とりあえず今更な更新
あの日から私達は、重村先生の仕事を手伝いながら学生と、公安の手足として動いていた。
特に変わった事件などは起こらず、平和と言えば平和だった。
特にあったこととすれば、私達が作り上げたと言うより完成させたメンタルケアAIのナナが、旧SAO時代で私達を庇って散っていった戦友のナナのゴースト体ということが判明したぐらいだ。
しかし、本人の意識は深い所にあるらしく私達の娘として振舞っている……貴夜はそれを知って苦笑していたが、私は正直嬉しかった。
貴夜の方は、暴漢に刺された傷は癒えて完全に回復していた。傷付いた臓器こそ、刺し所が悪く元に戻ることは無いと言われていたが、幸いにも最小限の被害で収まるだけの損傷だった。
また、貴夜はとある論文を纏めあげて発表を控えていた。彼自身、その論文の元を作ったのは自分ではないからこれで得られる影響は無いと言っていた。
その内容は、「人間の思考プロセス及び人格を電子的再現する際に起きる倫理的問題及びプログラム上の問題」という小難しい内容で、繊細なものだった。しかし、貴夜自身はまとめただけだと言って、重村ラボの1人としてこの論文を提出していた。
義理の父である名取教授からは、私だけに他言無用と言われたが、貴夜の卒論提出の義務は無くなるだろうと言われた。
それを聞いた時、私は固まってしまった。それと同時に名取教授はこうも言った。
「卒論は1人で出すって認識だが、本来は複数人で出したって問題無いはずだ、まぁ、貴夜の場合言ったって卒論を書いて出してくるからな、なら2人で書いた方がいいと思うよ……まだ、早いが紗奈君や貴夜は院に進んで貰いたいってのもあるからね」
「そんな、私までなんて」
「重村ラボから見たら紗奈君は常人だろうが、名取ラボ……いや大学から見ればキミも相当だ……1分野ではなく多分野の見識を持ち、そのどれもが優秀の域を超えている」
「買い被りすぎです」
「そこも美点の1つだよ、私だっていつかは引退するんだ……貴夜には大学に残って継いでもらいたいのさ……無論、ビジネス臭くなるかもしれないが、紗奈君がいるだけでもブランドイメージは変わってくる、というのは建前で、親としては安定した道を歩んでもらいたいってのが本音だ」と公私混同した発言が飛んできたが、名取教授はこういう人だ。
「ですが……」
「これは、独り言なんだが紗奈君が提案していたあの件だが、知り合いの企業が興味を示してくれている」と名取教授は言った。
私は、ナキが取り組んでいたことのひとつを半ば強制的に取り上げてやっている。まぁ、感情を数値化及び判別基準云々は、貴夜自身で作り上げることは無理だと踏んでいた。
名取教授がそれを知って、貴夜に提案して私が担当することになった。私の本来の目的であったフルダイブ型ゲームと医療に関する研究は、神代博士達によって現状到達すべきだろう所に到達しており、私としても悩んでいたので願ったり叶ったりだった。
旧SAOや1部の協力してくれたゲーム会社などからデータ提供を受けて進めているのだが、それはまた別の話。
しかし、当の本人である貴夜は1人でどこか行くことが多くなっているのだった。
「オーディナルスケール……起動」とコマンドを認識したオーグマーが駆動を始め、周囲に大量のMOB敵が湧いた。
何の変哲もないバスタードソードが白い光を纏いながら敵を纏めて切り払うと、全てがポリゴンの破片となった。幾度もソレを繰り返しているのは、貴夜だった。
都内近郊にあるとある建物の地下室で延々と己を追い詰めていた。
「……シナリオ通りにさせて溜まるかよ……俺がケリを付ける……その為にも大切な人でも裏切る覚悟なんだ」とポツリと無意識下で独り言をこぼしていたが、聞かれることは無かった。
暗い空間に沈む漆黒に染った剣は、旧SAO時代のナキの剣を想像させる様な鈍い輝きを持っていた。紅く光を発するオーグマーと同じように光る首元からは微かに湯気のような物が出ていた。
「数値正常、肉体負荷正常範囲内、筐体温度正常……拡張デバイスの方は大丈夫だな……重村先生が作ってやつハードウェアチートにも程があるからな……こっちは割と補助ツールというより外部アクセサリ扱いだから大丈夫だろうな」と視界内に表示されたデータを見ながら貴夜はそう言った。
それと同時に室内が明るくなった。貴夜が居た空間はコンクリートが打たれたままになった空間であり、部屋自体が地下にある為か室温は外よりも低くなっていた。
床には汗が垂れた後が残り、貴夜からは若干ではあるものの湯気が出ていた。
「とりあえず着替えて戻るか……」そう言って貴夜は上着を脱いだ。そこには、それなりに鍛えられた肉体が顕になるが、それよりも縫合の痕の方が見た者には強烈な印象を残すものだった。
しかし、この場には貴夜しかおらず関係の無い話だった。
数時間後、貴夜は帰宅した。
「ごめん、遅くなった」
「帰ってきて、最初に言うことがソレ?」
「ただいま、紗奈」
「おかえり、貴夜……で、遅くなった理由は?」と紗奈は追求した。
「思った以上に道が混んでてさ……抜け道なんてない所で詰まって時間がかかった」
「でも、珍しい……貴夜がジムに行くなんて」
「一応リハビリ中だからな?」
「分かってるけど……割と前と変わらないし」
「いや、元々こっち戻ってきてからずっとリハビリ中だぞ?」
「いや、それは分かってるけど……まぁ、続きはリビングで
」
「そうしてくれると助かる……俺だって立ちっぱはキツい」
そうして、2人は隣合うようにしてリビングのソファに座った。
「それで、お医者さんはなんて?」
「経過は安定、けど臓器に関しては移植とかがない限り治らないと言われた……まぁ、俺みたいなのに回ってくることはまず無いからアレだけどな」
「そうよね……私を庇ったせいで」
「庇わなかったら、紗奈は死んでる可能性があるんだぞ?」
「そうだけど……」
「気にすんなって、傷付いた部分も奇跡的にほぼ最小限に抑えられてたんだ」
「でも……」
「うじうじしないでよ……この話はこれでおしまい、いいね?」
「分かった……あ、ご飯用意してるんだった」
「うん、頼むよ紗奈」と苦笑しながら言うと
「私の悪い癖だよね……流される時はトコトン流されるから」
「気にする事じゃないよ、こっちがちゃんとすれば済む話だしさ」そんなことを話しながら2人は夕食を食べ始めた。
「それでさ……その……」
「ん? どうした?」
「いや……ううん、やっぱりなんでもない」と紗奈の心の内では何かが引っかかったまま時間はすぎていくのだった。
ナキが作り上げた補助デバイスは、オーバークロックなど起こすものでは無く、送信時の信号強度を上げるというただささやかなものであった。パッと見は首かけ式スピーカーだが、よく見るとオーグマーとは有線で繋がれており、デバイスから首元へは電極のようなものが伸びていた。
それこそがナキの切り札でもあり、彼の勝算でもあった。
ある日の夜、オーディナル・スケールのイベントがある場所へと向かった。
「ボス戦が始まるのか……久しぶりで楽しみだなぁ」
「紗奈……ったく周りに人があんまり集まってないからいいけど、本来それは機密なんだからな」
「分かってるって……まぁ、リークされてる時点でね?」
「おら、さっさと準備するぞ……いつも通りだからな」
「いつも通りも何も……まぁ、言いたい事は分かるかいいや」
「「オーディナル・スケール起動」」と2人が音声コマンドを唱えるとお互いの姿が変わった。
ナキはあの頃と変わらず白がメインの服なのだが、所々に黒が入っており、盾はあの頃と比べると一回り小さくなってシンプルなデザインの盾に、剣はシンプルな片手剣であった。
サナは、ナキと似たようなデザインの服だがSAOの頃を彷彿とさせる暗みががった赤を基調とした服装だった。剣は細剣ではあるもののシンプルなものであった。
「アレ、使わないんだよね」
「使ってみろ……完全に浮いて不審がられるぞ」
「そうだよね……とりあえず現実世界の肉体準拠だから考えて動かないといけないのかぁ」
「そもそも調整すら終わってないからな……」
「言ってくれれば私も手伝うのに」
「紗奈に任せるとセーフティーガチガチになるからダメ……スペックを八割近く制限かけたりしたら外した方がマシになるって」
「むぅ」
「というか、中身は終わってるのさ……あとはガワだけなの」
「分かった……とりあえず今日は前ね、ずっと」
「うん、殺す気? ボス見てから考えようよと思ったけど無駄か……」
そんな痴話喧嘩じみたやり取りをしていると続々と人が集まってきた。
時間になって現れたのは、とある階層ボスだったが、2人は当時ボス攻略は参加しておらず、まずその階層の塔攻略にも参加していなかった為、名前と人づてに聞いた外見だけだったが、名前は誤植されているのか違くなっており、外見も人づてであったせいで目の前のそれがそうだと判断できるほど精度がなかった。
「あれって……」と紗奈が呟くと
「ちっ……攻略に参加してないボスか75層以降ボスのどっちかだな」
「とりあえずいつも通り? で大丈夫かな」
「誰かが指揮を執るだろ……そうじゃなければ全員負けるな」
「この感じ……貴夜の予想的中じゃないの?」
「あれなら……距離取って戦うか?」
「貴夜、指揮を頼める?」
「盾役に指揮を執れってか……最悪の場合はだな」
そんな会話をしながらも周りのプレイヤーはボスに向かって攻撃を行っているが、連携もクソもない状態だった。
「とりあえず一旦私がヘイト貰ってくるから、よろしく」と紗奈はそう言うと剣を抜いてボスへと駆けて行った。
「ったく……とりあえず見極めて、紗奈のヘイトを奪い取って戦線の再構築だろうな」
紗奈によってボスからのヘイトが無茶苦茶になったが、即座に貴夜がそのヘイトを受けることによってボスの攻撃が集中し始めた。
最初こそナキに対する憤りに似た何かを周囲のプレイヤーは抱きこそしたが、ボスの攻撃をほぼ受け止めている状況を見てその感情は即座に失せた。
着実にボスの体力を減らしていき、ボスが発狂状態になってもナキは攻撃を受け続けた。
定期的にほかの盾役が交代してくれたがボスの火力に対してはナキ以外では大して耐えられず結果的にナキの負担が増える結果だった。
……この調子なら5分もせずに沈みかねないな、まぁボスの発狂状態でここまで耐えれるこのポテンシャルはランク相応って感じなのかね、とナキはそう思いながらも視界の端に見える自分のランクに苦笑を禁じえなかった。
<Naki>のネームタグの前に25の数字が記されていた。奇しくもナキはランカーと言える程の実力を伴っていた。
「.さてと、そろそろ英雄さんのお出ましかな.」と周囲にほぼ聞こえない声量でポツリと漏らしながら、ボスの攻撃を右へと受け流すと、その方向へ紫の光を帯びた人物が飛び込んできた。
それをナキは視認すると皮肉じみた言い方で「スイッチ」と言って、前線から離れた。
その後は、旧SAO時代落ちこぼれと呼ばれた彼こと、英雄さんはランク2の力を存分に発揮して美味しい所を全て持って行ってくれた。
戦闘終了後
戦闘が行われた付近にベンチがあった為座って休んでいると、先程の戦闘に参加していたであろう人が数人集まってきた。
紗奈は貴夜のすぐ傍まで身を寄せて若干の警戒を見せたが、集まって来た人の1人が貴夜に対してこう言った。
「アンタのお陰で助かったよ、壁役のあんちゃん」
「壁役だからな、それぐらいしか出来ないだろ?」と自虐混じりに貴夜は返した。
「いやいや、同じ盾役のこっちですらあの時間を1人で耐え切れる実力なんて持ってないですよ」と苦笑混じりに集まっていた他の人が言った。
「あんちゃんも見た感じ多分VRMMO経験者なんだろう?」
「まぁ、そうだな……でもどうして?」
「普段、剣や盾を使い慣れるような環境ってそれぐらいしかないだろ?」
「半分正解かな」
「え? 半分正解ってどういう」
「学生時代まで剣術習ってたってのもありそうなんだよな」
「剣術と言うと……筒を斬ってるやつか?」
「そう」
「武道経験者なら納得がいくな……まぁ、今日はホント助かったでら次また会ったらよろしくな」と言ってその人達は帰って行った。
to be continued
約1年ぶりの更新です
更新をほったらかして何をしてたかと言われるとあれですが…
異聞帯を攻略したり、源石片手に素材集めたり…色々してました()
とりあえず今月中にもう1つぐらい更新出来たらな…と
では、また