エマ敗す
2024年10月某日
私とナキは二人で買ったプレイヤーホームに居た。
「ねぇ……ナキ」
「ん? どうしたの?」
「設定画面の深いところにこんなものがあったんだけど……」と私は可視化したウィンドウをナキに見せた。
「論理コード……は? ……何なのさ、この項目」
「ナキなら何なのか分かるかなと思って」
「知らない……けど設定項目ってことは説明書きがあるんじゃないのか?」
「あった……一応読んでみるけど…………って所謂そう言うことよね?」「どれどれ……って、えっ……おう、そうだなこれ……」
論理コード―何故かある謎仕様。そういう行為が出来るようにする項目―を私は見つけて、ナキに心当たりが無いか聞いてみたのだが、気まずさを増すだけだったので、少し後悔した。
「親父さんから何か聞いてないの?」
「メンタル面についてしか知らねーし、こんなの知らないったら知ーらない」と完全にキャラがぶれてしまいながらナキは答えた。
「ってことは……ナキと……えへへ」と私が言うとナキは即座に距離をとって、怯えていた。
「……ナキー? ……ごめんって……悪戯し過ぎた……謝ってるんだから此方においでー」と無かったことにしようとしたが、
「信用ならない」と本来ナキに戻っていて、完全に人間不信にまた陥っていた。
(……ヤバい、ナキを傷付けちゃった……と言うかナキ女々しすぎない?)と思ったが、流石に口にはしなかった。
「ねぇ、ならさ……親父さんの事もう少し聞かせてよ……名取教授でメンタルシステムの作り上げたって事以外で」
「分かった……分かったから……その代わり寝込みを襲うとか、勝手に設定弄んないでね」と、どっちが女なのか判らない口調にナキはなっていた。
「はいはい……約束するから……」
「と言って何回破った?」
「黙秘権」と私はしらばっくれた。
「ま、取り敢えず話しますよ……親父は重村ラボの一人で、同じラボに所属していたエマちゃんの両親が作ったコアプログラムを元に作り上げたのがメンタルシステム……正確には、感情等のシステム化及びAIに応用する為に作り上げたんだ。あの茅場先輩ですら、それを越えるものを作れなかったからSAOにこのシステムがそのまま使われた。感情を司る部分を流れる電流を利用して、感情を数値化する技術で、臨床実験込みで使われているんだが、そこに親父は幾つかのユニークスキルを隠していたけど、それは別の話だ。ま、俺が少し詳しいのは親父の酒呑み話に付き合わされたからだし……」私は聞いていて少し引っ掛かる所があったが、ひとまず相槌を打つことにした。
「それで?」
「ただ、傍で見ていて分かった。茅場先輩も重村先生も、親父も夢を追っているだけだ」その言葉によって引っ掛かっていたことが疑念に変わった。
「え? 待ってナキ……親父さん以外の事も何で分かるの?」
「重村ラボに所属してるから、それは……な?」
「インテリェ」
「サナだって同じだろ」
「そうだけど……」と満面の黒い笑みを浮かべながら含みを持たせながら言うと、ナキはまたしても怯えていた。
「何か運命必要以上に感じちゃうなー」
「と言っても俺らが戻れたとしても籍があるかどうかだな」
「そうね」と私は痛いところを突かれた。
「まぁけど、話せる内容はここまでだけどな」
「えー何で?」
「だって話の在庫切れたし、システムの細部を親父教えてくれなかったし」
「何かごめん」
「別に……最初の件以外はな」とナキは完全に冒頭のやり取りを根に持っているようだった。
「もうすぐハロウィンだね」と私は露骨に話題を逸らした。ナキは、それを気に止めずに
「最前線が74層だからな」
「もう2年弱経つんだから早いね」
「時間の流れは、だな」
「ナキと結婚して約1年半……現実ならそろそろ、ね?」
「蒸し返すのは止めろ下さい」とナキに涙目で言われた。
「別に問題は無いじゃない……現実に干渉する訳じゃないんだし」
「何で俺……こんな重い子に惚れられて、惚れたんだろ……こ、怖いめぅ」
「ナキ、錯乱し過ぎじゃない? 大丈夫?」
「どう見てもサナが原因だよっ」
「ねぇ、ナキ真面目な話をしよ」
「はいはい、お断rーって、どうした急にサナ……何かデバフ付けられた?」
「本当に寝込みを襲おうかなー」と私が嬉々とした笑顔で言うと
「どう見ても物理なんですが」
「ねぇ、生きて戻れたらさ……一応会ってくれるよね?」
「それはね……同じ大学だし会いはしてあげる」
「それとも名取教授に気に入って貰おうかな……そしたら外堀も内堀も埋められるし」
「下心丸見えだし……俺は大阪城か、本当に」
「だってあの時、ナキが私の前にいたから今ここで生きてる……好意を抱いてる相手に助けられて、惚れない女なんていないよ?」
「重いよー早くログアウトしたいー」とナキは完全に泣き言を漏らしていた。
「なら何で結婚してくれたのナキ?」
「だって……そりゃ……サナが好きだし愛してるから……」と顔を赤くしながらナキが言うのでつい逸れた。
「やっぱりナキって女々しいけど……満更でもない返答だよね?」
「うっ……うるしゃい……」
「それでナキとしてはどうなの?」
「そりゃあ……サナと現実でも夫婦になりたいよ……だって、本当の俺を受け入れてくれてるし……あーもう……こっぱずかしいから……」
「その返答で10回くらい惚れ直したよ」
「あぁもう耐えられない……」そう言ってナキは、アロンダイを実体化させて抜剣して切っ先をこっちに向けてきた。
「反省します……」と私は素直に言うと、ナキから出ていた怒気と一緒に出していたヘイトが薄れていった。するとナキが、
「どう見ても地雷です……ありがとうございました……」と言い終わると脱け殻のように倒れて眠った。
「ったく、ナキは本当に可愛らしい……もしナキが女だったら私嫉妬してたよ」私はそんなことを言いながら、ナキに毛布をかけると、今いる場所を見回した。
プレイヤーホームを二人で買って、暮らしていた。61層のセムブルグにあるメゾネットタイプの建物ー奇しくもアスナが住んでいるアパートと同じような間取りなのだが、全体的にこちらの方が少し広いーで諸々含めると12Kは下らないのだが……殆どが狩人として狩っていったレッドプレイヤーのアイテム等を処理ー尚、殺されたプレイヤーの遺品だと解るものはアルゴを通して、返せる物は返しているーして得たコルだった。ナキは、余り乗り気では無かったものの、ラフィンコフィンの壊滅による反動で決意した。二人で家具を揃え、なんやかんやしているその日々も楽しかったし、ここから見える景色が好きなので、普通に気に入っていた。アルゴやエマ達もたまに来るので充実していた。
この2年間弱ナキと共に過ごしていて、幸福に似たような感情を抱き続けていたし、ナキと私がそれぞれ負っていた傷すらも互いに受け入れあった。私は、その知能の高さ故に周囲から浮き、対人能力が低かったが、ナキは対人トラブルでトラウマを負って以来本性を見せずに偽りの仮面を付けて過ごしていた、と言っていた。それを聞いた時に、実際に仮面をつけてたの? と聞くと、そっちの仮面じゃないと言われて理解したが、ナキの性格は女々しくて、優しくて、見透かしてくるし、母性強いし、マジレスをよくする人だなと私は思っている。逆にナキに私ってどんな性格かナキに訊くと、地雷で、我が儘で、一人で抱え込んで、悲観的になって、その癖いつも穏やかで、優しくて、甘えたがりやさんと言われたのはいい思い出だ。そうして感傷に浸っていると、ナキが起きた……と言うより寝惚けて抱き着かれていた。完全に寝惚けているようなので、私はそれに乗じて、ナキに対してあれやこれやしていくのだった。
次の日、ナキからヘイトを全部擦り付けられて、2回死にかけたのにスキル発動しないギリギリの状態になったのは、仕返しなのかなと思った私だった。
何か変なもん拾い食いしたのかレベル更新
多分イエローケーキ辺り拾い食いしたかも
次回サナ病む(いつもの事)と言う嘘予告