「殺しですか?」
事件現場であるという霊園に到着した北条は、車を降りると河野刑事に声をかけた。仕事の早いことに、もうすでに辺りには黄色テープが張り巡らされ、恐らくは遺体のあったのであろう辺りは完全に立ち入りを禁止させられている。河野は北条の言葉に頷き、手帳を取り出して言う。
「ああ、恐らくはそうなんだが、どうも妙でな。鑑識によると被害者の死因は恐らく溺死だと言うんだよ。こんな水のない場所でだぞ? どうなってるんだか」
「水のない場所での溺死、ですか……ウッ!」
突然、北条は側頭部を抑えて顔を歪める。
「おい、どうした? 具合でも悪いのか?」
「いえ、その死因を聞くと、どうも頭が……」
「なんだそりゃ。お前、あんまり一人屋なもんで、ちょっとおかしくなってるんじゃないか? ん?」
「いえ、とにかく被害者は、ここで奇妙な殺され方をした。そういうわけですね」
「ああ、だが今回は時間が時間だけに目撃者がいたらしくてな。それによると、どうも犯人らしい者の外見は普通の人間ではなかったらしい」
「普通の人間では……ない?」
北条は思わず唾を飲み込む。河野もその言葉に神妙そうに頷き、不安げに言った。
「ああ、まさかとは思うんだがな。血縁関係者の保護……か」
河野と北条は目を合わせる。そして静かに頷いた。
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「翔一君に会ってきた?」
美杉家に帰って来た真魚は、美杉教授と太一に翔一のことを話した。美杉教授は驚いた様子で真魚に尋ねる。
「それで、どうだった? 彼は元気にやっていたかね?」
「うん。具合が悪そうには……見えなかったけど」
「ふーん、そうか翔一の奴がね」
太一が腕を組んで頷き、知ったような口をきく。
「なんだ、それはどういう意味だ、太一」
「あいつでもたまには、仕事をサボりたくなることもあるってことだよ」
うんうん、と納得したような太一に真魚は首を傾げた。
「そんな感じじゃなかったけど」
そう言って、真魚は暗くなった庭に目をやる。今では美杉家が日当で世話を引き受けているキュウリのツタが、なんだか少ししおれているように見えた。
──────────ー
二十時をすでに回った寒空の下、北条、河野は霊園で見つかった変死体の親族の身辺警護を、主に独断という形で行っていた。対象の男は今、湯島聖堂の敷地内を歩いている。二人は違和感のない程度に物陰に隠れつつ、目配せをしあって対象から目を離さないようについてまわった。
「本当に現れるでしょうか」
「さあな。現れない方がいいのは間違いないんだが」
河野はため息をつきながら、ふと男の方を注視する。男の動きが止まっていた。まるで何か奇異なものを見たかのように腰を引かしたまま、固まっていたのだ。
と、なんと突然、男が腰を抜かしてその場に倒れこむ。見れば男の足下の近くから噴水のように水が吹き出していた。
そして突然、吹き出した水の中から異形の姿をした銀色の怪人が現れたのだ。
「う、うわあぁぁぁ!」
男の悲鳴があがる。二人は慌てて、腰を抜かしている男に駆け寄った。異形の姿が間近に捉えられる。
「こ、こいつは……」
北条は思わず声をあげ、腰にさした拳銃を取り出した。河野は、必死に後ずさりをして逃げようとしている男を立たせると、
「早く逃げろ!」
と叫び、自分も銃を抜いた。二人が同時に引き鉄を引く。
しかし、銃弾はデシムペスの前で見えない壁にぶつかったように静止し、そしてなんと消滅してしまった。異形の怪人デシムペスは二人の方を一瞥したが、意にも介さずに、逃げて行った男を追おうとする。二人がなおも発砲するが、銃弾はデシムペスに届いてすらいない。
デシムペスが鬱陶しそうに右手を一振りさせると、それだけで、当たった北条の体は何と数メートルも吹っ飛んだ。彼は背中を木の幹に打ち付けて顔を歪め、すぐに力なく項垂れた。
「北条!!」
河野は気絶した同輩に向かって叫ぶが、返事はない。震える手で拳銃を構え直そうとするも、デシムペスに左手で払われ、拳銃を吹き飛ばされてしまう。河野はゆっくりと後ずさりながら歯を食いしばった。
万事休すか……。
その時、辺りにバイクのエンジン音が響き渡った。
物凄い勢いで、バイクライトの光が近づいてくる。デシムペスはライトの光を振り返り、そして最早、河野の方など見向きもせずに静かに歩き出した。近づくにつれて、光に包まれたその全貌があらわになる。
そこに現れたのはマシントルネイダーに跨ったアギトだった。
「アギト!」
デシムペスはその姿を見て叫ぶ。アギトはそのままマシントルネイダーのアクセルを踏み込み、デシムペスに突撃する。衝撃とともに、デシムペスの体が大きく宙を舞った。
地面に叩きつけられたデシムペスは、その衝撃に体を反らせて痛みにうめく。しかしすぐに立ち上がり、唸り声をあげて襲いかかった。
アギトはマシントルネイダーを飛び降り、襲い来るデシムペスの右腕の触手を身を低くして交わすと、続く左手の触手を打ち払い、胸に一撃を叩き込む。デシムペスは後ずさりながらも再び右手を払うが、完全に見切ったアギトにその腕を掴まれ、そのまま左の脇腹に蹴りを食らった。
「グガ!」
デシムペスが思わず、口を開いて唸る。アギトは敵の右腕を離すと、さらにその顔にパンチを食らわせる。デシムペスは大きく体勢を反らせて後ろに下がった。
しかし、すぐに立て直すと胸を張って、悠々と首を回すような仕草をする。何と、アギトのパンチ、キックによって与えられたデシムペスへのダメージは、その凄まじい回復力によって即座に再生され、相殺されていたのだ。
「……!」
アギトが驚いたように顔をあげる。デシムペスは一つ、低い声を上げると、その口元から黒い塊をアギトに向かって吐き出した。塊はアギトにぶつかるとスミのような液体となって飛散し、アギトの視界を遮らんとする。なおも二発、三発とアギトに向かって黒い塊がはきかけられる。
アギトの視界が封じられると、デシムペスはアギトに走り寄って右手の触手を振るった。さらに続けざまに左手の一撃と右足の蹴りによってアギトを攻撃する。
アギトはダメージを受けてよろめいたが、腰を据えると両手を胸の前に突き出した。そして思い切りオルタリングの両端を手で叩く。オルタリングが激しい輝きを放つと、アギトの体がその光に包まれた。
デシムペスはさせるまいとアギトに挑みかかるが、光に包まれたアギトはデシムペスの右拳を受け止めると、敵の胸に向かってカウンターのパンチを放つ。先ほどの数倍もの威力の一撃に、デシムペスの体が再三、吹き飛んだ。それと同時にアギトを覆っていた光が晴れる。
そこには溶岩の如き炎を身にまとった戦士、アギト・バーニングフォームがいた。
視界を封じていたスミはその高熱の体温によって瞬時に蒸発し、消え去っていた。
デシムペスは立ち上がりながら、新たな姿となったアギトを見る。そして思わず胸を抑えた。バーニングアギトのカウンターパンチはデシムペスの再生が追いつかないほどの一撃だったのだ。
アギトは体に力を込めると、右腕を前に突き出した。そして引き寄せるように胸の近くへとやって、握りしめる。それを見たデシムペスが、いきり立ったように地面を蹴り、アギトに向かって駆け出した。
アギトが握りしめた拳に更なる力を込めると、その拳が炎に包まれる。
アギトはその拳を、思い切りデシムペスの腹部に叩きつけた。
辺りの木々がざわめく程の余波と共に、デシムペスの体が、これ以上にないほど大きく吹き飛んだ。それから地面に叩きつけられ、身悶えする。すでにその頭上には天使の輪が出現していた。
デシムペスは力なく立ち上がると、天に手を伸ばしながら断末魔の叫びをあげる。そして地面に倒れ伏すと共に、遂に爆散して果てた。
アギトはそれを見届けると、グランドフォームへと戻り、マシントルネイダーの元へと戻ろうとする。
しかしそんなアギトに、突如、新たなアンノウンが現れ、襲いかかった。
突然現れた、ライノロード・トラクレンタ・コーンはアギトの体を持ち上げて吹き飛ばす。アギトは構えも取れずに宙に投げ出されると、そのまま堂へと続く階段の近くまで飛ばされた。それから、壁に手をつきながら立ち上がると、急襲の敵を見据える。
灰色の鎧に身を包んだ重硬の怪人は、アギトと相対しながら肩に力を入れた。視線がぶつかり合うのと同時に、両者は駆け出した。
DATABASE
種族名:スキードロード
個体名:モリペス・デシムペス
能力:如何なる場所にも水溜りを生み出すことができる
イカに似た超越生命体。名は「柔らかい十本足」の意味。