仮面ライダーアギト ー神との戦いー   作:アルペン

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第七話「魂の天秤」
運命の呼び声


 しかしその男は彼の言葉に答えることはなかった。氷川のことを一瞥すると、最早用はなしとばかりにこちらに背を向け無情に歩き出した。

 

「待て!」

 

 氷川がその背中を追いかけて声を出した時だった。

 

 突然、轟音と共に野外駐車場の塀が砕け散った。

 

 駐車場を囲うコンクリート塀の破片が飛び散り、それと共にシャイニングフォームとなったアギトが姿を現した。アギトはそのままフラフラとよろめき、背中から地面に倒れこんだ。どうやら何者かに突き飛ばされ、その勢いのまま塀を突き破って来たらしい。

 

 地に手をつきながらも何とか立ち上がろうとするアギト。それと共に崩れた塀の向こう側から漆黒色のアンノウンがゆっくりとその姿を見せた。

 その姿に氷川は、咄嗟に手に力を込める。

 

 それからすぐにさっきまで男が立っていたはずの場所に目線を戻した。しかし、氷川が一瞬目を離した隙にその男の姿は忽然と、まるで蒸発してしまったかのように消えていた。

 氷川は内心歯ぎしりしながらも、アギトと共に目の前に現れたアンノウン、シケリオスへの対処を優先し、相手に対してGX-55を向ける。対してシケリオスは即座に氷川の存在に気づくと、その引き金を引かせるまいとひとっ跳びで彼の眼前にまで着地し、間合いを詰めた。

 

「はっ!」

 

 氷川は近距離まで近づいてきたシケリオスに対してGX-55を鈍器として薙ぎ払う。シケリオスはそれを簡単にかわすと、右の肘でそれを叩きつけてはじき飛ばした。氷川の手元からガトリングガンが離れ、地に転がる。

 

「フン!」

 

 更に続けてシケリオスの左拳によるアッパーがG3-XXの装甲を襲った。火花と共に衝撃が伝わり、その瞬間からG3システムによる拡張アプリが演算によってその衝撃のクッション、発散を企図する。氷川は後ろによろめきながらも臀部に装着されたGM-01を引き抜くとシケリオスに向けて構えようとしたが、シケリオスは即座にそのサブマシンガンを蹴り上げて氷川の手から弾く。更にそこから回し蹴りの容量で体を捻り、逆足で氷川の腹部に突き蹴りを叩き込んだ。

 

「うああっ!」

 

 ダイヤモンド硬度など優に上回る強堅な装甲によって守られているはずの氷川の意識が、冗談抜きで飛びかけた。氷川はそのまま蹴り上げられて宙を舞い、朦朧とする意識の中でシステムの拡張アプリだけが必死に演算を続けている。

 

 妙に長く感じられた滞空時間の後に、氷川はガシャンと背中から地面に叩きつけられ、痛みに喘いだ。視界が霞み、喉の奥の方から何かがこみ上げてくる。Gトレーラーからの小沢の声が必死に氷川に何かを訴えかけている気がするが、それに耳を傾けている余裕はない。何とか体を起こそうと両手両足で立ち上がろうとするが、膝を着いた状態から体を起こす事が出来ずに再びその場に倒れ込んだ。

 

 立ち上がれないでいる氷川に追い討ちをかけようとシケリオスは拳に力を込める。それを見かねたように、今度は横からアギトが不意打ちに近い形で突っ込んで押し込みをかけた。

 

「うおおおお!!」

 

 シケリオスは対応しきれずに数歩後ずさったものの、グッと踵を踏みしめて踏ん張るとアギトを膝蹴りで押しのけた。

 

「くっ!」

 

 腹部を抑えて後ずさりながらも、アギトは更にシケリオスに対して身構えると、残像を引きずりながら流れるような動きでその敵に挑みかかる。そしてその胸部、腹部に続けざまに渾身の拳を叩き込むと、最後に右足の蹴り上げを放った。流麗な動作と強力な一撃がシケリオスを翻弄する。

 

「ヌッ……」

 

 アギトの怒涛の連打を食らい、さしものアンノウンも腹部を抑えてうめき声をあげた。アギトはそれを見落とさず、畳み掛けるように拳を放つが、シケリオスもさすまいと体勢を立て直し、アギトの右蹴りと左のひじ打ちを腕で受け止め、組み合う。

 

 しばしその体勢のまま均衡を保った後、グッとシケリオスが押し込みをかけてアギトを後ずらせ、塀の壁に背中から叩きつけた。それからすぐに今度はアギトが攻勢に入り、入れ替わるようにシケリオスが壁を背にする。追い詰めたシケリオスに対して、アギトはこれでもかとばかりに力を込めて拳を叩き込んだ。

 が、シケリオスはその拳を受け止めると、剛力にものを言わせてねじ上げ、加えて力を込めた肘、裏拳、膝蹴りを続けざまに見舞い、最後に捻じあげた腕からアギトを軽々と放り投げた。

 

 宙を舞い、胸から地面に打ち付けられるとさしものアギトももんどりを打ち、痛みに喘いだ。立ち上がれないでいるアギトに対して、シケリオスはゆっくりと歩み寄った。

 

 ──────────ー

 

「ここか」

 

 少女の案内に連れられて、彼女の言う「うち」にやってきた涼は声を漏らした。確かにそこは西洋宗派の教会のようだったが、しかし彼はどこかでこの教会を目にした事があるような気がしていた。

 

 物思いに耽るように教会を見上げる涼に、少女は言う。

 

「何やってんの?」

 

「いや……何となくな」

 

 曖昧に返す涼に、少女は不思議そうに首を傾げてから涼を手招きした。どうやら教会の裏の方に入って行こうとしているらしい。

 

「着いて来て」

 

 どうやら彼女は涼の怪我を診て貰うという提案を、律儀にも果たそうとしているらしい。涼としては彼女を送迎できたわけなのだからそれで充分であり、これ以上着いて行ってやる義理もないのだが、折角の申し出を頭から断る必要も無いかとため息混じりにバイクを降りた。

 

 少女はそれを確認すると教会裏手の道に入り込み、そこを進んで行った。やがて正面入口とは反対の位置にもう一つの裏口のような、というより教会と繋がったもう一つの別の建物の入口のような物が見えてきた。少女は足を忍ばせるようにゆっくりとその入口に近づいて行く。

 

 しかし、彼女がそのノブに手をかけようかという時、突然ガチャリと扉が内側から開いた。そして一人の少年が中から現れる。恐らく少女と同い年くらいであろう彼は、その姿を見て目を丸めた。そして思わずと言った調子で声を出す。

 

「さやか、どこ行ってたんだよ」

 

 その瞬間、さやかと呼ばれた少女の方は「まずったな」とばかりの表情をした。少年は更に彼女の肩越しに後ろから着いてきていた涼に目を移した。そして、先ほど以上に更に大きく目を見開いた。

 

「あれ!? あ、あの時の……!」

 

 そう言って自分を指差してくるその少年に対し、涼は何のことか、人違いかと一瞬顔を顰めた。が、すぐに涼の脳裏に三年前のいつの日かの事がよぎった。

 

 あの夏の日、全てから逃げ出そうとしていた少年の姿が、ぴったりと彼に重なった。随分大きくなっていたが、間違いなかった。彼を、葦原涼を確かに一度、救ってくれた少年。

 

 そこにいたのは浅野一輝だった。

 

 ──────────ー

 

 何も見えない。何も聞こえない。

 目の前には真っ白な、ただただ真っ白なだけの終わりの見えない世界。

 

 ここはどこ? もしかして、天国? 

 

 ずっとずっと、気の遠くなるほどの昔からここにいたようなそんな気分だ。頭の中で何かが繰り返し、まるでビデオのテープのように流れている。

 この映像は何? この記憶は何? 

 

 誰かが争って、誰もが争って、世界が始まって滅んで、また生まれて終わって。時が流れて、星が輝いて。多くの命が生まれて、死んで。何もかものイメージが早送りにされたフィルムのように単調に流れていく。

 

 嫌だ嫌だ、私はこんなの知らない! やめて、やめて、やめて。助けてお父さん、助けておじさん、助けて。助けて誰か、誰か。助けて翔一君! 

 

 

 

「いつか、遥か未来……人間の中に……私の力が覚醒する」

 

 誰かが喋っている。誰かと誰かが、向かい合っている。

 

「その時、人はお前の物では……なくなるだろう!」

 

 力が、力そのものが喋っている。

 

 

 

「そう、君の中でもそうなったように」

 

 気がつけば目の前に、純白の衣服に身を包んだ一人の青年が立っていた。

 どこかで出会ったことがあるような、むしろ生まれた時からずっと側にいたような気のする青年だった。一体彼が誰なのかは分からなかったが、その顔には静かな憂いが現れていた。

 

「君達にもう一度、会いたいと思っていました」

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