吸血姫と天使と鋼鉄の城   作:奈多ナキル

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元商人と父親

貴夜は正味12日と言う早さで、松葉杖で歩けるようになるまで回復した。まだ体重等は戻ってないらしいが、半日程度までなら松葉杖で行動出来るし、家以外では私が傍に居るので車椅子でも移動可能なこともあり(貴夜本人は自分で車椅子を動かせるのだが)、医師から無理をしないことと経過が悪い場合再入院になるを強く言われて退院した。

 

 

 快気祝いにと叶に連れられて〈ダイシー・カフェ〉へ足を踏み入れた。入ってみると、落ち着いた雰囲気の店内で、客足はそれ程のレベルなのだが、叶が言うにはこのカクテルが美味しいとのことで、楽しみにしていた。ただ、入った時間が夕方でまだ少し早かったが、思わぬ人物と再会した。

 

 

「いらっしゃい」と堂々とした体躯にスキンヘッドの男性が声をかけてきたのだが、貴夜が気付いてその男性にこう訊いた。

 

 

「あの、すいません、間違っていたら失礼ですけど、もしかしてエギルさんですか? 斧使いだった……」

 

 

「あぁ、間違っていないが、もしかしてお客さん元SAOプレイヤーか?」

 

 

「はい、その通りです。そしてお久し振りです、エギルさん。ナキです、覚えてませんか?」

 

 

「あぁ、覚えてるとも、真っ白な狩人の盾持ちだろ?」

 

 

「えぇ、そうです。そして、こっちがサナです」と貴夜が代わりに私を紹介した。

 

 

「エギルさん、お久し振りです」と私も一応挨拶すると

 

 

「本当に……攻略組のプレイヤーは美人が多いな……」とエギルは嘆息混じりに言った。

 

 

「クラインさんが聞いたら、泣きますよ、いろんな意味で」と私が皮肉混じりに言うと

 

 

「まぁそうだな……それでそっちの人は……」

 

 

「この人は叶って言って、自分達の共通の知り合いで、ここに行こうと提案してくれた張本人です」

 

 

 とエギルが言おうとして貴夜が途中で遮るように言った。

 

 

「成る程ね……それで何にするんだ?」

 

 

「私達一応カクテルが目的で来てるけどエギルさんおすすめは?」と私が訊くとエギルが幾つかのおすすめを教えてくれたので、それらを注文すると

 

 

「OK、なら待っていてくれ」と答えてエギルは奥に入っていった。

 

 

 その後、料理とカクテルを三人で楽しみながら過ごした。エギルからは今度ここで74層の攻略とSAOクリア記念パーティーがあって、キリト達とも私達は関わりがあったので、誘われたので参加すると即答した。思いもしなかった収穫にホクホクした状態にもなったが、明日は貴夜が私の家に来るので私と貴夜は飲み過ぎることなく帰宅した。

 

 

 

 

 

「ただいま」と俺は玄関で靴を脱ぎながら言うと

 

 

「貴夜か……」と親父が出てきた。

 

 

「親父こそどうしたのさ」

 

 

「いや、少し話したくてな……荷物とか片付けたらリビングにこい」

 

 

「分かったよ」と答えて、自分の部屋へと俺は先に上がった。

 

 

 名取家は6LDKの2階建ての一軒家で、2階に自室と親父の書斎がある。松葉杖がなくとも支えさえ有れば階段も登れるし、リハビリを兼ねているので、苦に思ったことはあまりなかった。

 

 

 自室に入ると、綺麗な状態のままだった。元々机にデスクトップPCとベッドと本棚、クローゼット等があるぐらいの部屋で、物の量に対して片付いているのだがAMTオートマグⅢのモデルガンが置かれているので、一応年相応の部屋に言われれば見えなくもない部屋だった。

 

 

 貴夜はバッグを直して上着をクローゼット中に仕舞い込むとリビングへ移動した。

 

 

 親父は酒を飲んでいたが、入ってきた自分に気づくと

 

 

「貴夜、ここに座れ」と言われたので俺は、言われた通りに親父の正面に座って、親父が酒を俺のコップに注ごうとしたので

 

 

「親父、俺は酒は要らないから」と肴のみに手をつけて、コップにはお茶を注いだ。

 

 

「そういえば、明日貴夜はご挨拶に行くんだったな、そしたら酒を勧めるのはアウトだな、父さんと同じく中途半端な酒の強さだからな……二日酔いはくるものがあるからな」俺は、そう言う親父に対して話題の転換を謀った。

 

 

「てか、母さんは?」

 

 

「もう寝てるよ……貴夜を殺しかけたって事実もあって少し居づらそうだがな」この親父の発言から判るように、SAOに囚われたあの日外部の干渉によって亡くなったプレイヤーの一人に俺もなっていた可能性があったのだ。ヒステリックを起こした母さんが、囚われた俺を助けようとしてナーヴギアを外そうとしたところを帰って来た親父に止められて事なきを得たが、母さん自身も脳に電流を流す機械を無理矢理外そうとするのは危険だと理解していたが、我が子を殺しかけた事実を前に精神的に参っている状態に母さんはなっていた。だが、俺自身は怒ってないし、心配してくれていることを理解しているので、

 

 

「別に死んでないし、俺は怒ってないし、心配してくれてるってことは理解しているよ」と自分が思っていることをそのまま言った。

 

 

「貴夜……お前……ただ何か変わったな」

 

 

「異常者とでも言いたいのか?」と少し毒づきながら言うと、

 

 

「いや、逆だ。何処か他人行儀だった貴夜が、素を少しだけ見せるようになったからな……紗奈君のお陰でもあるんだろうが……」

 

 

「それあるけど、折り合いがついたってのもあるし、狩人してると尚更素に戻っていったし……」

 

 

「まぁ、罪滅ぼしに隠しておいたデータも功を奏していたようだから……満足だよ」

 

 

「メンタルケアシステム……あれは最早オーパーツじゃないのか?」

 

 

「貴夜が理解できればそうならないから、否だ」と親父が答えたので本当に訊きたかったことを訊いた。

 

 

「んで、論理コード……あれは何目的だよ」

 

 

「知らん……茅場君に訊いてくれ」と完全に空振りだった。

 

 

「死人に口無しかよ」

 

 

「何だ、実際に試したのか?」

 

 

「んな訳ねーだろ」

 

 

「本当に貴夜は朝陽はともかく、紗奈君以上に乙女っぽさが変な所にあるな……いったい誰に似たんだか」

 

 

「うるさいなぁ……生きて帰るのが前提なのに、そこまで現を抜かす余裕なんて無いし……後あの馬鹿朝陽と比べるなっ」

 

 

 そう言うと親父が一呼吸置いてこう言った。

 

 

「そしてどうする、紗奈君とは」と訊かれ、丁度お茶を飲んでいた俺は盛大にむせた。

 

 

「ゲホッ……どうするも……結婚する気ではあるよ……ただ忙しいし、学生結婚はな……」

 

 

「早く籍を入れるんなら入れてほしいんだがな……別に収入源はあるんだろう?」

 

 

「有りはするけど……ガラクタだよアレは」

 

 

「データ判別・整理システムがか?」

 

 

「あぁ、だって誰かさんが失敗作って言ったやつを手直しして、botに学習させただけだし」

 

 

「AIでは無いのか」

 

 

「AIっつーよりシステムだからさ……と言うか公表したのかアレを?」

 

 

「知り合いの会社に持ち掛けて、代理でしてもらっている、無論こっちに入ってくる額の9割は貴夜のものだ」

 

 

「そうか……」と俺は上の空で聞いていた。

 

 

「けど親の時より早く相手を見つけて、一応同棲してるんだ……どうだ、大学の近くの適当な物件で紗奈君と暮らすのは」これは流石に吹き出してしまった。それを見た親父は、はっはっは、と笑ったので俺は察した。

 

 

「親父さては酔ってるな……もう寝てくれ片付けとくから」と言うと

 

 

「そうか、ならお言葉に甘えさせて貰おうか」と言って親父は寝室へ入っていったので、俺は食器やグラスを軽く洗って食洗機に突っ込んだ。

 

 

 そんなことをしながら、ふとナキの名前の由来を思い出した。名取貴夜から苗字と名前の頭文字を1文字ずつ取ってナキなのだが、知り合いからナキールはイスラム教の天使の名も元にしているんだろ、と言われ否定しなかったのだが、ナキールと言う天使は死後、人間を尋問して罪などを調べる……ある意味、浄瑠璃鏡の役目を果たしている天使の片割れらしく、青い魔眼を持つ黒い天使で、懲罰天使と呼ばれている、と言うのをSAOに囚われるよりも大分前に聞いたのを思い出した。……とは言っても親父の風刺のきいたスキル名に笑いたくなったのは事実だが、使っていて愉しかったのも事実だ。サナの場合は本来吸血鬼なのが、ヴァンパイアプリンセスの吸血姫になっていたので、原典となったのは多分カーミラ辺りだろう……といつの間にか、考えても埒が明かないので、自室に着替えを取りに行き、シャワーを浴びて寝た。

 

 

 明日予定されていることに緊張しつつも、どうにか眠りにつけて夢で、SAOβテストが始まる前の事を見た。親父から誕生日プレゼントとしてナーヴギアとβテスターの参加資格を貰い、母さんからはSAOのソフト自体をプレゼントとして貰って、正直嬉しかった。

 

 

 そして気付いたら場面は、アインクラッドに移っていた。サナと過ごした時間以上に、中層以降、共に戦ったアロンダイとシールドオブアイギス……それがもう自分の許に無いと言う事を自覚してからは少しショックだったが、アロンダイの原典はアーサー王伝説の円卓の騎士ランスロットのアロンダイト……盾の方はアイギスの大盾……アイギスの名前自体は鎧の名称だが、メデューサの首が埋め込まれた盾で間違いないだろう。

 

 

 ならばサナが言っていたが、ALOにもあるんじゃないのかと思うし、裏付けとなる理由だって一応ある。二人でALOにダイブする予定だが、種族を選ぶのに少し迷っているが、サナに結局合わせるので、闇妖精族を選ぶだろうが、サナが言うには紫メインの感じだったらしいが、サナの事なので事前に入念な下調べをして選んだんだろう……と夢の中で考えを纏めた。

 

 

 

 

 

 次の日の朝……少し二日酔いの頭痛に悩ませながらも、覚醒を促すためにウトウトしながらもアイスコーヒー(本人としてはブラック)を胃に流し込んだのだが、やけに甘かったのでパッケージを見ると砂糖入りだった。思い違いで済んで良かった……朝から両親がイチャついてるなんて惨状では無かった。変なところで安堵しつつ、朝支度を済ませて有栖川家に向かった。車と免許証も持っているのだが、医者から控えるよう言われているし、距離が距離なので使っていない。ただ、念の為に途中で紗奈と合流した。

 

 

「おはよう、紗奈」

 

 

「おはよう、貴夜」と、はにかみながらも、やけに服をアピールしてきたので

 

 

「似合ってね服」と簡単に褒めると左腕に捕まってきて

 

 

「貴夜も似合ってるね……私より回復速いってのは妬きそうだけど……」

 

 

「変なところで対抗心燃やすなよ……と言うか紗奈免許証持ってなかったのか……」

 

 

「ほぼ引きこもりに何を期待してるの」と自虐気味に言ってきたので可愛らしいな、と思ったが、頭痛が走って顔をしかめると

 

 

「貴夜、大丈夫?」

 

 

「てか、ちょっと頭痛がな……久しぶりに飲んだからかな……」と答えると

 

 

「知らない」としれっと返してきた。紗奈は俺とは違って結構酒に強いので、この気持ちは分からないだろうが……

 そんな他愛の無い会話をしながら、倍以上の時間をかけて歩いていくのだった。

ていくのだった。




次回駄目だコイツら早くなんとかしないと、と言う嘘予告





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