仮面ライダーアギト ー神との戦いー   作:アルペン

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太陽の戦士

 いつまでもレストランに戻って来ない翔一に痺れを切らし、加奈の提案で彼女と美杉はお互いに翔一を探しに出ることにした。

 美杉は自分の家がある方面へと、そして加奈はそれとは逆方面にそれぞれ翔一の行方を探した。翔一が帰ってきた時のために、書き置きも残しておいた。

 

 最初は人目のある大通りから、次に彼が興味を持ちそうな場所へと足を運び、念のために裏の人通りの少ない道も目に入れておく。そういう風にして少しずつ遠くまで探しに行った。時たまに加奈が彼を探す時には大抵こうしていればすぐに見つかるのだが、どういうわけか今回はなかなかそうはいかなかった。

 

 そんな風にしてレストランから少し離れ、加奈が閑散とした住宅街を歩き回っていた時だった。

 

「っ!」

 

 唐突に、言葉にならない鋭い頭痛が加奈を襲った。締め付けるように、切り裂くように鋭い頭痛に加奈は思わずフラつく。なんとか塀に手をついて体勢をあずけたが、加奈は思わずその場に腰をつきそうになった。

 

 そしてそんな姿を見ながら、いつから加奈の背後にいたのか、忽然と立っていた漆黒色の異形の存在がゆっくりと近づいてきた。

 残忍そうな目つきで加奈の事を睨めつけながら、ゆったりと歩いてくるその存在に気付いて加奈は顔をこわばらせ、慌てて立ち上がった。もたつく足をふらふらさせ、痛む頭に視界をぼやけさせながら塀に手をついたまま小走りに逃げ出した。

 

 あれ……確か、アンノウンとかって。なんで? なんでこんな所に? 私を狙ってるの? なんで私を……なんで私、こんな目に……。

 

 定まらない思考で自暴自棄気味になりながら、加奈は恐怖という本能に従ってひたすら足を進ませた。

 

 ────────────ー

 

「ねえ」

 

 シケリオスから何とか逃げ切り、そのままバイクを走らせていた涼は後ろに跨った少女に声をかけられた。あまり話をしたい気分でもなかったので涼は最初は聞こえないフリをした。というより、実際にバイクのエンジン音と行き違う車の走行音とでほとんど聞こえなかったのだ。

 涼が何も答えずに黙っていると、少女は更に大きな声で再び言った。

 

「ねえってば!」

 

「なんだ」

 

 涼は今頃青アザになっているであろうお腹の辺りを庇いながら、それを感じさせないよう鬱陶しそうに言った。

 

「さっきのアレさ……」

 

「ああ」

 

「あれってもしかして、アギトってやつ? あたし、聞いたことあるんだけど」

 

 少女の口から飛び出したワードに涼は目を細める。

 

 アギト。あの姿は果たしてアギトなのだろうか。ある男は涼のことをアギトと同じ存在であると言った。しかし、本当に全く同じものなのか涼にはわからない。

 そもそもアギトとは何なのか、自分の変身とは何なのか、そんなことに実際に興味を持ったことも、そしてその余裕すら彼にはなかった。ただ普通に生きていく、それだけを求めて闘ってきたのだから。

 

 涼はぶっきらぼうに答える。

 

「さあな」

 

 短い返事に、一瞬少女は口をつぐんだ。それから少し躊躇しつつも聞いてくる。

 

「あんたさ、怪我してるんじゃないの?」

 

「だったらなんだ」

 

 涼は相変わらず愛想がない。さっきまでとは少し違った雰囲気だった。だが少女は怯まない。

 

「じゃあさ、うちに来たらいいじゃん」

 

 突然の申し出に涼はバイクを運転しながら少し顔をしかめた。いきなり何を言い出すかと思えば。

 

「うち?」

 

「うん。うちっていうか、教会でさ。あたし達みたいなのの面倒を見てくれる孤児院みたいなもんだけど。うちの神父さん優しいから、あんたの怪我も診てくれると思うんだけど」

 

「驚いたな」

 

 少女の申し出に、嬉しさよりも先にそんな感情が現れる。そして前を向いたまま言った。

 

「お前、俺が怖くないのか」

 

 涼にそう聞かれると、少女は少しハッとしたように目を丸めた。それから意外そうに口を開く。自分でも驚いたように言った。

 

「そうだね……怖くない。なんでかな」

 

 なんでと言われても、と涼は肩をすくめた。そしてバイクのアクセルを踏み込む。

 

「で、お前の家ってのはどこにあるんだ」

 

「お、何よ。来る気になったわけ?」

 

「お前を送ってやるだけだ」

 

 ────────────ー

 

「あ、翔一君!」

 

 美杉は自身の家の近くの商店街に、やっと彼の求めていた姿を見つけて声を上げて駆け寄った。翔一は何かに集中していたらしく、それまでこちらに気が付かなかったが、美杉が大急ぎで近寄って来るのを見て、少し驚いた。

 

「せ、先生!?」

 

 深刻そうな表情で走りよってくる美杉に翔一は返す。美杉は翔一の元まで来ると肩で息をしながら言った。

 

「はあ、はあ。こんな所にいたのか。君のレストランにもいない言うから探したんだぞ。とにかく大変な事が起こったんだ。君にも話を……」

 

 美杉がそこまで言った時、突然翔一の表情が厳しくなった。何かを察知したかのように宙に目をやりバイクのハンドルを強く握る。そしてヘルメットを締め直すと慌ただしく美杉に言った。

 

「すいません先生。俺、ちょっと!」

 

 それと同時に彼の返事も聞かずにアクセルを踏み込み、発進させてしまう。

 せっかく苦労して翔一を探し当てたというのに、さっさとバイクでどこかに行かれ、美杉は慌てて「ああ、翔一くぅん!」と追いかけようとしたが、バイクの速度に追いつけるはずもなく、一人取り残されてしまう結果となった。

 

 ────────────ー

 

 Gトレーラーに突然の一報が入る。

 

「一般人より、アンノウン出現との入電あり! アンノウン出現との入電あり!」

 

 その報に氷川が敏感に反応し、小沢に目をやった。しかし、小沢は腕を組んだまま動こうとしない。氷川はそれに駆け寄り、声を上げる。

 

「小沢さん!」

 

「…………」

 

 小沢は難しそうな表情で黙りこくったままだ。

 

「津上さんに頼っている場合ではありませんよ! 津上さんが現場に間に合う保証なんてありません! それに、一般市民が襲われていたら助けるのは僕達の仕事のはずです!」

 

「そうは言ってもね……」

 

「どうしたんですか、小沢さんらしくない! もしも僕のことなら大丈夫です、心配ありません! 僕を信じて下さい!」

 

 氷川の真摯な訴えかけに、尾室も感化されたのか同調するように言う。

 

「そうですよ! いつも男みたいに図々しくて頑固なのに、らしくないですよ! 『男は気に入るか気に入らないかで判断しろ』って小沢さん言ってたじゃないですか!」

 

 尾室の言葉に、一瞬小沢はジロリと彼を睨んだ。すぐに尾室が「やべ、言いすぎた」とばかりに白々しく目をそらす。が、小沢は尾室に対して追求するような事はせずに、おもむろにPCの上のマイクを装着すると。

 

「Gトレーラー、出動します」

 

 その声に、氷川が笑顔を見せた。しかし、小沢は飽くまで神妙な面持ちで氷川に警告する。

 

「そこまで言うなら止めはしないわ。でも、私が命令したらすぐにシステムから離脱すること、いいわね?」

 

 小沢にそう言われ、氷川は力強く頷いた。

 

「わかりました」

 

 ────────────ー

 

「加奈さん!」

 

 直感にも似た感覚に従ってバイクを走らせた翔一は、人通りの少ない住宅街の道路で、今まさに異形の怪人に襲われんとしている加奈の姿を見つけ、声を上げた。

 

「津上さん!」

 

 翔一の姿を見て、加奈も安堵したようにその名を呼んだ。翔一はそのままバイクで加奈とシケリオスの間に割り入って加奈を庇おうとした。

 しかしシケリオスは翔一の存在を些事とばかりに、そのまま加奈に襲いかかろうとする。

 

「きゃっ!」

 

 シケリオスの振るった腕が加奈を襲い、そして彼女が思わず両手で体を覆って身を守ろうとした。それと同時に、一瞬だけ彼女の腕が金色の人外のものへと変わる。加奈はそのままシケリオスの一撃をその腕で受けて、吹き飛ばされてしまった。が、そのアギトの力のおかげで目立った怪我を追うことはなかった。

 翔一は慌てて倒れ込む加奈に駆け寄り、声をかける。

 

「加奈さん! 大丈夫ですか!」

 

「つ、津上さん」

 

 翔一は加奈を何とか立たせると、「逃げてください!」と声を上げた。そして、シケリオスに対し向き合う。

 加奈はどうしたものかと戸惑いながら二、三歩後ずさり、弱々しく翔一に声をかけた。

 

「で、でも津上さんは……」

 

「俺なら大丈夫ですから!」

 

 翔一はそう言って、腰の横で両手の拳を握り、力を込めた。それと同時に、翔一の腰にドラゴンズアイを宿した進化のベルトが現れる。翔一は両手をゆっくりと胸の前で交差させると、思い切りそのベルトの両端を叩いた。

 

「変身!!」

 

 それと同時に翔一の姿が眩い白銀の光に包まれる。そして、その聖なる光が晴れるのと同時に太陽の力を身にまとった光輝の戦士、アギト・シャイニングフォームが姿を表した。

 

「加奈さん。俺、どんなに辛くてもどんなに苦しくても今が楽しいんです。だから加奈さんも、何か辛いことがあったら俺、絶対に力になりますから」

 

 まるで加奈の心境を見抜いたかのような言葉に、彼女は思わず息を呑んだ。

 

 どうして。津上さん、あなたはどうしてそんなに強くいられるんですか……。

 

「だから、今は早く逃げて!」

 

 翔一はシケリオスに相対し、体に力を込めながらそう言った。

 

 ────────────ー

 

 ガードチェイサーに跨り、入電のあった現場付近へとやってきた氷川は近くの野外駐車場にバイクを止めると、慎重に辺りを見回した。今のところ周囲はシンとしていて、何か異変があるようには見えない。

 氷川はガードチェイサーから降りると、アタッシュモードのままGX-55を取り外すとガトリングモードに変形して、それを構えた。

 

 万全の注意を払いつつ、駐車場全体を見回した。すると、駐車場の中央辺りに一人の男が立っているのに気づく。さっきからそこにいた、と思うべきだろうが今まで全くその存在を気取ることが出来なかった。まるで忽然と今、その場に現れたかのようだ。

 

 その男は上下灰色の衣服に身を包み、色白で髪が長く、一見すると女性のようにも見える中世的な顔立ちだった。無表情に、あまりにも超然と佇むその姿は、それ故に極めて異質なものに思えるほどである。氷川はそこで思わず息を呑んだ。その男の姿を以前にも目にした事があったからだ。

 

 あれはそう、最後の戦いの日のことだ。さそり座の人間達の抹殺を引き起こしたという存在。その男に非常に似ているように思えた。いや、着ている服以外は全く同一と言っても過言ではないだろう。

 

 氷川は思わず声を上げた。

 

「お、お前は……!」

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