仮面ライダーアギト ー神との戦いー   作:アルペン

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第三話「翡翠の冠」
再び走り出す


 なぎ倒さんと振り払われたコーンの剛腕を、アギトは身を低くしてかわし、敵の脇腹に肘を叩きつけた。怯みながら後ずさるコーンに向かって、更に続けて、アギトが拳を叩きつける。二発、三発と相手の胸部にそのパンチが決まった。しかし、鎧のごときその堅牢な胸殻はアギトのパンチをまるで通さなかった。

 

 コーンはアギトの拳を受け切ると、お返しとばかりに相手を拳で叩きのめす。たった一撃の重さに、アギトの足が思わずふらつくと、コーンはそのまま組みつき、押し込んだ。アギトは引きずられるように堂への階段近くの壁際まで追い詰められ、そして叩きつけられた。

 

「ウワッ!」

 

 アギトは思わず声をあげながらも、攻撃に転じようとコーンを振りほどき、力を込めた拳を何発も叩き込むが、コーンはまるで応えた様子を見せない。コーンは更に右手でアギトの手首を捻じあげて、左手で数発。そして手首を掴んだまま、アギトを思い切り投げ飛ばした。

 

 数メートルも宙を舞い、アギトが石床に激突する。

 

 それでもふらつきながらも何とか立ち上がると、アギトはサッと構えをとった。頭部の二本のクロスホーンが展開し、六本へと変わる。それと同時に、アギトの立つ地面に竜の頭を模した炎の紋様が浮かび上がった。アギトが腰を深く据えると、その紋様は両足へエネルギーを与えながら収束する。

 

 その様子を見て、コーンが思わず怯んだような素振りを見せた。しかしすぐに、胸を大きく張ると、さすまいとばかりにアギトに向かって駆け出した。

 

 アギトは両足に力を込めると、力強く地面を蹴って飛び上がった。そして空中からコーンに向かって狙いを定め、急降下するように飛び蹴りを放つ。その一撃はコーンの眼前で加速しながら、胸部を蹴りつけた。強い衝撃にコーンが数歩後ずさり、自身の胸部に手をやった。

 

 しかし。

 

「ンン……」

 

 何とコーンは悠々と体制を立て直し、再びアギトに相対したのだ。更に続けてアギトに向かって肩から突進し、アギトを吹き飛ばした。

 

 アギトはまたも壁に打ち付けられ、地面に手をついて倒れる。それでも、壁によりかかりながら何とか立ち上がろうとした所を、更に物陰から新たに現れた何者かに組みつかれ、不意打ちをくらった。

 

 それは厚い体毛と硬皮、その上から布のような衣服をまとい、口元には二本の大きな牙を生やしていた。胸には羽飾りをつけ、背中には退化した翼の跡を見せる。大きな鼻からは荒々しい鼻息を立て、鋭い目つきで睨みをくれていた。イノシシのような姿をしたアンノウン、ボアロード・トラクレンタ・デンスだった。

 

 デンスは不意打ちによろめくアギトの首元を掴むと、そのままアギトの体を数度、壁に叩きつけ、振り払うように上空に高く投げ飛ばすと、落下してきたところに突進を食らわせた。

 

 アギトの体が再三、宙を舞い木の幹に叩きつけらる。倒れこんだアギトは一度、手をついて起き上がろうとしたが遂に力尽き、その場に力無くくずおれて動かなくなった。

 

 デンスとコーンはその様子を眺めると、一つ頷いてゆっくりとその場を後にした。

 

 倒れ伏したアギトは光に包まれて変身解除し、津上 翔一の姿へと戻った。

 

 ────────────

 

 海の見える車道沿いを、葦原涼はXR250を走らせていた。シートから伝わる滑らかな振動と、少しだけ荒っぽい走行音とに身を委ね、涼は水平線の向こうを見やる。仄暗く月を照り返す漣が、まるで銀色の鳥群のようにどこまでも連なっていた。

 

 多くの人々を恐怖に陥れたあの長い戦いを終え、彼が手に入れたものは小さな友人と、平穏という名の二文字。それは彼が失ったものと天秤にかけるならば、余りにも釣り合わないものであったのかもしれない。それでも彼が今、幸せというものを感じているのならば、人はそれを何と呼ぶだろうか。神の祝福か、それとも悪戯か。

 

 ふと、涼は漠然とした違和感をその身に感じる。そして、すぐにそれは確信的なものへと変わり、締め付けるような頭痛が涼を襲った。長らく慣れていない感覚だったが、それでも思わずバイクのブレーキをかけたのは、昔の癖がまだ抜け切っていなかったからだろう。突然のブレーキに車体が傾きスピンする。咄嗟に片足でそれを支え、片手でこめかみを抑えながら涼は辺りを振り向く。

 

 この痛みは……まさか……。

 

 胸の奥にこみ上げる、静かながらも熱い感情を押し殺すように、涼は体に力を込めながらバイクをUターンし、アクセルを踏み込んだ。

 

 ──────────ー

 

 ポツポツと幾つもの街の灯りを眺めるビルの屋上で、その長い髪を風になびかせながら、灰色の衣服をまとった青年は静かに立っていた。そして、その両脇には控えるように二体の異形の怪人が佇む。共に胸の中心に二枚羽を象った、上級アンノウンの証である装飾品を身につけ、銀色の衣装に身を包んでいる。

 

 右方に控えるドルフィンロード・ケトス・ディルフィナスと、左方のプラティパスロード・グリフォ・マニトゥードである。

 

 灰色の青年は、眼下の街並みを見下ろしながら語りかけるように口を開いた。

 

「かつて地に堕ちた竜が、再び目覚めようとしています」

 

 その言葉に反応するように、二体のアンノウンはゆっくりと首を動かす。灰色の青年は視線を動かさずに、淀みのない声で続けた。

 

「あの大洪水から長い時を経て、始祖の竜が今再び……」

 

 ────────────

 

 翔一が目覚めた時、既に太陽は高く昇っていた。体中の痛みに顔をしかめながら、翔一は木の幹に手をつき、ゆっくりと立ち上がる。まだ足元がフラつき、視界がボヤけるようだった。

 

 昨晩の事を思い出し、翔一は思わず唇を噛む。

 

 既に青あざになっているであろう脇腹を抑えながら、翔一はバイクの元まで足を引きずり、倒れこむようにまたがった。そして、ゆっくりとアクセルを踏み込んだ。

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