仮面ライダーアギト ー神との戦いー   作:アルペン

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恩と心

「お前……」

 

 涼は一輝と目を合わせたまま、言葉を詰まらせる。一輝の方も、何か口を開こうとはしなかった。二人のその姿を交互に見やって、さやかは不思議そうな表情になる。そして、脇にいた一輝を小突いてひそひそ声で問いかけた。

 

「なに、もしかして知り合いなの?」

 

 さやかの言葉に一輝は首を傾げる。そして今一度、涼の静かな表情を見やってから首をかしげた。

 

「どうかな。知り合い……ってほどじゃない」

 

「じゃあなんで見つめあってんのよ」

 

 さやかが眉をひそめると、一輝は肩をすくめてそれに応える。それから涼に対して声をかけた。

 

「なんでこんな所に来たの?」

 

 涼はさやかを指差しながら言う。

 

「そのガキを送りに来ただけだ。お前がお守りしてるのか?」

 

 涼のそんなセリフにカチンと来たのかさやかが歯を向いたが、二人はそれには頓着しなかった。続けて今度は涼が一輝に聞き返した。

 

「お前こそ、こんな所で何してる?」

 

「暮らしてる」

 

「どうして?」

 

「……いないから」

 

 一輝は言いにくそうにボソリと呟く。涼は顔をしかめ、同時に脇にいたさやかも「いいの?」とでも言いたげに一輝に目をやった。

 

「父さんも母さんもいないから。ここで暮らしてる」

 

「ここは孤児院って柄か」

 

 涼は協会から繋がる建物を見上げて、怪訝そうに言う。それに対して一輝は首を横に振った。

 

「元々は違う。違うところにいたんだよ。でも、駄目になったから戻ってきた」

 

「駄目になった?」

 

 涼は一輝の言葉に目を細める。一輝はそれに頷いて拳を握りしめた。それから地面に目を伏せて苦々しげに口にする。

 

「みんな、やられたんだ。あいつらに……」

 

「……あいつら?」

 

 ──────────ー

 

 アンノウンとの戦いを終え、氷川と別れた翔一は1人バイクに跨っていた。エンジン音に揺られながら河原沿いの舗装道を走っていた翔一は対向から見覚えのあるバイクがやってくるのが見えた。向こうはこちらの姿が目に入りスピードを落としているようだ。翔一もそれに倣って、バイクのブレーキを握る。

 

 お互いが間近な距離で静止すると、まず相手側がヘルメットを外す。そして痩けた頬を綻ばせて笑った。

 

「やっぱりお前だったか、翔一」

 

 その声を聞いて初めて翔一はハッとする。聞き覚えのある声。そうだ、自分の記憶に比べてかなりやせ細ってはいるが、相手は彼の見知った人間だった。

 

 翔一は自分もメットを外すと、驚きと喜びが入り交じったような表情で口を開く。

 

「国枝先生……!」

 

 国枝東は応えるように右手を上げた。

 

「よっ」

 

 ──────────ー

 

 同じ頃、小沢澄子は先の戦いで倒れた氷川を城北大学病院の検査に送って来たところだった。相変わらずというべきか、氷川は頑なに検査を受けるほどのものではないと言い張ったが、当然小沢がそれを了承するはずもなかった。

 

 綿密な検査が必要とのことで、その待ち時間の間、小沢は懐かしい母校にある1人の恩師の講師室にまでやって来ていた。

 

 高村光介。かつて小沢が、荒れ狂うG3-Xを人の物とするため、彼女の人生の中で唯一、自分の設計図完成のために手を借りた人物だ。彼は彼女が最も尊敬し、そして同時に最も嫌っている人物でもあった。

 

 日本のトップ頭脳の1人とは言え、自分から見れば所詮は凡人ではないか。そんな風に思ったこともあった。自らの子供にも等しいシステムに、他者の力を借りるなど。そんなプライドもあった。

 

 だがそう言う意味では彼は「凡人として」、小沢よりも優れていたのだ。小沢の人間観、氷川誠や尾室隆弘、或いは北条透らの人間らしい部分を評価する一面は、彼から教わったものだと言ってもいい。

 

 小沢は高村の講師室の前にまでやってくると足を止めた。やはり少し気まずい。2人は決して良好な関係という訳ではないのだ。例えば自分が改まった態度を取ったとしても、向こうがどう出るかなど分かったものではない。自分から見れば凡人、されど一般的には間違いなく天才の部類に入る人間だ。優秀な人間に特有の嫌みで意地悪い性格(ちょうどあの北条透にも言えることだ)が彼にも見える。

 

 私は君が嫌いだ、とはっきり宣告された時から、嫌悪感よりも苦手意識の方が先行してしまっている。なんとなく顔を合わせづらい。面倒くさい。嫌いならば会わなければいい話なのに。

 

 でも今はそうも言っていられない。小沢は一つ息を吐くと、講師室の扉をノックした。

 

 コンコン

 

 無感情な音が二度、静かに響く。続けて。

 

「どうぞ」

 

 と中から年老いた声が聞こえた。

 

「失礼します」

 

 小沢はガチャリ、とドアの取っ手を引き、中に入る。ガラス張りの壁に囲われ、コンピュータの置かれた狭い室内に、高村はこちらに背を向けて立っていた。

 

 それからゆっくりとこちらを振り向き、小沢の姿を目にすると、一拍置いてからため息をついた。

 

「……君か」

 

 あ、やっぱり来なければ良かったな、と小沢は痛感した。気まずい静寂が辺りを包み込む。それを取り払うように小沢は自分から口を開いた。

 

「あまり驚かれていないようですね」

 

「ん?」

 

 高村は小沢の言葉に気が乗らなそうに首を縦に振り、ガラス張りの向こうを眺めた。

 

「アンノウンの事は聞いていたからね。君がまた私に泣きついて来るんじゃあないかと、不安でいられなかったんだよ」

 

 嫌味な物言いに、小沢は少しムッとした。この辺りの表情を隠すということが、彼女はすこぶる苦手だ。

 

「君は私に学生時代の感謝を述べに来るような性格ではないからね。となると、ここに来た目的は大体想像がつく」

 

「お察しの通りです」

 

 小沢は高村の言葉にブスッと返す。高村は苦笑いしながら頷いた。

 

「まったく、君も酔狂だな。わざわざアドバイスを頼みに来る相手が私とはね」

 

 ──────────ー

 

 警視庁本庁捜査一課は、かつてない凄惨な事件への応対に追われ、騒然としていた。慌ただしい足音とともに、緊急招集された刑事たちが捜査本部へと入ってくる。あまりに突然のことにまだ事態を把握しきれていない刑事がヒソヒソと耳打ちをしあったり、配られた資料の表紙を見つめながら眉を潜めたりと落ち着きがない。

 可能な限りの人数が集められた本部は異様な空気を醸し出し、それに向かい合う重役幹部の表情もいつになく神妙だった。前方には大きなホワイトボードが二つ並べられ、事件に関する様々な情報が書き込まれている。

 

 所定の全員が着席したのを確認すると、緊迫した空気の中で幹部の1人が口を開いた。

 

「既に聞き及んでいる者も多いかと思うが今回の案件は言うまでもなく、先日起こったアンノウンによると思われる大量殺人についてだ」

 

 苦々しい口調に応えるように第一線を任されている河野が立ち上がり、概要の説明をはじめる。

 

「今回の事件、未だに被害者の身元を把握途中という段階ですが、その数は確認されているだけで東京のみならず関東、東北、北海道から四国、その数509名」

 

 改めて告げられるその数字に、集まった刑事たちは思わず息を呑んだ。中にはお互いに顔を見合わせる者達までいる。河野はそれぞれのリアクションには頓着せずに、自身の手帳を眺めながら先を続けた。

 

「被害者達の死因ですが、こちらがかなり奇妙です。検死結果によりますと、過労や栄養失調などの要因から至る餓死に近い、とのことで」

 

 河野の説明を聞き、居合わせた刑事達が揃って顔をしかめる。重役幹部たちも事前に報告を受けていたにも関わらず、再び苦虫を噛み潰した。

 

「これだけの人数が街中で同時にこの死因によって死に至る可能性は、恐らくゼロでしょう」

 

「つまり……」

 

 老齢の幹部は腕を組み、河野の言わんとしてる言葉を引き取る。

 

「不可能犯罪……ということか」

 




投稿遅れて本当にごめんなさい!
かなり忙しくてなかなか執筆出来ませんでした!
お気に入りや評価ありがとうございます!
これからも頑張りますので何卒宜しくお願いします!
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