仮面ライダーアギト ー神との戦いー   作:アルペン

9 / 35
咆哮再び

「それにしても、上手くなったよなぁ真魚姉も」

 

 太一は暇つぶしがてらに美杉家の庭に出て、菜園の野菜に水をやっている真魚を見ながら何とはなしに言う。真魚はそれに気づいて、水をやる手を止めながら少しだけ笑った。

 

「まあね。最初はダメだったけど、毎日毎日やってきたから最近はちょっと慣れてきたかな。それでも翔一君に比べれば全然だけど。……あっ、ていうか」

 

 真魚はそう言うと太一を睨む。

 

「そもそもあんたがサボりすぎなんでしょ!」

 

 真魚のその言葉に太一はしまった、とばかりに口元を面白く開き、

 

「やっべえ」

 

 などと抜かして逃げ出す。

 さすがは成長期と言うべきか、この三年で身長も大きく伸びた太一だが、本質的にはあまり変わっていないらしく、日当の水やりはサボり気味だ。真魚はそんな太一の背中に向かって叫ぶ。

 

「ちょっと太一! ……もう」

 

 が、既にその背中は二階への階段の向こうに消えており、真魚はため息をつきながら一人、菜園を見下ろす。それから少し笑顔を浮かべて、またゆっくりと水やりの作業に戻って行った。

 

 いつまでもここは、翔一君の居場所だもんね。

 

 

 ────────────ー

 

 

 昼過ぎの捜査一課、北条は昼食を共にしていた河野の口から出された言葉を反復した。

 

「日政大学……ですか?」

 

「ああ、どうもそこらしい。風谷信幸が勤めていたっていうのは」

 

「そうですか……ではその大学で、風谷信幸はあの研究を」

 

 北条の言った言葉に、河野はピクリと反応する。

 

「研究? 一体なんだ、そりゃ」

 

 河野がそう聞くと、今度は北条が、なにがなんだと言わんばかりの表情で返した。

 

「風谷信幸の研究と言えば、超能力の研究に決まっているでしょう。彼を殺害したと思われる沢木雪菜もその研究の対象だったようですし。……まさか河野さん、知らなかったんですか!?」

 

「知らなかったんですかってお前、超能力だって? なんだってそんな超能力なんて……ん? ちょっと待て、お前、今沢木雪菜って言ったか?」

 

 河野が怪訝そうな顔をする。北条はそれに頷くと、

 

「ええ、ですがそれが何か……?」

 

「沢木雪菜……沢木雪菜か。そう言えば風谷信幸の研究講義のグループ……どうやらサークルに近いグループだったらしいんだが、そこにそんな名前があったと思ってな」

 

「なんですって!? それは本当ですか!」

 

「ああ。そのメンバーは他に……」

 

 その時、河野の携帯に着信がかかった。河野は言葉を遮って北条に視線を送り、携帯に出る。

 

「はいもしもし、河野ですが。……なに? 分かった!」

 

 と切迫した様子で言うと、電話を切り、北条に言った。

 

「どうやら出ちまったらしいな」

 

「出ちまった……?」

 

「アンノウンだよ。こりゃ、これが終わったら本格的に上部(うえ)に報告に行かないとまずいな」

 

 河野が面倒そうな表情をしながらも焦った様子で言うと、北条は頷き、

 

「分かりました。とりあえず現場に向かいましょう」

 

 

 ────────────ー

 

 

 自室のベッドの上に寝転がり、微睡んでいた涼は唐突な鋭い感覚に、一気に覚醒する。目を見開くとベッドから起き上がり、机に置いておいたヘルメットに手を伸ばした。

 

 そして一瞬、躊躇するように手を止める。かつての、彼が戦士であったころの様々な記憶が制止するように涼の頭の中をよぎった。

 そんな涼の異変に気づいたのか、チビが涼の足下へとすり寄ってきて、涼の周りを周る。涼はそんなチビを見下ろすと少し吹っ切れたように頷き、しっかりとそのヘルメットを手に取った。

 

 

 ────────────ー

 

 

 同じ頃、翔一もまた同じように鋭い感覚に襲われ、無心にレストランを飛び出そうとしていた。しかし不意に脇腹の痛みに襲われ、思わず立ち止まる。その背中に、すぐに感づいて後をおおうとしていた加奈から声がかけられた。

 

「津上さん!」

 

 翔一はその言葉に振り返る。

 

 そうだ、また一人で勝手に飛び出して行くなんて……。

 

 翔一が暗い表情になると、加奈は、

 

「ここなら大丈夫です。でも、言い忘れてたんですけど、昨日の夜、美杉さん達がここに来て……」

 

「先生達が?」

 

 翔一が聞き返すと、加奈はゆっくりと頷いた。

 

「そうか、それで真魚ちゃん……。分かりました、ありがとうございます」

 

「…………」

 

 しかし加奈はなおも不安げに翔一を見つめると、言う。

 

「無事に……帰ってきてくださいね」

 

 その言葉に、翔一か笑顔を見せて頷いた。

 

「任せてください! ……あ、あと、帰りにちょっとだけ、先生の家に寄って行っても大丈夫ですか?」

 

 翔一がそう言うと、加奈はようやっと笑顔を見せて、それに頷き返す。翔一はそれを見て、

 

「ありがとうございます!」

 

 と言い残し、静かにレストランの扉を開けた。

 

 

 ────────────ー

 

 

 河原を横切る鉄橋の下で、サイ型のアンノウン、コーンは悠々と次の標的に歩み寄っていた。周りに集まった護衛の警察官達など意にも解さない様子だ。実際に、警官達が発砲した弾丸などまるで効いている様子はない。

 コーンはゆっくりと胸の前に手をやると、甲に死のサインを描き、標的へと狙いを定めようとする。

 

 しかしその時、バイクのエンジン音と共にマシントルネイダーに跨ったアギトが現れ、そへを遮った。コーンはそれと同時に、ターゲットから視線を外し、アギトの方へと体を向ける。

 

 アギトはそのままマシントルネイダーのアクセルを踏み込み、コーンへと突っ込んだ。車体がコーンに吸い込まれるように激突する。……が。

 コーンは数歩、マシントルネイダーに押し込まれて後ずさったもののなんと踏みとどまり、逆に跨っていたアギトを片腕で払い飛ばした。

 

 アギトは低く声をあげて地面に投げ出されたが、すぐに片膝をついて立ち上がり、オルタリングベルトの右端を手で叩く。すると、ベルト中央の賢者の石が赤色へと変色し、アギトの姿もそれに応じて赤を基調とした超感覚と怪力の形態、フレイムフォームへと変化した。そして、アギトが賢者の石の前に手をかざすと、フレイムフォーム専用の武器、フレイムセイバーが錬成されて現れる。アギトはフレイムセイバーを手に取ると、それを構えてコーンへと向き直った。

 

 コーンはそれを見ても怯んだ様子はなくアギトに向かって行き、右の拳を振った。が、アギトは難なくそれをかわすと、お返しとばかりにフレイムセイバーでコーンを斬りつける。しかしその硬い皮フはフレイムセイバーの刃すらも通さずに受け止めてしまった。

 アギトは思わず顔をあげるが、そのまま怪力にものを言わせてコーンを押し込む。

 

「うおおおおおお」

 

 そして、さらに膝蹴りを食らわせてコーンを怯ませると、フレイムセイバーの鍔の部分で頭を殴りつけた。

 唸り声をあげてコーンの身体が大きく宙を舞う。

 

 アギトはそれを見るとマシントルネイダーのもとに駆け寄り、跨ってエンジンをかけた。グワンと音が響き渡り、マシントルネイダーが走り出す。アギトはそのまま、立ち上がろうとするコーンへと狙いを定めると、マシントルネイダーから飛び上がった。それと同時にまるでマシントルネイダーがアギトの意思を汲み取ったかのように形を変え、サーフボードのように平らなスライダーモードへと変形する。飛び上がったアギトは空中で一回転して、そのままスライダーモードとなったマシントルネイダーへと着地し、フレイムセイバーを構えて、力を集中した。するとフレイムセイバーの鍔の部分が展開し、六本へと変わる。それと同時に、アギトはマシントルネイダーからコーンに向けて飛びかかった。

 

 アギトの超感覚は的確にコーンを刃で捉え、コーンは凄まじい威力によるフレイムセイバーの一閃、セイバーブレイクを受けて雄叫びとともに爆散した。

 

 アギトがゆっくりと地面に着地すると、マシントルネイダーも役目を終えたかのように通常のバイクモードへと戻った。

 

 ──────────ー

 

 物陰からその様子を眺めているもう一体のアンノウンの姿があった。トラクレンタ・デンスは、同胞が倒された様子をみると低く唸り声をあげてアギトに向かって飛びかかろうと身構えた。

 しかしその時、もう一つのバイクのエンジン音が鳴り響く。デンスがそちらに目を向けると、そこにはバイクに跨った一人の青年が睨みをくれていた。

 

 その青年、葦原 涼はバイクから降りると落ち着いた仕草でヘルメットを外し、デンスに向かって小さく言う。

 

「……どうしてお前たちが」

 

 それから少し切なげに自分の掌を見下ろした後、その顔に激情を浮かべてデンスを見やった。

 

「お前は……俺が倒す!」

 

 涼はそう言うと、両手を胸の前でクロスさせ、

 

「変身!」

 

 その掛け声と同時に、何かを引き剥がすようにその両手を払った。すると、涼の体が白い光に包まれる。そして彼もまた、深緑の肉体と、赤く鋭い鋭爪を備えた異形の戦士、エクシードギルスへとその姿が変わった。再び翠の戦士が現れたのだ。

 

「……!」

 

 デンスが驚いたように、ギルスの姿にたじろぐ。

 

「ウオオオオオオオ!!」

 

 そんなデンスに対して、ギルスは雄叫びをあげながら飛びかかった。

 

 ギルスはそのままデンスの両肩を掴むと、自分の体を低く軸にして投げ飛ばす。更に、地面に投げ出され立ち上がろうとするデンスの腹を蹴り上げ、後ずさる相手を続けざまに数発殴りつけた。

 デンスは声をあげながらも、反撃するために自身もギルスに向かって殴りかかるが、逆にその腕をとられ捻じあげられると、再び腹に数発パンチを喰らい、続けて頭に回し蹴りを見舞われて吹っ飛んだ。宙を舞ったデンスの体が少し離れた地面へと叩きつけられる。それを見たギルスは、口を大きく開き、空に向かって咆哮した。

 

「ウオアアアアアアアアア!!」

 

 それから強く地面を蹴って跳ぶと、右の足を思い切り振り上げる。そして、今まさにふらつきながら立ち上がろうとしているデンスの肩に、その踵を振り下ろした。

 

「ウグッ……!」

 

 思わずデンスが悲鳴をあげる。ギルスの踵に生えた鋭い爪、エクシードヒールクロウは的確にデンスのことを捉えていた。ギルスは更にデンスの胸元を蹴りつけると後方へと宙返りし、膝を折って着地する。それと同時に、もがき苦しむデンスの頭上に天使の輪が出現し、そして爆散した。

 

 ギルスはその爆発には目もくれずに立ち上がると、その変身を解除し、葦原涼の姿へと戻る。それから一瞬だけ地面に目を落とすと、ゆっくりと自分のバイクへと向かって行った。

 

 ────────────

 

 その帰り道、もはや幾月ぶりとも忘れた美杉家へと立ち寄った翔一は、懐かしい笑顔達に迎えられていた。

 

「おお、翔一君!」

 

 その家の主である美杉教授は、彼の姿を見て嬉しそうに破顔する。かつてこの家に世話になっていた頃の記憶を懐かしみながら、翔一もそれに対して満面の笑みで応えた。

 

「お久しぶりです、先生」

 

 すると、その息子、太一も翔一のもとに駆け寄ってきて、

 

「なんだよ、やっぱり元気そうじゃないか」

 

「え、なによそれ、どういう意味?」

 

「なに言ってんだよ、聞いたぜ? お前この前、店サボったんだろ?」

 

 全く変わらない太一の調子にも翔一は笑って返す。そんな中、ただ一人、真魚だけが浮かない顔をして翔一を眺めていた。それから戸惑うように口を開く。

 

「翔一君……大丈夫なの?」

 

「あ! 真魚ちゃんも! 元気にしてるわけ?」

 

 翔一の明るい言葉に、真魚は少したじろいだように顔をあげた。

 

「え……うん。あたしは大丈夫だけど」

 

「そっかそっか! みんな元気にしてたんだ! あれ? そういえば菜園の野菜……」

 

 翔一がベランダの方を向いて、庭の菜園に目を向ける。

 

「へえー! 立派に育ってるじゃない!」

 

「ま、お前のために俺たちがかわりばんこで世話してやってるってわけだよ。ありがたく思えよ」

 

「そっか! サンキュー太一!」

 

 翔一はそう言って、もう一度高らかに笑った。




DATABASE

種族名:ライノロード
個体名:トラクレンタ・コーン
能力:重量操作によって人体を自壊させる
サイに似た超越生命体。「獰猛な角」の意を持つ名を冠する。

種族名:ボアロード
個体名:トラクレンタ・デンス
能力:分厚い鋼鉄も容易く破壊する突進
猪に似た超越生命体。「獰猛な牙」という名を持つコーンの補佐を主な役目とする同族。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。