第一章 陽炎編
その日私は朝から辛かった。なんでって、目を覚ましたと思ったら視界は揺れてるし頭も喉も痛いし咳はでるし、これはどう考えても。
「あー、風邪……ひいちゃったかぁ……ゴホッ!」
喋ったとたんに咳がでるし、あーもう。どうしようかな。
「陽炎、起きとるかー? 朝の遠征に……どないしたんや?」
ノックもなしに扉を開けてきて……まったくもう黒潮は。普段なら怒るところだけど……。
「ゴホッ! ゴホッ!」
声より先に咳が出ちゃう。これ、結構重症ね。
「ありゃー、陽炎もしかして風邪かいな? どんな症状が出とるんや?」
「……喉も頭も……ゴホッ! 痛いし動けない……ゴホッ!」
「あわわ、こちゃアカンわ。今日の遠征は休むって事伝えてくるから、陽炎は取り敢えず熱測っておき。ほら、体温計挟むからちょっとだけ脇開けるで」
そう言って黒潮は私の脇に体温計を挟むと部屋を出て行って、しばらくしたら戻ってきた。
「取り敢えず外歩いてた不知火に司令はんへ伝えるよう頼んだわ。体温はどうや? ……うっわ、38度もあるやん。こりゃお医者さんに診てもらうほうがええで」
「わかってる……黒潮、手伝って……ゴホッゴホッ!」
なんとか体を起こすけど、頭が痛くてそれ以上行動を起こせない。
「大丈夫か? 陽炎、本当にヤバイなら先生にここに来てもらうようにするで?」
「だい……じょうぶよ……、なんとか……キャッ!」
ベットから体を起こそうとしてバランスを崩した私を黒潮が咄嗟に支えてくれる。
「ほら、言わんこっちゃない。先生呼んでくるから陽炎はおとなしゅうしとき」
そう言って黒潮は私をベットに戻して部屋を出て行った。
「はぁ……もう、風邪なんて最悪……」
今日の遠征に穴開けちゃうし、舞風や秋雲の特訓にも付き合えないわね。代わりに誰かやってくれるといいけど、今度謝らないと。
そんな事を思いながらボーッと天井を見ていて、しばらくしたら黒潮が軍医の人を連れてきてくれた。で、診てもらうとものの見事に風邪。今日明日で治るものじゃないからしっかりと休養を取って休むことって念押しされちゃった。
「取りあえずインフルエンザとかやなくて良かったけど、しっかり休養せなあかんで陽炎」
「わかってるわよ……ゴホッ。それ……より黒潮……いつまでいるつもり……ゴホッゴホッ」
「んー? うちは陽炎がちゃんと治るまで一緒におるで。取り敢えず食べれるもんとか用意してくるからちょっと待っとってな」
「え、いっしょって……ゴホッ!」
私が聞き返すより早く黒潮は部屋を出て行っちゃった。一緒に居るってどういうつもりよ、風邪移っちゃうじゃない。
そんな事を思いながら寝てたら、しばらくして黒潮が戻ってきた。手にお鍋となんか袋持ってるけど、何が入ってるんだろう? 視界がボヤけてよく見えない。
「間宮はんとこでおかゆ作ってきたで。それと他にも色々持ってきたからな、ちょっと待っとってな」
そう言って黒潮は氷枕を取り出すと、タオルで包んで私の頭の下に敷いてくれる。
「陽炎、食欲のほうはどうなんや? 少しでも食べとかんと回復せえへんで」
「ん……今は無理……」
本当は食べたいんだけど、喉が痛くて多分通ってくれそうにないのよね。黒潮のいう通り食べたほうがいいのはわかってるけど。
「さよかぁ。それじゃぁ飲み物とのど飴だけにしとこうかぁ。水分は取らんとアカンで」
そう言ってスポーツドリンクにストローを入れたものを顔の横まで持ってきてくれて、ストローを口元に持ってきてくれる。ありがたくストローを加えてスポーツドリンクを飲んでいくけど……正直恥ずかしい。お姉ちゃんの立場がないじゃない。
「プハッ……ありがと……」
「ええてこれぐらいでお礼なんて。それより後はのど飴でも舐めて大人しゅうしとき。ほら、リンゴ味でええか?」
私が頷くと黒潮は飴の包装を破って私に……渡さずにそのまま口元に持ってくる。
「ちょ……黒潮……それはちょ……」
「ええからさっさと食べーや。喉が痛いの治らんで。はい、あーん」
そう言って唇の上まで持ってこられた飴を、私は諦めて口を開ける。すると黒潮の指が少し口の中に入ってきてそのまま飴を入れる。
「ほい。それじゃぁ後は温かくして寝ておくんやで。うちは勉強でもしとくから、なんかあった呼んでや」
そう言うと黒潮は私の机に座って勉強しだした。勝手に私の机使わないで欲しいし、なんでここに居続けるのよ。
「黒潮……ゴホッ、あんた今日の予定どう……するのよ……」
「大丈夫や。ちょっと他の子に頼んできてるから問題ないで。陽炎はうちの心配なんかしてへんとゆっくり寝とき。陽炎が風邪治さんかったら皆心配するで」
それはわかってるけど、だからって黒潮に付きっきりで看病してもらわなくてもいいのに……はぁ、これじゃぁお姉ちゃん失格じゃない……。
「ア、そうそう忘れとったわ。陽炎、これ付けとき。こっちのほうが寝やすいで」
そう言って黒潮が袋から取り出したのはアイマスクだった。確かに、あるほうが寝れそうね。
「それじゃぁゆっくり休んどきや。何かしてほしいことがあったら呼ぶんやで」
そう言うと黒潮はまた私の机を使って勉強を始めた。言っても聞きそうにもないし、私も寝ることにしよう。なんとかアイマスクを付けると、私はゆっくりと意識を手放した。