人の体が突然発火した。
そんなにわかには信じられないような通報を受け、現場には多くの警察官達が集まっていた。例によって河野、北条も事件の現場にやって来て捜査を進めている。
死体があった当時の姿を示す、白いテープで囲われた地面は真っ黒に焦げていて、辺りには何かの燃えカスのようなものも残っていた。
現場の状況を見て、河野は思わず顔をしかめる。
「目撃者の証言によると、気づいたら被害者の死体が燃え上がっていたらしい。……しかしなぁ、こうも何も残らないとなるとなぁ」
「アンノウンの仕業には間違いないのでしょうが、この手口の殺しは確認されているだけでも七件目です。既に二組の血縁が絶やされている」
切迫した様子の北条に、河野も困ったように頷いた。
「ああ。しかしなぁ、アンノウンの目撃情報が全くない上に、死体が完全に焼失してしまうせいで、被害者の把握が難しいんだ。今回の被害者は偶然、人目のあるところで襲われたようだが、それでもアンノウンを目撃したっていう話は出ていない」
河野は小さく舌打ちをして、
「とにかく早く身元を確認しないことには、護衛のつけようもないな」
──────────
「ありがとうございますっ」
加奈は首を傾げる翔一に対して、もう一度頭を下げた。
「え、だからなんのことですって!」
翔一はますます混乱した様子で口をポカンと開ける。
そんな翔一の姿に加奈はぎこちなく柔らかな笑みを浮かべた。
「私、この三年間生きてきて、楽しい事が一杯ありました。もちろん、楽しいだけじゃないことも。でも……」
3年前の、運命の日の記憶をまさぐりながら加奈は俯く。
「でも、もしあの時死んでたら、本当に何もかもお終いだったんですよね……。今の私も過去の私も。結局、それを選ぼうとしてたのは私自身だったんですよね」
翔一はそんな加奈の様子に、下唇を噛んだ。
あの時、翔一には何故か加奈の姿が死んだ姉、雪菜が重なって見えた。そして翔一は最後の最後で、自ら死を選んだ姉の言葉に応えることが出来なかった。
彼女に重なった姉の姿が、彼の自分自身の弱さを浮き彫りにした。
「だから、あの時私を助けてくれて、本当にありがとうございました」
なんで今更こんなこと……加奈自身も不思議でならなかった。
それでも、言葉は自然と彼女の口をついたのだ。彼女自身が今、翔一にこの気持ちを告げたいと思ったから。
翔一はそれを聞いて少し気落ちしたような表情を浮かべたが、すぐに笑顔に戻ってそれに答える。
「いえ、それなら加奈さんにこそ、ありがとうございましたですよ」
笑みを浮かべながらそう言う翔一に対して、加奈が不思議そうに眉を寄せる。
「私に……?」
「はい。あの人の言葉……覚えてますか? ほら、俺と一緒に加奈さんの事を助けてくれた人の。『人はしょせん、自分で自分を救わければならない』って。俺、本当にその通りだと思うんです。俺がどんなに頑張ったって、加奈さんがどうするかを最後に決めるのは加奈さんなんですから」
その言葉は、今は亡き姉、雪菜にかけるものでもあった。そしてあの時の、自分の弱さにかけるものでもあった。
だからこそ、翔一は笑顔を絶やさずに加奈に言う。
「結局、加奈さんの事は加奈さんが助けてあげるしかないんです。加奈さんは自分が助けられたって思ってるわけですよね。それってやっぱり、自分で自分を助けてあげる事ができたからそういう風に感じるんだと思うんです」
翔一は噛み締めるように、姉の姿を思い出にしまい込むように最後に付け加えた。
「だから俺、加奈さんの事を助けてくれた加奈さん自身に、たくさん感謝してるんです」
そう言って翔一は重ねるような笑顔を浮かべ、仕事に戻る。そんな翔一の背中を見て、加奈は再び俯いた。
ありがとうございます、津上さん。でも……。
でも私、やっぱりまだどう生きていいのか分からない。ずっと……ずっと津上さんに甘えっぱなしで……。
──────────
長年使い続けている愛車の定期メンテナンスの帰りのことだった。
涼はふと、見覚えのある姿に路上でバイクを止め、ヘルメット越しにその様子を見つめる。
一人の女性……と言うよりまだ年端もいかないような少女が、数人の男、それもかなり粋がった服装の連中に追われているようだった。
相手は格好からしてまともな類の人間達ではなく、中には短いパイプ棒のようなものを持ってる物騒な男までいて、一目でそれが普通の状況ではないとわかる。
すぐに一行は狭い路地の方へと入っていってしまったため見えなくなったが、何やら穏やかじゃない事態が起こっているようだ。
涼はチッと小さく舌打ちをすると、バイクのアクセルを踏み込んだ。
路地に入り込んだ少女は、網の目のように狭い通路をくぐり抜けて追いかけてくる男たちを巻こうとする。が、しつこいことに連中も諦めずに狭い通りに苦戦しながらもついて来ていた。
やがて何回か角を曲がったところで再び路地が終わり、少女は車道のある通りへと飛び出る。
と、路地の出口のすぐ目の前に見覚えのある格好の男が、バイクに跨っていた。
男は少女を見るなり、後部座席を顎でさし、
「乗れ」
などと言ってくる。
少女ですら思わず素で「はあ?」と顔をしかめたが、男はそれには答えようとせず、
「早くしろ」
と少女の後ろの方を見ながら言った。
後ろからは今にも追いつかんとしている追っ手が声を荒げていた。
少女は小さく舌打ちをしたが、今はなりふり構っていられる場合でもなく、言われたとおりに男のバイクに乗り込む。
男はそれを確認すると、アクセルを踏んでバイクを走らせた。
──────────
唐突に、警視庁各局、そしてそこに属する全てのパトロールカーに突然の一報が入る。
「一般人警護中の警察官より、対象がアンノウンに襲われた模様との入電中、繰り返す、一般人警護中の警察官より……」
そしてその一報は、警視庁地下に封入されているGトレーラーにも届けられていた。
それを聞いたオペレーターの小沢はまさしく稲妻のごとく反応し、共にいた氷川と尾室室に向かって言う。
「ついに来ちゃったわね……覚悟はいい?」
そんな小沢の言葉に尾室が慌てて、空気を読まずに返した。
「え、いやでもまだ上からの正式な許可降りてませんよ!?」
が、すぐに小沢の、
「何言ってんの細かいこと気にしてる場合! 行くわよ!」
という身もふたもない返事によって切り捨てられてしまう。
小沢はマイクを装着し、通信用のスイッチを入れると、
「Gトレーラー、出動します!」
と声高らかに宣言した。
それに応えるように、Gトレーラーがサイレンを鳴らして動き始める。その振動を感じながら、小沢は複雑そうな表情を浮かべた。
「晴れてG3ユニットの復活というわけね。喜ばしい……とは言い難いけれど」
────────ー
ちょうどその頃、開店に向けての作業を続けていた翔一も鋭い感覚に襲われる。
そして、無意識の内に駆け出しながら、
「加奈さんすいません! 俺、ちょっと!」
と言って、返事も聞かずにレストランを飛び出した。
加奈はそんな翔一に追い縋るように自分も走り出そうとしたが、すぐに足を止め、その背中を不安そうに見つめる。
自分の手が慄くように震えているのが感じられた。
────────ー
けたたましくサイレンが鳴り響く中、小沢は氷川に向かって語りかける。
「悪いわね、またあなたにこんな戦いを強いてしまうなんて」
それに対して、氷川は首を振って新しい自分の姿、G3-XXを見つめた。
「いえ、僕の方こそまた小沢さん達と戦うことが出来て光栄です」
そう言って彼はゆっくりと立ち上がる。小沢もそれに並んで腰を上げ、氷川を見上げた。
「じゃあ行くわよ。G3-XX、出動!」
「はい!」
オペレータによってG3システムへのアクセスが解除されると、装甲のそれぞれのユニットが装着可能になる。まずはオペレータの補助によって胸部ユニットが、さらに続けて肩部、腕部、臀部ユニットがそれぞれ装着員に装着される。
そしてバッテリーの残量を示すベルトが接続されると、赤いランプがマックスまで点灯し、G3システムの起動を示した。それと同時に、オートフィット機能によって装甲全体が完全に氷川に適合する。
最後に、氷川誠をG3たらしめる頭部ユニットが、彼の顔に重なり被せられた。
その装着を確認する氷川は一度、新たなる自分の姿に目を向ける。それから懐かしむように零した。
「何も変わらないな、昔と」
そしてその言葉を最後に、氷川はスロープに配置された彼専用の白バイ、ガードチェイサーに跨った。それを確認した尾室が、Gトレーラーの後部ハッチを解放し、スロープを後ろに下ろしていく。
氷川が一度後ろを振り向いて確認してから、ガードチェイサーはスロープから離脱され、ゆっくりと滑るように路上に降下した。それと同時に、ガードチェイサーも自らサイレンをあげて、走り出す。
白い車体が唸りを上げ、警察局の誇る最高の技術力によって超高速で市街を駆け抜けた。
やがて、しばらくもしない内にG3を乗せたガードチェイサーは通報のあった埠頭付近へとやってくる。湾を一望する海沿いに氷川はバイクを止め、辺りを伺った。アンノウン出現の報告があったはずだが、辺りは不気味なほどにひっそりとしている。
氷川はガードチェイサーから降りると、車体に格納されている専用マシンガン、GM-01を取り出し、構えた。それと同時にGM-01がアクティブモードとなり、射撃を可能とする。
ゆっくりと、氷川は慎重に辺り見回した。
しかし相変わらず、そんな氷川を嘲るかのように静まり返っている。耳に響くのは、自らの足音とG3-XXの稼働音。
そしてそんな状況がより、彼を緊張させた。
と、不意に一台の車が目に入る。どうやら、捜査一課が保有する警察専用車両のようだが、人の気配がない。アンノウンに襲われたのか?
氷川がそれを確かめるために車両に近づこうとした時だった。
嘘のように晴れ渡った青空から一筋の稲妻がはしり、氷川の胸を貫いた。
DATABASE
仮面ライダーG3-XX
警視庁本部アンノウン対策班の小沢澄子によって、G3-Xを元に更に進化開発された戦闘用強化外骨格。システム拡張アプリを元に、プログラムがオートで装着者の戦闘論理や、様々な対象のデータを解析し独自に進化するという新世代のG5の設計を基盤にして、小沢自らが手を加え再構築したG3-Xである。それに伴い、主要武器にも大幅な改良が加えられ、戦闘能力、火力ともに強化されている。