒーを拾いもせずに走り出した。
しかし、時速にして300km/hで宙を滑るそれは、一瞬で男に近づき、そのまま体当たりを食らわせて全身を砕いたのだった。
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津上 翔一は自らの経営するレストラン「AGITΩ」を閉めようとしていた。二年前から始めたレストランであり、開店当初こそ経営に不安もあったが、今では上手く軌道に乗りつつある。料理は翔一の最も好きなものの一つでもあった。毎日、自分の好きな事をして、誰かを喜ばせることが出来る。数年前までは戦いに明け暮れる毎日を過ごしていた翔一にとってそれは、今がこんなに幸せでいいのだろうかと、自分でも不思議になってしまうほどの幸福だった。
今日も笑顔を浮かべ、店を閉めようとした翔一は、ふと、違和感を覚える。
音が全く聞こえない。
レストランの扉を閉める時の音がしなかった。そもそも、これほど世界が無音なはずがない。翔一は首を傾げ、もう一度扉に手をかけ開けてみる。鈴のなる音が聞こえるはずが、やはりしなかった。顔をしかめ、再び扉を閉めようとした時だった。
翔一を凄まじい頭痛が襲った。しばらく味わう事のなかった、しかしある意味懐かしいともいえる痛み。翔一はグッと頭を抱えた。
「うっ……ぐっ!」
いくら頭を押さえても、痛みは一行に引く気配がない。
まさか、そんなはずはない。あいつらはもう、いなくなったはずなんだ!
翔一はフラフラとよろめきながら、レストランの前に停めてあるバイクによりかかるようにして跨り、そして発進させた。
彼は確かめなければいけなかった。この痛みの意味を。