吸血姫と天使と鋼鉄の城   作:奈多ナキル

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ゲームの終わりと新たな出会い

 2024年11月7日ーSAOがクリアされた日ー私達は攻略に参加せずに疲れを癒していた。そして、その時が来た。ゲームクリアのアナウンスが流れたのだ。私とナキは、既にお互いの現実での情報を交換しており、ただ嬉しさが込み上げてくるのと同時に寂しさを抱いた。だが、それを二人でで生き残ったと言う思いが上塗りしていった。

 

 

「なら、現実世界でねナキ……違うね……貴夜」

 

 

「おう、現実でな……紗奈」と再会の誓いと別れの挨拶をし、互いに眼を閉じて唇を重ね合わせた。

 

 

 そして、再び眼を開けると……そこは見知らぬ天井と懐かしく感じる匂いがした。

 

 

(そう言えば、入院って久し振りだな……小さい頃に病気になって以来か……確かこういう時ってナースコール押さなきゃっと)そう思ってナースコールを力が無いのは事実なので両手で押した。すると、看護婦が入って来て、色々あってその日は終わったが……ナキの事が頭から離れなかった。

 

 

 次の日、面会に来たのは親友である春山叶だった。ただ、叶の口から結構ブラックな事を聞く羽目になったのだが、それは別の話。

 

 

「久し振り、紗奈」と病室に入るとそう声をかけて、ベッド横にあるスツールに腰を下ろすと同時に私は応えた。

 

 

「久し振り叶……2年半振りだね」

 

 

「本当に心配したけど良かった……けどこっちもこっちで大変だったよ」

 

 

「へ?」

 

 

「私さ、公安に入ったんだけど……入って最初の仕事からSAO絡みでさ……とある開発スタッフ達を追うはずが死んでね……その娘である子はSAOに囚われててね……色々と面倒な案件でねー」と表面上は嫌がっていたが、本人は満更でもなくて嬉しそうだった。そして私はその話題に上がっている人物に察しがついた。

 

 

「ねぇそれって〈エマ〉ってプレイヤーじゃない?」

 

 

「何で知ってるの?」

 

 

「と言うかまず、機密事項じゃないその案件?」

 

 

「そうだけど」

 

 

「ま……私が知ってる娘だから良かったけど」

 

 

「教えてもらえるかな……そしたら」

 

 

「けど事情はナキじゃなかった貴夜からの伝言ゲームだし……あっちでエマと実際に話したりした感覚としては悪い子とは思わないけど」

 

 

「ちょっと待って貴夜君って……同級生で、あの名取教授の?」

 

 

「そうだけど……どうしたの?」

 

 

「いや……まだクリアから1日しか経ってないから、差があるのか一向に目覚めないプレイヤーが約300人いて、貴夜君もその1人でさ……って紗奈、どうしたの?」私はその言葉を聞いて、絶望に囚われて涙がこぼれた。

 

 

「ナキ……の嘘つき……絶対目を覚ましたら……ただじゃおかない」ボソッと無意識下に呟くと、それを聞いた叶がギョっとしていた。

 

 

「アグレッシブ過ぎない紗奈……ちょっと恐ろしいよ?」

 

 

「ご、ごめん叶……あっちでさ……貴夜とは結婚していたからさ……その前も含めると約2年間弱一緒に居たから……」

 

 

「と、とりあえず来週には貴夜君と面会出来るように手配しておくからさ、リスカとかしないでよ?」

 

 

「どこの地雷女よって、それは私か……ははは……」

 

 

「ま、とりあえずリハビリを頑張って……私は例の件の処理とかあるから……」

 

 

「あ、叶……私の事はエマにまだ話さなくて良いから……まだ話せてないこともあるし」

 

 

「了解。今週中またどこかで来るかもだから、よろしく」

 

 

「分かった」と私が返事をすると、叶は病室から出ていった。

 

 

 

 

 

 私は医師の判断で周りより遅く退院となった。日程は1月中旬とのことだったので、年明けまでこの病室にいることになるとの事だった。また、叶は医師に伝言を頼んでいたらしく……内容は貴夜がこの病院にいることだったが、医師からはまだ私がリハビリにすら行ってない為、早くても来週以降しか面会出来ないとの事だった。最初の1週間はリハビリやらなんやらで、大変だったし、両親も見舞いに来て、私の話を聞かせてくれと頼まれて、悩みつつも狩人のことも伏せずに話した。それを聞いた両親は見限ることも無く、生き残って、更にパートナーまで見つけるなんてと微笑ましく言っていた。ただ、退院が遅くなる理由は、病弱だったこともあるから仕方ないよと言われたのとは別に、年末年始を一緒に過ごせないのは、残念だけど色々しないといけないことがあるから、気にしなくていいとも言われ少し私は安堵した。ただ、両親の親バカっぷりが凄いと改めてそう思った。

 

 

 ただ私は、そういうことがどうでも良く思えるぐらい、ナキが恋しかった。不器用な優しさでしか表現してこない癖に、不意にそのままで表現してきて、私を守ってくれて、受け入れてくれたナキー貴夜ーがただ恋しく愛しく思えた。

 

 

(……どうしてナキはあんなにも……怖いなんて感情を出さなかったんだろう……私のモンスターっぷりには、怯えていたけど、それすらも好きだと言ってくれるナキの優しさ……うぅ……早く貴夜に会いたい)そんなことを思いつつも、私の心の内で何かが荒んでいくのを感じていた。

 

 

 

 

 

 ついにその日が来た。叶に車椅子を押してもらい、貴夜がいる病室へと入った。そこには未だに眠ったままの貴夜とは別に少し老けた男性がいて、叶がその男性に対してこう言った。

 

 

「名取教授、こんにちは。貴夜君のお見舞いですか?」

 

 

「君は……叶君と呼ぶべきか、公安の方で呼ぶべきか……」

 

 

「名前で構いませんよ」

 

 

「そうか……そしてその娘が貴夜と共に過ごしていた〈吸血姫〉の娘かい?」と訊かれたので、私は自己紹介で返すことにした。

 

 

「はい、そうです。名前は有栖川紗奈と言います。SAOではサナと名乗ってました。貴夜とは同じ高校出身の東都工業大学の学生です」

 

 

「成る程、君が叶君の親友で、しかも貴夜や自分との接点があったとは」すると、叶が私の耳許でこう言った。

 

 

「えっとね、紗奈……一応ある程度のことは話しているし、狩人であったことも知っているから安心して」

 

 

「心配しなくていいよ紗奈君。自分としては、あの貴夜が惚れた娘だから疑念とかを抱いてる訳じゃないし、ここで貴夜を下さいと言われても自分は二つ返事をするしかないからね……叶君も話があるから来たんだろう? 他の場所で話そうか」

 

 

「分かりました。じゃ紗奈、私が戻ってくるまで……くれぐれも変な気起こさないでね?」

 

 

「大丈夫」と私が答えると、叶達は退室し、病室には私と眠ったままの貴夜だけの二人きりになった。貴夜の寝顔を覗くと穏やかそのものだった。ただ、その姿は大人の男性では無く、少女のそれでしかなかった。細い腕と白い肌、長い黒混じりの茶髪……出逢った頃の面影こそあれど中性的と言うよりも女性的な印象を受けた。

 

 

(……時々、ナキは女々しいと言うか女っぽい節があったけど……この外見で言われるとちょっと説得力ありそう……)と思いつつ、貴夜の頬に触れると息遣いと温かみを感じた。

 

 

「……ねぇ、ナキ何処に行っちゃったの……貴夜の馬鹿っ」そんなことを言っても貴夜は、目を覚ますことも無く、私はただ貴夜の頬に手を当てたまま、貴夜を見つめていた。

 

 

 少しして、叶が戻ってきてこう言った。

 

 

「紗奈……どう?」と片手にペットボトルを2本持ちながらせ、傍によって来た。

 

 

「叶ありがと……ほんの少し気が楽になった」

 

 

「はいっ、紗奈はレモンティーで良かったよね?」とキャップを開けた状態で、私に渡してきて

 

 

「ありがとう」とお礼を言ってペットボトルに口をつけた。

 

 

「ねぇ、私の話を聞いてくれる? ……別に貴夜君に触れたまんまでもいいけどさ……別に」と言われ私は言外の意図を察したので貴夜に触れるのを止めて

 

 

「どうしたの?」と訊ねると

 

 

「一応、今私さ……総務省仮想課に出向しててさ……公安と喧嘩別れの形でね」

 

 

「どうしてそうなったの?」

 

 

「エマちゃんの事でね……公安としては駒が欲しいらしくてさ……一応ね、VR規制反対派のお偉いさんの後ろ楯があるからまだお咎め無しでね……」

 

 

「本当にきな臭いね……本音は関わりたくないな私」

 

 

「私だってそうだもん……クロスってコードネームでエマちゃんには接してるし……一応春山家で預かってるんだけど」

 

 

「そう言えば積木ちゃんも被害者だったね……」

 

 

「うん……色々あって押さえ込めているんだけど……何時まで耐えれるかなって……」

 

 

「けど叶、具体的にどれくらいその状態を保てる?」

 

 

「長くて1年半……短くて半年かな」

 

 

「それまでにどうにかしなきゃって事か……」

 

 

「まぁ……ただまだ囚われたままプレイヤーがいるから、それが片付くまでは、どうにかなるとは思う」

 

 

「独り言ってことでいいのよね?」

 

 

「え……うん、お願い」

 

 

「貴夜にも話すべきかもね……狩人をしようと言い出したのも貴夜だし」

 

 

「そうなのね」

 

 

「……どのみち医者とかの話し的に動けるのは1月頃だし、目の前の事をどうにかしないといけないから流せるなら流しておきたいなぁー」

 

 

 結局その日は面会時間ギリギリまで、貴夜の傍にいた。

 

 

 複雑な心境のなかで、少しずつ己の内側が黒くドロっとしたものに変質していくのを感じた。

 ただ、1つ言えるのは、また貴夜と話せて、共に過ごすことはできるはず、と希望を持てたことだった。

 

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