仮面ライダーアギト ー神との戦いー   作:アルペン

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システムの影

 日政大学。かつて沢木雪菜によって殺害された風谷伸幸が勤めていたという大学にやってきた北条は、学長の紹介で、生前の風谷伸幸と最も親しかったという同大学の一人の教授のもとにやってきていた。

 講師室にまで案内されると、北条は軽くドアをノックをする。そして奥からの「どうぞ」という声に従って、ノブを回した。

 

 カチャリと乾いた音がしてドアが開くと、そこには背広を着た初老の男が座っていた。神学科の並木雅之教授というらしい。

 北条が低頭すると、並木教授は人の良さそうな笑みを浮かべた。

 

「やあ、たった今伺った所ですよ。北条透さん、でしたかな? たしか警視庁にお勤めになっている」

 

「ええ、間違いありません」

 

 きちんとした態度で北条はそう返す。気さくな瞳をほころばせると、並木教授は頷いた。

 

「ご苦労様です。たしか、五年前に亡くなった風谷先生の事について私に聞きたいと?」

 

「はい。あなたがこの大学で一番、風谷氏と親しかったと聞きましたので」

 

「なるほど。しかし何故今頃になってそのようなことを? 警察の事情聴取に対しては当時、知っている言は全てお話したつもりですが……」

 

 怪訝そうな顔をする並木教授に対し、北条は首を振る。

 

「事件の事について、もう一度最初から考えてみる事になりまして。失礼でなければ、何度でもお話をお伺いしたいのです」

 

 北条がそう言うと並木教授も神妙な面持ちになった。

 

「なるほど。そういうことであれば力になりますが、それで一体どういった事を?」

 

「ありがとうございます。まずは、風谷氏の研究というものが一体どんなものだったのかをお聞きしたいのですが」

 

「風谷先生の研究内容……ですか」

 

 並木教授は目を瞑り、腕を組む。それから眉を潜めて口を開いた。

 

「詳しい事は私も聞かなかったんですがね。彼は自分の講義の……特に関係の深かった生徒達と特別な研究をしていたというのは聞いたことがあります」

 

「それは……どのような?」

 

「うーん……なんと言えばよいのか。こう言うと刑事さんは笑われるかもしれませんが、風谷先生は『超人を造りあげてみせる』とそんなことを。しかし確かにその研究は、城北大学の講師を勤めている著名な方々が目を見張るほどの成果をあげていたのですよ」

 

 並木教授が少し気まずそうな表情で言うが、北条は「ええ、信じますとも」とばかりに真剣に首を縦に振る。並木教授は「それから……」と続けた。

 

「偉く神話に興味をお持ちの方でね。いえ、専攻している分野を考えれば当然とも言えるんですが、一時期はまるで取りつかれるように神話の事を学んでいらっしゃいました。『世界中の神話は一つに繋がっている』なんてこともよく仰ってはいましたが。そう、ちょうど彼の奥さんが亡くなられた辺りからでしたかな」

 

「風谷氏の夫人が?」

 

「ええ。十年……いや二十年くらい前ですかね。錯乱状態に陥って自殺同然に亡くなられたとか。しばらくはかなり落ち込んでいられたんですが、ほら。彼には生後間もない娘さんもいたもんですから、私は普通に立ち直ってくれたものかと思っていたんですが」

 

 生後間もない娘とは……恐らくは風谷真魚のことだろう。それにしても自殺同然の死とは一体何なのだろう。二十年も前となれば自分が耳に挟んでいなくても不思議はないが。

 そういえば風谷伸幸を殺害した犯人、沢木雪菜の死因も自殺だった。これは単なる偶然なのだろうか。

 

 北条は自問するように目を細めた。

 

「それで彼、超人の研究と同時に神話の研究も進めていましたね。それも世界の始まりに関する物をとても好んでいらっしゃいました」

 

「世界の始まり……ですか?」

 

「はい。その事については私もよくは存じていませんが。或いは私よりも風谷先生の事を知っている彼なら、知っているかも知れません」

 

「は、その「彼」というのは?」

 

 北条が首を傾げると、並木教授は意外そうな顔をして話した。

 

「ああ、まだ聴取をなさっていないんですね。風谷先生の義理の弟さんですよ。城北大学の美杉教授です」

 

 北条はこの時、思わず心の中でため息をついた。

 その手があった。何故自分は、この風谷伸幸事件に興味を持った日から今まで彼に話を聞きに行かなかったのだろうか。風谷真魚や津上翔一、その存在に隠されて今まで考えてもいなかった。

 確かに彼ならば、多くを知っているはずだ。北条は思い至るとすぐに、並木教授に頭を下げた。

 

「ありがとうございます。早速向かってみます」

 

 忙しなくそう言う北条に対し、並木教授は笑みを見せた。

 

 ────────────ー

 

「G3-XXをしばらく稼働停止する!?」

 

 河野の話を聞き、小沢、尾室と共にGトレーラーへと舞い戻った氷川はそこで小沢から勧告された内容を思わず反芻した。小沢は気が乗らなそうに氷川の言に頷く。

 

「ええ、そうよ。しばらくはG3-XXの装着はやめなさい」

 

 小沢らしくない控え目な口調で言われ、氷川はますます意味がわからなくなった。今どき上層部から、「システムの実績が無さすぎる」だとか「経費のかさばりが問題である」だとか、ましてや「アンノウンを討伐するために使うべきではない」と言ったような寝ぼけた指摘があったとは思えない。そもそも、そういうことならばあの小沢管理官が大人しく、こうもしおらしくそれに従ったりなどするはずがないのだ。

 

 氷川は純粋に自分の疑問を問い詰めた。

 

「どういうことですか! まさか僕に何か問題があるんですか? それならそう言って下さい!」

 

 声を上げる氷川に対し、小沢は首を振る。

 

「そういうわけじゃないわ。ただね……」

 

 そこで一度言葉を切ると、言いにくそうにため息をついた後で再び口を開いた。

 

「今回は緊急性も相まってマニューバーや装着テストを行わずに出動する事になったじゃない。新しいG3システムに本当に問題がなかったかどうか、確かめられていないのよ。「また」何か問題点が浮上するんじゃないか、そんな可能性を頭に入れるべきだったわ」

 

「そんな! 聞きましたよ、G3-XXは理論上、誰にでも装着できるはずだ。小沢さんが作ったそのシステムに問題なんてあるはずが……」

 

「あなたは私を買いかぶりすぎよ。私の作ったシステムなんて問題がないことの方が少ないんだから」

 

 何故か小沢はそこで偉そうな口調になる。そんな彼女に対して氷川が一瞬ポカンと口を開け、尾室が怪訝そうに眉をひそめる。小沢はその空気に気がついてわざとらしく咳払いすると、説明を始めた。

 

「とにかく、誰にでも装着できるという事は、それなりに問題があるのよ。逆に言えば誰にでも自分を装着させるシステムって事だし」

 

 よく分からない理論を展開すると、小沢は続けて具体的な話に入る。

 

「G3-XXには自己拡張アプリが組み込まれている。その話はしたわよね? つまり自分で進化していくシステムなのだと」

 

「はい。……ですが、それが何か?」

 

「何かもヘチマもないわ。例えばね、光学迷彩を利用して目に映らない敵と対峙したりした場合、G3-XXのシステムは自分でその状況の打開を試みるの。空気の流れや光の屈折の具合なんかを計測して敵の本体の探知に入るわけ」

 

 なるほど、と氷川は頷いた。先方のアンノウンを手に取った最も分かりやすい例だ。

 

「ところが、G3-XXのシステム単独ではそんな高度な計算をいち早く終えることは難しいの。かと言って一々外部に他のアプリを接続していったりすれば、G3-XXそのものの足枷になってしまう。だから……」

 

 そこまで言って、小沢は物憂げにG3-XXを眺めやった。

 

「その演算の一部をあなたの脳に頼る訳。それがあなたに負担を与えているかもしれない、というのが今のところの推測よ。詳しい所を調べてみないとまだなんとも言えないけど」

 

 と、その話を聞いて尾室が奇妙そうに口を挟む。

 

「でも、氷川さんそんな難しい計算出来るんですか?」

 

 微妙に失礼な事をぶっ込む尾室に、小沢は首を振った。

 

「計算そのものを行うのは無理よ。そんなの人間の脳には限界があるわ。飽くまでも演算の手助けを行うわけ。それも頭の中の使われていない部分でね。微弱な電気信号を送受して、無意識の内に氷川くんに演算の手助けをしてもらっているのよ」

 

 小沢がそう言って自分の頭を指さしながら言う。しかし、氷川は最早そんな論理はどうでもいいとばかりに両手を広げて小沢に訴えかけた。

 

「しかし、G3システムがなければ僕達はアンノウンに対抗出来ません! 市民を見殺しにするんですか!」

 

「幸いな事に津上君がアギトとして戦ってくれている。今のところは、「また」彼に頼るしかないでしょうね」

 

 小沢がそう言うと、氷川は呆然としたように肩を落とした。

 

「そんな……」

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