あの遭遇戦以降特に何事も起きず、私達は無事に任務を終えることができました。そして、任務終了の報告を川内さんにお願いし、黒潮さんは入渠へ。私もその付き添いとして、今は一緒にお湯に浸かっています。
「はぅあ~、ええ感じやぁ」
隣にいる黒潮さんの気の抜けた声に私もつい気が抜けそうになります。
「しっかし、親潮。付き合わんで良かったねんで? 親潮は特に負傷しとらんやろ?」
「いえ。私のせいで黒潮さんが負傷したんです。入渠の間ぐらいお世話させてください」
「もう、相変わらず真面目やなぁ親潮は」
そう言って苦笑する黒潮さんの姿に私は心なし安堵しました。どうやら、大した負傷ではなさそうです。ですが、自分のミスで黒潮さんを負傷させてしまうなんて……自分が情けない。
「ところでなぁ親潮。あんたなんで焦っとるんや?」
「そんな……焦ってなんかないですよ?」
「嘘言うなや。訓練では体が限界くるまでやっとるし、さっきの戦闘でもやらんでもいい肉薄攻撃かまして後ろから撃たれとるし……なぁ、いったいどうしたんや?」
私の肩を掴み、顔を近づけて聞いてくる黒潮さん。ああ、そんな心配そうな顔をしないでください。……なんでもない……んですよ。
「なんでもない……です」
「ほーぅ、顔には何かありますってでっかく書いとるのに、あくまで言わん気かいな。そっちがその気ならうちも考えがあるで……これから先、親潮が理由を言わん限り一緒に食事せえへんで」
「え!?」
「更に日を置くごとに一緒にやらんことを増やしていくで。おやつも一緒に食わんし、特訓も付き合わんし、出撃や遠征も一緒に組まんように提督にお願いするし……」
そんな、黒潮さんと一緒に食事ができないとか……嫌です。私はそんなの嫌です!
「ま、待って……待ってください黒潮さん、待って!」
「待ていうんやったら理由を話しいや。話はそれからやで」
……黒潮さんの目は本気でした。……話すしかない……んですね。
「……私は強くならないとダメなんです。先の大戦で……私は黒潮さんも陽炎姉さんも守れずに沈んだんです。あの時、私がもっと強ければ、お二人を守れるだけ強ければ良かったのに……私は何も……!」
そうです。私は何もできなかった。だから、今はお二人を守れるように、誰も沈められないように頑張らないといけないんです。ダメ……なんです。
「……はぁ~~~~」
……思い切りため息をつかれてしまいました。なんでですか? 黒潮さん、私じゃダメなんですか? 私じゃどうやってもダメなんですか!?
「……いやはや呆れたわ親潮……あんた、陽炎型の4番艦で、下に十人以上も妹がおるのに、そんな考えしとったんか?」
「な、なにがですか! 私が強く……強くならないといけないじゃないですか! ……アタッ!」
黒潮さんの言葉に思わず身を乗り出すと、黒潮さんのデコピンが鼻に当たって……痛い……。
「親潮、ウチらは艦隊や。確かに一人一人の錬度が高いのはとても大切なことや。でもなぁ、連携が取れへんかったら各個撃破されておしまいやん。さっきの戦いを思い返してみいや。親潮が焦らんかったら普通に行けてたやん」
「そう……ですけど! 私は陽炎姉さん達に追いつけるようにしないと……しない……と」
そこまで言ったとき、私の頭に黒潮さんの手が置かれていた。
「……ホンマ、親潮は融通は効かんなぁ。だから、親潮は一人で頑張りすぎやねん。……ウチらは姉妹やろ。親潮一人で頑張る必要なんかあらへん。ウチらが頑張ればええんや」
そう言って頭を撫でてくる黒潮さんの手は暖かくて……なぜか安心してしまいます。
「親潮、自分一人で何もかも背負い込もうとしたらアカン。それは戦艦にも空母にもできへん事や。そんなんしとったら自分が潰れてしまうんや。やから、もっと他の子に頼ってええんや。な、わかってくれるか? 親潮」
「でも……親潮が頑張れば……先の大戦で陽炎姉さんも、黒潮さんも……」
「……親潮、それはお互い様や。そないな事言ったら、まず最初に悪いんはウチやで。だって、最初にやられたんはウチなんやから」
「! それは……」
黒潮さんの言葉に反論しようと顔を上げた私の目に入った黒潮さんの表情は……どう表現すればいいのでしょ。泣きそう? 悲しそう? それなのに私を気遣っているような……それらが全て混ざったような、そんな表情を、私はどう言えばいいんでしょうか。
「な。悪いんは親潮だけやないやろ? やから一緒に頑張ろうや、ウチも一緒に頑張らせてえや。親潮が一人で、一人だけで歩いていくんは……ウチはとても寂しいし……悲しいで」
「はい……はい……」
もう黒潮さんの顔を見ることはできませんでした。……私は黒潮さんを悲しませていた。その事実に気づけなかった……。自分の不甲斐無さに涙が止まりません。俯いて泣くことしかできません。
「……こんな言葉だけで泣いてしもうとるやん。やから抱え込みすぎるんはアカンのや。ほら、お姉ちゃんが胸貸したるから、泣きたいだけ泣き」
そう言って黒潮さんは私を抱きしめてきました。裸の黒潮さんの胸から伝わる心臓の鼓動。それを感じながら、私は泣き続けました。