「うっ……ぐあっ」
アギトとなった翔一は全身の痛みに呻きながらも地面に手をつき、体を起き上がらせる。既に彼の眼前にまでやってきていたシケリオスは、優位な体勢から拳を振るおうとする。
ドトン!
しかしその時、一発の発砲音と共にシケリオスが怯んだ。音のした方を見やると、膝と片手で体を支えながら満身創痍の氷川がこちらに向けて強化サブマシンガンGM-01を構えていた。
ドトン!ドトン!ドトン!
更に続けてその引きがねが引かれる。それと同時にシケリオスの体に弾丸が命中し、体制を崩す。なおも氷川は、続けて半分本能的に無我夢中で引きがねを引いた。着弾と同時にシケリオスが後ずさり、何度も体を傾ぐ。明確なダメージと言えるかは分からないが、少なくとも牽制には確実な効果を発揮していた。
悶えていたアギトは、氷川のその姿に我に返る。そして氷川の牽制にシケリオスが怯んでいる間に体制を立て直し、両手を腰部に据えるように構えた。同時に、彼の意思を感じとったベルト中央の賢者の石が錬成を始める。
そして、三年の月日をかけて再生されたシャイニングカリバーが白銀の輝きを放ちながらアギトの両腕へと収まった。
アギトは優雅な所作で二振りの湾曲した剣を構えると地面を蹴り、残像を置き去りにしながら一気にシケリオスへと詰め寄る。白銀の光刃が一閃し、シケリオスを斬り裂いた。……かに思われた。
「ンンン!」
シケリオスは一瞬の内にエンジェル・ハイロウから変則的に取り出した細身の剣「無限のエストック」を構え、シャイニングカリバーを受け止めていたのだ。
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人の手を離れて既に数年が経過しようかという、寂れた廃病院の屋上に灰色の青年は立っていた。静かながらもどこか威厳を感じさせる佇まいで風向きに目を細め、何かに意識を向けている。
やがて彼は眉根を寄せ、憂うように虚空を見つめると、不意に静かに空を見上げ仰ぐように両手を広げた。そして、包容するかのようなポーズと共にそっと目を閉じる。すると、まるでその所作に応えるかのように青年の立っている地点の上空を中心に、天に淀んだ雲が渦巻きはじめた。それは、みるみるうちに当たり一体を覆い隠し、今にも嵐を呼ぼうかというほどの曇天に変える。
青年はその様子を眺めながら、更に静止した姿勢を続け、天を仰いだ。と、その渦雲から突き破るように一つの青白い球体が現れ、舞うように急降下しながら青年の前にまでやってくる。そして、廃病院の屋上に達すると静かに動きを止め、輪郭を歪めるとその形が段々と人型をとったのだ。
「待ちわびましたよ」
その姿を見て、青年が薄く微笑む。姿形を変えた球体は、まるで中世西欧の貴族の法衣を纏ったような異形の人間ともいうべき外見をとった。筋肉質な肉体に大仰な装飾品やブーツ、二本の短い角を生やした動物を模したマスクのようなものを装着し、また、アギトに似た黄色の大きな複眼と、人に近い無機質な口元を晒している。更に背には天上人かと見まごうほどの大きな翼を生やしていた。
かつて、世界の創造に際して創造主が自らの分霊として生み出した原初の存在、七人いるとされる大天使「エルロード」の一柱。世界において地と空と海を分かつ雲の領域と、そこに潜む雷の支配を任された存在、「
青年はその姿を前に物静かな声音で言う。
「やはり人の持つ力は目にあまります」
その言葉に、雷のエルはピクリと反応を示した。
「まずはアギト、忌まわしい力に完全に覚醒した者から滅ぼしましょう。いずれは予兆のある者、その血を引く者……」
青年は手に力を込め、睨みつけるように空を見上げながら続ける。
「多くの人間は遠くない未来アギトになります。そしてその可能性を持たない人間も、今やそれに劣らない力を持っている」
そしてそっと、眼前のエルロードへと目を向けた。
「天を覆い隠しなさい。滅ぼしましょう……人類を」
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「大雑把に言って、今日の天気は晴れかな」
草原沿いの路上にバイクを止め、ヘルメットを外して明るい空を見上げたその男はポツリとそんなふうに呟いた。下は黒いレーシングパンツ、上は革のジャケットを着てパーマがかった髪を茶に染めている。元はスラリとした体型なのだろうが、ストレスのためか少しやせ細ったように見え、その目の下にも隈が浮かんでいた。
彼の名は国枝東、心理学を専攻する一端の教授だ。ちなみに好物は羊羹だとか。
国枝は苦々しい笑みを浮かべて空を見上げたままため息をつく。そして誰かに語りかけるように独白した。
「そういえばあの日も、こんな空だったかな」
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刃と刃がぶつかり合い、幾度となく火花が散った。アギトの振るう双剣、シャイニングカリバーは俊敏かつ流麗な動きでシケリオスを補足し、追撃する。シケリオスは辛くも受け止めてはいるものの、完全に攻勢に転じているアギトが有利だ。
更にシャイニングカリバーの破壊力は数度打ち合っただけで、シケリオスの武器無限のエストックを叩き折るほどのものだった。その度にシケリオスはエンジェルハイロウを展開し、新たなる剣を手に取る。正しく無限に出現する長剣を操り、シャイニングカリバーの猛追を防いでいるのだ。
更にアギトを援護するようにG3-XXがマシンガンでシケリオスを射撃する。
バシュン!バシュバシュン!
その連携に相手が怯んだ一瞬の隙を突いて、アギトは無限のエストックをシャイニングカリバーの柄ではじき飛ばすと、そのまま回転蹴りをシケリオスの胸部に放つ。速さと重みの併さった会心の一撃に、シケリオスの体が吹き飛んだ。
「グウッ!」
初めてダウンを食らった漆黒の怪人は、腹部を抑えながら体制を立て直そうとする。そのまま膝をついて立ち上がると、恨めしそうな目でアギト、そしてG3-XXを見やり、形勢不利と見計ると深く膝を折って思い切り跳躍し、二人の前から逃走した。
本能的にそれを追いかけようと一歩前に進み出ようとした翔一だったが、背後から「うっ」という氷川のうめき声を耳にして咄嗟に振り向く。重厚な鎧を纏い、前のめりの体制になっていた彼はその途端、気が抜けたと言わんばかりにその場にくずおれた。
翔一もそれを見て変身を解除して慌てて氷川に駆け寄る。
「氷川さん!!大丈夫ですか!?氷川さん!!」
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「氷川くん!?ちょっと、返事をしなさい!!氷川くん!!」
氷川がうつ伏せに倒れることで、モニターの映像が暗転する。その様を見て小沢は通信用マイクに向かって必死に呼びかけた。しかし、気を失っているのか答える余裕もないのか、氷川からの返事はなく、小沢は苛立たしそうに机を叩いた。
「氷川くん……」
その様子を見て尾室も難しそうに腕を組む。
「氷川さん、今回のは相当キツかったみたいですね」
「……」
無言で同調を示す小沢。そして、どちらからともなく二人してため息をつくと、おもむろに同時に椅子を立ち上がった。
「あれ、どうしたんですか?」
「あんたこそ、なに」
「あ、いや、僕は別に。ちょっと……」
「だから、ちょっと何よ。はっきり言いなさい」
余裕のない小沢にぐっと詰め寄られ、尾室は息を飲み込んだ。それから、少しびくつきながらも答える。
「いや、その。やっぱり氷川さん一人でアンノウンに立ち向かって行くのって、ちょっと無理があるんじゃないかって」
「なんですって?」
「あ、いや!氷川さんの実力に問題があるっていうわけじゃなくて、でもアンノウンみたいな危ない奴らの相手を氷川さん一人に任せっきりなのは、ちょっとどうかなって……」
ためらいがちにそんな事を言ってくる尾室に、小沢も眉を潜めながら数度首を縦にふった。
「氷川くん一人に、ね。なるほど、それでどうしようって?」
「だから、G5部隊ですよ!そもそもこういう時のために調整してあったんですから!」
尾室はいつになく勢い込んで言う。
「あれがあれば、氷川さんの助けにもなるんじゃないかって」
「でも確か、あのシステムはまだ凍結されてるんじゃなかった?」
「はい。まだ色々あるみたいで上層部の許可も降りなくて。でも、僕、ちょっと掛け合ってみようかと思うんです!」
更新が遅れてしまい申し訳ありません。
各話の後書きにてDATABASEとしてオリジナルアンノウンの簡易な紹介を書きました。興味のある方は覗いてみて下さい。