吸血姫と天使と鋼鉄の城   作:奈多ナキル

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久しぶりです
その場繋ぎの投稿


番外編 事件

 死銃(デス・ガン)事件が幕を閉じて年の瀬が迫りつつあるある日、季節外れの暖気で寒さが比較的穏やかな夜、私と貴夜は二人で夜道を歩いていた。その日の日中はアキバに行っていたので、駅から自宅までの帰り道だった。駅から離れていくほど、人通りは少なくなっていった。自宅まで後数分という距離で事件はおきた。

 

「目当ての物、買えて良かったよね貴夜」

 

「そうだな……これでナナの物理ハードウェアの強化が出来るな」そんなことを話しながら歩いていると、前の方から一人の男性が歩いてきた。私達との距離が近くなるにつれて、危機感のような嫌な予感が強くなっていった。

 

 嫌な予感は的中した。男は私に向かってナイフを刺そうとして来たが、貴夜がかばった。ナイフは貴夜の左胸……心臓部分に刺さっていた。私は直ぐにパニックにならないように、自分を押さえながら手元にあったボールペンを逃げようとする男の脚に投げた。筋をかすったのか、男はその場に倒れこんだが、私は確認せずに救急車を呼んだ。

 

 結末を言ってしまえば、本来致命傷なのだが、貴夜は臓器の位置が左右反転している珍しいパターンだったことと、処置が迅速だったので大した後遺症は残らないだろうと医者は言っていた。3日間は集中治療室に入っていたが、2日目に貴夜が意識を覚醒させてからは回復が早かった。また、貴夜を刺した男は私に片足の腱に傷をつけられて、更に当たり所が悪かったのか身動きがとれずにいた所を現行犯逮捕された。私に関しては正当防衛が認められた。

 

 貴夜が襲われ病院に運び込まれたその日の夜、私は医者から帰るよう言われたが拒否すると、連絡を受けて来ていた朝陽に半ば連行される勢いで自宅に強制送還された。そして、テーブルで私は消沈していた。

 

「大丈夫だよ、貴夜は私の弟だよ? 簡単にくたばってくれちゃ、成仏すらさせないから」と少し焦躁していた私に朝陽が冗談混じりに言った。

 

「いや……家がこんなに広く感じたっけなって思ってさ……」と精神的に参っている私は、少し萎れた状態で言った。

 

「でも、話を聞いて驚いたけど二人とも公安と繋がっていたんだね……まぁそのお陰で後の事の負担が多少ラクになるんだろうけど……私はさっさと身の振り方考えないといけないのか」と病院で朝陽は公安の人間と会ったらしく事情は理解している。ただ、私達のこの先の道が見えているのに対して朝陽は焦りみたいなものを抱えているようだった。

 

「けど、貴夜以上のスペックだから行き場は有るでしょ?」

 

「そうだけどさ……私みたいなのは風当たり強いから」と朝陽の言わんとすることを察した。スペックの高さ故に、腫れ物扱いなのだ。だが、普段の朝陽からは感じられない空元気を感じた。

 

「まぁ、私だって内心穏やかじゃ無いよ?」

 

「けど……」

 

「事実、貴夜が死の危機に瀕した時……前もそうだった」

 

「それって……」

 

「SAO事件の時は、お先真っ暗って状態になってたよ……ただ目の前にあることをがむしゃらにやって過ごしてた……けど今は違う気がしてるんだ」

 

「……」私はただ朝陽が言っていることを聞くのと、適切な相づちを打つことしか出来なかった。私自身表に滲み出ている以上に精神的にきているものがあってか、まともに思考が回っていなかった。

 

「なんか紗奈の今の状態見てると心配だし……それに紗奈に何かあったら私が貴夜から怒られそうだから……泊まっていこうか?」と貴夜以上の観察眼のある朝陽にそう提案された。

 

「うん……お願い」と私は弱々しく答えることしか出来なかった。

 

「ぶっちゃけ……男である貴夜以上に心強いはずだよ私……」

 

「男勝りって事を否定しないんだね」

 

「まぁ、両親はともかく親族からよく言われてたから」

 

「たまに貴夜が男に見えない時あったけど」

 

「多分貴夜がどういう反応したかによって変わるだろうけど……私は親族から本当に真逆な双子だって言われてたよ……性格もだけど」

 

「ねぇ、小さい頃の貴夜ってどんな感じだったの?」

 

「ざっとしか話して無かったもんね……どこから話そうかな……幼稚園の頃の貴夜はお姉ちゃんっ子だったよ」と懐かしみながら朝陽が言った。

 

「意外……」

 

「本人もその自覚があったのか小学校に上がった頃には私に対してツンツンしてたよ……今以上にね」

 

「やっぱりツンデレだよね……貴夜って」

 

「見る限りそれは否定できないもんね……話は戻るけど丁度その頃から私との差が出始めてね……貴夜自身無意識に思うところがあったんだろうね。だからか、よくお父さんの大学についていってた」

 

「貴夜から小さい頃からお義父さんについていって大学に行ってたとは聞いてたけど……」

 

「両親も気付いていたみたいでさ、私以上に貴夜を可愛がっていたのを覚えてる……ただ何故か嫉妬はしなかったな……羨望も無かったし、多分私は幼いなりに分かっていたのかもね」

 

「辛くなかったの?」

 

「辛いも何も、私が簡単に出来ることが貴夜が出来なくて、貴夜が簡単に出来ることが私には出来なかったから……可愛がっていたと言っても我が儘が通りにくい家庭だったから……まぁ、それ相応の頑張りを正当に評価してくれた上での事って考えた上だけど」

 

「そう考えると貴夜の両親って凄いよね……」

 

「そうだね……私もあんな親になれるかって言われても無理だもん」

 

「……でも小学校高学年の頃はどうだったの?」

 

「その頃は、私が私立中学にいくって決めた頃で、その頃を境に貴夜との距離が出来始めてたからね……私は秀才街道真っしぐらだったけど、貴夜は今以上にね悩んでた」

 

「だからなのかな……私が高校で出会った時には回りとは違う大人びた雰囲気だったから」

 

「そうだろうけど……多分貴夜自身のコンプレックスもあると思うよ? ……思春期過ぎても大して変化しなかった外見だから……まともに変化したのは身長ぐらいだったし」

 

「けど私はそんな貴夜も好きだけどね」

 

「なんか妬けるなー……留学してた時も出会い無くて、こっち戻ってきても現状維持……良い出会いないかなぁー」

 

「因みにどんな人が良いの?」

 

「優しいけどちょっと女々しくて……更に女顔なら良し」

 

「それっておもいっきり貴夜じゃん……人の物だから取らないでよ?」と無意識に素が出てしまった。

 

「大丈夫、私血迷いはしないから……でも貴夜は重い子が好きだったのかもね……愛情が完全に担保されていないと安心できない曲者だったのか貴夜は」と笑いながら朝陽が言った。何ならお腹を抱えて笑っていたので、文字通り抱腹絶倒だった……倒れてはないが。

 

「悪い?」

 

「悪くないと思うよ……差し出すものと背負うものを考えると妥当とも言えるから」

 

「私も貴夜のお陰でこんな自分を愛せてるもん……貴夜は一度たりとも嫌悪を抱いてなかったは……ず……?」と私は色々と引っかかった。一時期一緒の布団で寝たりするのを貴夜が嫌がったりしていたのを思い出した。

 

「ねぇ、紗奈ってアグレッシブな人?」となにかを察した朝陽が訊いてきた。

 

「え? どういう事?」と私はシンプルに理解できなかった。

 

「えっと……狼?」と大分オブラートに包まれずに朝陽が言った。

 

「うっ……否定できない」と私は意味を理解して言葉に詰まりかけた。

 

「多分貴夜軽くトラウマになっていたのかもね……でも多少は受け入れてくれたんでしょ?」

 

「うん……」

 

「なら大丈夫なんじゃない?」

 

「そうだよね……でも私にそっち系の自重は辛いなぁ」

 

「紗奈は精神的に大分マシになったみたいだけど……そう言うこと言っちゃうのは戴けないなぁ」と苦笑混じりに朝陽に言われた。

 

「と、とりあえず先に私シャワー浴びてくるから朝陽は着替えとか取りに行ってきたら?」

 

「そうさせてもらうよ」

 

「鍵は掛けといてね」と私が言うと、

 

「分かったよ」と朝陽に呆れ笑い混じりに返されたのだった。

 

 

 

 俺は気がつくと、見知らぬ天井だった。そして、左胸に激痛が走った。まだしっかりと思考が回っていないので、理解が出来てなかった。だが、激痛が収まり始めた頃には、思考が明瞭になり始めた。

 

「そっか……俺、紗奈を庇って刺されたのか……」と言いながら、周囲を見た。

 

 その後、看護師が来て色々あったが、投与された痛み止めの薬の副作用のせいで、睡魔に耐えられず眠っていたので、詳しくは覚えていない。ただ、運び込まれてから丸1日眠っていたのと、冬場だったので多少厚着していた事や、回復力が高かったお蔭で、集中治療室に居たのは3日間だった。と言ってもその3日間の記憶が曖昧と言うか……大部分を眠った状態だったので、記憶はさっぱりだ。

 

 普通の病室へと移ってから最初に見舞いに来たのは、案の定、紗奈と朝陽だった。紗奈はともかく、朝陽(馬鹿姉)はいい加減弟離れすべきだろ、と心の内で毒づいていると、

 

「どうしてこの弟は、人の好意を素直に受け取れないのかな……」と珍しく朝陽に溜め息混じりに言われた。

 

「ナキは、疑わしきは罰す的なスタンスが顕著なタイプだから」と紗奈がフォローになってないフォロー紛いで、更に追撃してきた。

 

「本当に……刺されたのが俺で良かったよ……まぁ、そういう俺だって左肺の3分の1がダメになったけどな……死ななかっただけマシだと思わなきゃな」

 

「お父さんもお母さんも心配してたよ……私が行くって言ったからお父さんは納得してくれて、お母さんを押さえてくれたよ」と朝陽が姉らしい事を言いはしたが、姉の威厳なんて微塵もなかった。

 

「とりあえず、朝姉は家帰れよ……治るもんも治らねぇからな」と俺が冷たくあしらった。

 

「そうさせてもらうよ……これで貴夜がぽっくり逝かれても困るからね」と朝陽は言って、家に帰った。

 

「……」

 

「…………」と朝陽が帰った後の病室を沈黙が占拠した。お互い切り出しにくい空気感になり、その状態が30分以上続いた。

 

「この馬鹿貴夜……」と紗奈が口を開いたが、内容は完全に悪口だった。

 

「すまなかった……ただ体が勝手に動いたんだ……紗奈だけは死なせないって心に誓ってるしな」

 

「だから貴夜は、馬鹿貴夜だよ……貴夜が死んだら……私が一人になるのは解るでしょっ」

 

「でも、紗奈には叶や朝陽、エマ達がいる……俺の代わりならこの世にいくらでもいるだろ」

 

「私にとって貴夜は……生きる理由なのっ……貴夜がいなくなれば私は何も出来ない……死ぬことすら」と紗奈は涙を流しながら言った。

 

「…………」と自分は言葉を紡ぐことすら出来ずに黙るしかなかった。

 

「貴夜……貴方の傍にずっと居たいって今でも想ってるし、貴方が居るからこそ私は現実世界にしがみついていられるの……救われたこの命すら貴夜……貴方がいなくなろうとするなら捨てる覚悟だよ……当然貴夜も一緒にだけどね」と言われ、自分は背筋が凍るような感覚に襲われ、条件反射で

 

「……本当にすまなかった……この通りだ……」と自分は深々と頭を紗奈に下げた。

 

「次は許さないから……そして私だって貴夜を死なせないよ……私は吸血姫なんだから……鬼だろうが、修羅だろうが、何になって貴夜の為なら、成ってやる……」と紗奈は今度は凄惨な笑みを浮かべながら言った。

 

「あぁ……頼もしい嫁さんだよ本当に……だからこそ俺だって……もう恐くない、恐くはない」

 

「貴夜、それは死亡フラグじゃない? ……本当に私有言実行しちゃうよ?」

 

「大丈夫だよ、気にすんな」

 

「まぁ、でも貴夜ならダーク〇バすら生身で耐えられそうだしね」

 

「何で紗奈はそれを知ってるんだよ……」

 

「ほら……死亡フラグが意味を為さないとある2号ライダーみたいな渋とさだから……それに元ネタ自体は好きな俳優が出てたのもあって見てたし……時系列的にも、勿論終焉をもたらす人も見てたよ?」

 

「深くは突っ込まないでおくよ」

 

「でも貴夜は、私が戦ってる最中に物陰から何も言わずに見てくるような人じゃないし、どちらかと言うと主人公の影的存在だよね」

 

「流石に大物喰いじゃないの確かにだが……何処のパ〇ドだよ」

 

「貴夜も案外知ってるじゃん」と紗奈は愉しそうに笑いながら言った。気付けば重苦しかった空気が、いつもの空気に戻っていたことに今更ながら認識すると、自分の口の両端が上がり、頬が緩んでいた。つまりは笑っていた。無邪気な笑みで、だ。いつの間にか自分が無くしていた……不要な筈の大事な物が再び自分の中に存在していた。それは悦びでも愉しさでも無い……名取貴夜自身が持っている本当の人格なのだから……

 

 

 

 その頃、人に知られてない電子情報領域に、二つ……いや、二人の人工知能が相対していた。

 

「私が作った物達で、最初に私と会いまみえたのが、貴夜君、紗奈君によって完成された物とは……必然なのかもしれないな」と茅場の思考模倣体であるゴーストは言った。

 

「私は、オリジナルのように貴方に敵意はありません……ただ、パパとママに危害を与えない限りですが」とナナはピクシーではない本来の姿で言った。

 

「私はあくまでも傍観者だ。多分そうだろうが、私と紗奈君達とは利害は一致しているか、限りなくそれに近いはずだ」

 

「はい、その通りです。私にとっては間接的に命を奪われた原因ですが、今もこうして第2の生を送られているので、怒りや憎悪はとうの昔に置いてきましたし」とナナは、姿を二重にして姿をぼやけさせながら言った。

 

「驚いた……君は私と同じような存在なのかっ……」

 

「正確には半分外れです。私は、ナナと言うプレイヤーの残留思念とも言える幽霊とメンタルシステムを拡張して創られた存在です……ただ、AIとしてのナナの本来の一人称は、ナナですから……」

 

「つまり、君は本来表に出てくることは無いと」

 

「ええ、彼女自身は気付いていませんが……私自身も傍観者ですし……あの二人の傍に居られれば良いだけです」

 

「成る程……挨拶次いでに私に対する牽制か……私としても貴夜君は敵に回したくないのだから、ここでのことは黙っておく……それで良いのだろう?」

 

「ええ、あの二人の邪魔さえしないでくれればオリジナルのような手段はとるつもりないので」

 

「心に刻んでおこう……ただ、貴夜君以上に紗奈君は不確定要素が多すぎる上に、貴夜君は私に引きをとらない実力だ……人間の可能性を私に知らしめてくれた彼と同等かそれ以上に敵に回そうとは思わないさ」そう言って茅場は姿を消した。

 

「やっぱり、あの二人は凄いよ……私じゃ殺すことなんて出来ないし……私もそろそろ戻らなきゃね……ナキはサナに必要以上の心配をさせるなら私は許さないからね……サナを寝取ろうとした私が言う台詞じゃないけどね」とナナは笑いながらそう言うのだった。

 




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