吸血姫と天使と鋼鉄の城   作:奈多ナキル

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岐路

 私達は大学の講義室にいた。昨晩、爆死と言う死に方をして、貴夜とナナに慰めてもらい、どうにか立ち直った。当然ながら今日は平日だ。私は真面目に講義を受けていた。隣には貴夜が座っているのだが、完全に聞いているフリをしていた。貴夜が何をしているのかと言うと、卓上にノートパソコンを出して、画面半分をナナが、もう半分がメモ帳が占めていた。貴夜が真面目に受けていないのかと言うと、父親(私からすると義理の父)である名取教授の講義で、貴夜にしてみれば基礎的な部分の内容らしい為、この有り様だった。生徒の間では、重村教授の方が人気らしいのだが、名取教授の講義の方が面白い、と思う私には眉唾物だった。

 

 

「今日は、ここまでだ。次回までに課題の提出をしておくように」と名取教授が言うと同時に授業が終わる時間になり、他の学生達は出席票を出して退室していった。貴夜も出ようとしたので、私は急いで片付けた。

 

 

「貴夜、後で来てくれ……重村の所にいった後でも良いから」と私達が出ようとして、教授に呼び止められた。

 

 

「いや、時間的にも大丈夫だし……一応知ってるだろ……昼の時間ずらしているんだから、今からでもさ……問題ないだろ紗奈?」

 

 

「うん……わざわざ人混みにいくつもりは無いし」と私がそう答えた後、私達は名取ラボへと話ながら移動した。

 

 

「んで、親父……今日元々重村ラボに顔を出すつもり無いから……でも、本当に須郷……腐っても先輩の、あの野郎の誘いに乗らなくて良かった」

 

 

「まぁ、須郷君とは関わるのは避けていて正解だったな……だが、須郷君の名を口にしたと言うことは、多少整理がついた、と見るべきか」

 

 

「多少はな……ただ、あの野郎を目の前にしたら制御しきれる自信は無い……紗奈もそうだし」

 

 

「私も、それは断言出来ないかも……」

 

 

「須郷君は、欲が強すぎていたからね……重村も手を焼いていたようだし」

 

 

「そうだったんですね……叶から言われていたんですけど、須郷の下にいた人間もいるから気をつけて、って……」

 

 

「まぁ、けど大学にいる間は大丈夫だろう……ナナちゃんも可愛らしくてね、娘より孫娘の方が可愛いと思ってしまうのは、老いぼれのそれなんだろうさ」と笑いながら教授は話を切り替えたが、私は何処か引っ掛かった。ただ、それを追求する間も無く貴夜が、

 

 

「愛娘だよ、ナナは……ただ、自分達で組んだプログラムの内、最後の方の内容を組んだ自分達が理解できてない……本来バグとみなされるものが、正常に動いているんだ……ただ危険性も皆無に等しいし、なついているから安心している」

 

 

「まぁ、本題は部屋に入ってからにしようか」と教授が言ったのだった。

 

 

 

 

 

 名取教授が、自分の椅子に腰を下ろし、私達は机の前にある応接セットのソファーに、貴夜と向かい合うように座り、貴夜が私との間にあるローテーブルにノートパソコンを置いた。画面には、ナナが写っていた。

 

 

「それで、親父……本題って?」と貴夜が切り出すと、

 

 

「黒華君の所の話だ」と教授が言ったが、私は何がなんなのか理解できなかった。

 

 

「何で、今その話なんだ?」と私が貴夜に対して説明を求めようとしたが、貴夜は隙を与えずに教授に訊き返した。貴夜の返し方的に危なそうだったのを察した私は、追求するのを堪えると、そんな様子を見た貴夜が、

 

 

「あぁ……紗奈は知らなかったな。エマの事だよ……正確には、その両親の事だけど」と簡単な現状説明をしてくれた。

 

 

「何で須郷君が、あんなにご執心だったのかが、やっと分かった」と教授が答えた。

 

 

「メンタルシステムのベースの1つである……汎用型自立思考AIの基礎プラグラム及び、そのAIだろ?」

 

 

「ほぼ正解だ、貴夜。システムに搭載されているのはアレンジが加えられたものだし、AI関連は黒華君達のものだからな……しかしアメリカからもお話が来ていたようだ……」

 

 

「つまり、須郷はオリジナルを何としても手に入れる為に、裏で手を回しエマの両親を殺害……しかも自分の手は汚さずにか……そして、そのデータを奪い取るつもりだったんだろうけど」と貴夜が、教授が含めて言った内容を推察し、

 

 

「まぁ、まず私が許すわけがないが……行方不明のオリジナルに関しては難しいからね」と教授はその推察を肯定した。

 

 

「つまり、須郷……は……どクズ野郎ってことですか?」と私が言うと、

 

 

「その通り……結果的にはだが……周囲が優秀だったから、妬んだんだろう」と教授はフォローともとれる言い方をしたが、ニュアンス的に違く、追い打ちは確かだった。そして、教授はこう続けた。

 

 

「紗奈君も須郷君と同じようなタイプだが、そうならないと言う確信があるから、自分のやりたいことを確立させれば道は、そう簡単に踏み外さないだろう……話が逸れてしまったが、何が言いたいのかと言うと、公安から正式な通達が来た」

 

 

「親父、どういう事だ?」と貴夜が訊くと、

 

 

「全て須郷君の仕業だった……認めたらしい……なので、貴夜達が突きつけてきた条件に応じるとの事だ……エマちゃんの件は司法取引という事だ」

 

 

「なら、一件落着か……」と貴夜は胸を撫で下ろしながら言った。

 

 

「そういうことなんだが、VR規制の動きがな……」と、教授は火種を新たに投げてきた。

 

 

「国も一枚岩じゃ無いからな……SAO事件から始まるこの惨劇を止めると言う建前か」と貴夜が言い、それをノートパソコンから見ていたナナが口を開いてこう言った。

 

 

「はい、パパ達が言う通り、反対派と賛成派がいるのは事実なの…………でも……それじゃあ……ナナはどうなるの?」と補足をいれながらも、それから推察される問題点に対して訴えてきた。

 

 

「私は規制すべきではないと思います……あの世界を全否定してしまうのは、負の感情を抱かずに逝ってしまった仲間達に対する冒涜ですし、VR関連技術は日本にとって有用な手札なのに……それを捨ててしまうのはどうかと……」と私は己に任せて言った。

 

 

「紗奈の言う通りだし……ある意味、あれは命を救うことができる技術だ。誰もがイーブンな状態であるのが、あの世界だ……その代わり、それ相応のデメリットだってあるのは分かった上で、俺達は言ってるんだ」と貴夜が更にそう言った。

 

 

「貴夜や紗奈君、ナナちゃんの言う通りだ。私だって反対だ……未来を担う側の人間の意見を聞かずに芽を摘んでしまうのは、愚の骨頂だ」と教授は笑みを浮かべながら、更にこう続けた。

 

 

「だが、最低限の取り決めは必要だろうがね……VR技術は資源の乏しい日本にとって有用な物だ……ただし、今は、と言う枕詞はついてしまうが」

 

 

「まぁ……仮想課や、規制反対派に期待するしかないんだろうな」と貴夜が言った。

 

 

「ナナも大丈夫だよ、そんなこと私達は絶対に許さないし、まずさせないから」と私はナナをそう慰めるのだった。

 

 

 

 

 

 そうして私達は教授との会話を終え、大学内のカフェテリアにいた。テラス席に座って、貴夜と少し遅い昼食を食べていた。ナナは 最適化|お昼寝 をしているので、貴夜と二人きりの状態だった……あの人と出くわさなければ。

 

 

「そこにいるのは、名取君と有栖川君じゃないか……少し話したい事があるんだが良いかな?」と話し掛けてきたのは、黒ぶち眼鏡をかけている 菊岡|胡散臭い人 だった。

 

 

「何で仮想課の貴方が、大学|ここ にいるんですか?」と私は、菊岡に対して訂正を入れる気も起きずに訊くと、

 

 

「名取教授や重村教授に用があってね……その帰りだよ」と返答が返ってきた。

 

 

「それで、どんな話ですか? ……どうせ知ってるんでしょ……こっちの事は」と貴夜は多少穏やかに問い詰めた。

 

 

「あぁ、君達が 公安|あちら についたことは知っているさ……こちらとしては、可能な限り君達とはフェアな状態でありたいと思っている……独立行政法人海洋資源探索機構……まだ仮の段階だが、それを立ち上げようとしている。君達も良かったら、就職|協力 してほしいと思っているんだ……ただ、これは動き出したばかりだからね、しっかりした内容も話せないが、内密にさえしてくれれば何も言わない」と声音を落としながら言って、その後声音を普段通りに戻して、こう続けた。

 

 

「話は、これで以上だ……邪魔をして悪かったね、失礼するよ」そうやって菊岡は帰っていった。私は貴夜に対して、

 

 

「ねぇ、貴夜……今のどういう事?」と説明を求めた。

 

 

「さぁね……ただ、確定して言えるのは、あの人は何か企んでいて、 公安の駒|バイト先 がバレたって事だな」

 

 

「まぁ、私達が今さっきの話を黙っていれば、何も問題は無いんだよね?」

 

 

「口振り的にそうなんじゃないか? ……ただ、重村先生や親父に用があったって言ってたから、菊岡は多分今のバランスを崩す何かを作ろうとしてるんじゃないかな……しかも協力してほしいとまで言ってきた……つまりはAIか何かだろう……海洋資源探索機構は表向きの名前だろうしな」と貴夜は菊岡の腹の内を推測していた。

 

 

「私としては、今のこの何気ない日常が続いてくれれば別に気にしないけどね」と私は、ただ純粋にそう言うのだった。

 

 

 だが、その発言は只のフラグでしか無い事や貴夜の推測通りだった事に気付くのは、まだ当分先の事で不確かな未来の中だった。

 




次回挑戦者が現れましたと言う嘘予告
更新できたら早くしたいなと思ってるけどどうなるやら
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