吸血姫と天使と鋼鉄の城   作:奈多ナキル

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決別

 都内某所……

 

 

「初めまして、総務省仮想課の菊岡と言う者だ」と私達は胡散臭い人物から名刺を渡された。

 

 

「こちらの事は既に、ご存知ですよね?」と涼しい笑顔で貴夜は、目の前にいる胡散臭い人物に圧をかけた。

 

 

「あぁ、名取教授のご子息の名取貴夜君こと〈天使〉ナキ君と、有栖川紗奈君こと〈吸血姫〉サナ君で合っているかい?」

 

 

「えぇ、ご名答です。何故俺達の所に仮想課の中心人物である貴方が、用だなんて、どういう風の吹き回しですか?」と貴夜は敵意を隠す気が無かった。

 

 

「ザ・シードの調査を手伝って貰いたくてね……君達二人にもこうしてお願いに来たんだが……」

 

 

「内容は一応理解しました……単刀直入に言います。報酬についてです」と貴夜が言う前に私がそう言った。

 

 

「ご期待に添えるよう、善処はしよう」

 

 

「旧SAOサーバーにある、とあるプログラムと……紗奈は?」と貴夜が先に答えてから、私に聞いてきた。私としては、特に望む物なんて無かったが、タダ働きは御免なので、常識的に考えこう言った。

 

 

「私は、そのお手伝いの報酬として、妥当な額をお願いします」

 

 

「お金の方はどうにかなるんだが……貴夜君の要求はちょっとね……」と菊岡が言ったので、貴夜が

 

 

「そしたら……このお話は無かったことにして頂いて……用事があるので失礼します」と言って席を立ったので、私も席を立ってこう言った。

 

 

「もし、またご機会があれば、お話をお受けするかもしれませんが、私も失礼します、菊岡さん」私は先に出ていった貴夜の後を追い掛けた。貴夜は菊岡に対して、この後用事がある、と言ったが、半分嘘だったが、それを責める人間はその場に居なかった。

 

 

 菊岡は一人になったその場で、ポツリと言った。

 

 

「僕としては、プロジェクトアリシゼーションに欲しい人材だったんだが、喧嘩別れになるとは……」と独り言を漏らしたが、周囲に誰もいなかったので、聞かれることは無かった。

 

 

 菊岡と言う、胡散臭いおっさんに会った場所から少し離れた所にある有名人やお偉いさん等が、良く利用する全室個室のレストランに私と貴夜は居た。奇しくも向かい側に座ることになっている相手も、菊岡と同じく仮想課の人間だった。だが、私達が協力するのは仮想課ではなく、公安なのだが。

 

 

「こんにちは、紗奈、貴夜君」と公安とのパイプになる人物が入ってきた。

 

 

「こんにちわ、叶」と私が挨拶を返し、続くようにして貴夜も

 

 

「こんにちは春山さん」と言った。

 

 

「聞いたよ、喧嘩別れしたんだって?」と叶が言って、私が

 

 

「そうね……元々そのつもりだったから貴夜が」と最後の方を強調して答えた。

 

 

「そうしてくれたお陰で、この後の事は、望む形になり得るから……ありがとう私の我が儘を聞いてくれて」

 

 

「別に……私達の要求を叶えるのは、仮想課じゃ無理だからね」

 

 

「うん、その要求の話なんだけどね」と叶が切り出そうとして、扉がノックされたので、話を止めると店員が入ってきて、事前に頼んでいた飲み物と軽食を給仕すると、店員が下がったので、私が黙りこけている貴夜に対して

 

 

「さ、本題に入ろ……貴夜も黙ってないでさ」と言うと

 

 

「いや、あの菊岡って男が胡散臭くてさ……何か裏がある気がするんだよなぁ」と貴夜が言った。

 

 

「私も菊岡さんの事は良くわからないけど、公安の方の解答を伝えるね」と叶が言って、こう続けた。

 

 

「その条件を呑む代わりに、こちらからもそれ相応の条件を提示する……だそうよ」

 

 

「どうせエマ達じゃ大した成果は上げられないからな……俺達の方がよっぽど公安からしてみれば、喉から手が出るほど欲しい駒なんだからな」と貴夜が言うと、

 

 

「ええ、それは事実よ。名取教授が司法取引に応じてくれたから、紗奈達に対する依頼の内容もマシになったからね……教授から十二分過ぎる情報が渡されていたから、その恩恵が紗奈達にも流れてきててね……で、これが貴夜君が求めていた、旧SAOのメンタルケアAIのプログラム……ただ、何故かメインのが無くなっていたから、サブのバックアップAIと保存されていたプレイヤー達の感情データを代わりに持ってきたけど」

 

 

「ありがとう、充分過ぎるよ、メインのAIだと弄れないから、渡されてもどうしようかと思っていたから」と貴夜が言った。

 

 

「このノートPCの中に保存されているから、このまま渡すけど、良いかな?」

 

 

「あぁ、構わないよ、春山さん」

 

 

「とりあえず、それが払える頭金だがら」

 

 

「随分と太っ腹だな」

 

 

「須郷の仲間にデータを奪われるよりマシって判断と、そのシステムが国にとって有用だけど扱いきれないからって事だから。その代わりザ・シードについての調査とかも自分たちの手を使いたくないから、紗奈達にしてもらうんだし」

 

 

「どの道、そのつもりだったから良いけど、良いのか本当に?」

 

 

「防衛省の動きが怪しいのもあるし、正体不明のプログラムの事もあるのと、重村教授の監視をしてくれるんだし、内容もそっちが得するって訳じゃなかったのと、関係している所との取り引きも出来たし、公安もVR技術関連に割く人員の余裕が無かったのもあるし……私みたいな新人が担当する羽目になっているんだから」と途中から叶の愚痴になっていた。

 

 

「なら結構楽ではあるね……貴夜の目的も果たせそうだしね」と私が言った。

 

 

「それで、早速依頼と言うか仕事があるんだろ? ……俺達に教えてくれ」

 

 

「えぇ、ザスカーってアメリカの会社が運営しているゲーム〈ガンゲイルオンライン〉……通称GGOの調査とALOの調査をお願い……報告は教えていたアドレスに」

 

 

「GGOか……コンバートの必要は?」と貴夜が訊くと、

 

 

「えっと……一応二人のコピーアカウントを用意してるから、それを使って……接続料も当面3ヶ月は公安持ち、それ以降も経費で落としてくれって」と叶が答えた。

 

 

「分かった。俺からの要求も済んだし、公安の要件も済んだんだろ?」

 

 

「えぇ、クロスとしては済んだけど、叶としてはまだ」

 

 

「私もそれは気になるから、教えて叶」

 

 

「エマは元気ではあるわ、仇も取れて今は楽しそうだよ……ただ積木がねぇ……」

 

 

「積木ちゃんがどうしたの?」

 

 

「変なのに目覚めちゃって……」

 

 

「変なのって?」

 

 

「エマが、積木の一つ年下だから姉になる訳なんだけど……その……」

 

 

「あっ……」と貴夜が何かを察して、

 

 

「もしかして、お姉ちゃんって呼ばれて……目覚めちゃったの?」

 

 

「うん、その通り」と叶が言った。2次元でしか起こらない事だろうと私は思っていたが、事実は小説よりも奇なりとは、まさにこの事なんだなと思った。

 

 

「そう言えばエマ達に会いたくない?」と叶は訊いてきた。

 

 

「パーティー以来会ってないからね……私は会いたいけど……貴夜は?」と訊くと、貴夜は何とも言い難い表情をしていた。

 

 

「俺はパスで……」と貴夜が答えたので、私はその理由が分かり、こう言った。

 

 

「このツンデレ貴夜、需要無いのにさ」

 

 

「うるさいっ」

 

 

「二人共イチャつかないでさ……必要以上にエマと貴夜君は関わりたくないんだろうけど……」

 

 

「別に貴夜抜きで良いよ……貴夜一人が女性陣の中にいてもアレだし」

 

 

「紗奈もちょくちょく酷ぇな……とりあえず日程決まったら教えてくれ、紗奈を送りはするから」と貴夜が訊き、

 

 

「ええ、それはね」と叶が答えた。

 

 

 結局その日は一定以上の収穫があったし、叶と食事が出来たので満足していた。後日、貴夜から連絡があり、大学から連絡と、始業までのスケジュールを教えてもらった。とは言っても、貴夜はリハビリもあったし、大学に春休みの期間中も行かなければならなかった。面談と簡単な筆記試験があり、その結果を踏まえた上で、カリキュラムを組みなおし、奨学生等に該当するかどうかも判断された。貴夜と同じ授業を多く取ることも出来た。貴夜は時間が許す限りゼミにいたので、私も手伝いなどをしていた。公安からの仕事も落ち着く5月以降からで良い、と許可が降りたこともあり、色々と環境を整え直したりするので、時間が過ぎるのが、あっという間だった。

 




次回、リア充めが、と言う嘘予告



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