黒潮お姉ちゃんシリーズ   作:雨宮季弥99

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第四章 浜風編2

 街に着いてから黒潮と一緒に買い物をしたり初風達に頼まれたケーキを受け取りに行ったりしたけど……やっぱり気を使うなぁ。一人で気楽に買い物したかったのに……頼まれると断れないのがいけないのかなぁ。

 

「浜風、さっきから変に考え込んだりしとるけどどないしたんや?」

 

「い、いえ、なんでもないです」

 

 黒潮が私の顔を覗き込んできたから慌てて誤魔化したけど……これだからしんどいなぁ。どうしようかなぁ……あれ?

 

 私の視界に入ってきたのは美味しそうなお饅頭の露店でした。……凄い食べたいなぁ……。

 

 その時、ふと心に浮かんだのは悪戯心だったと思う。黒潮に内緒でこっそりお饅頭を食べて何食わぬ顔で合流してみよう。今私達の周りは人込みだし、少し居なくなっても不可抗力よね。

 

 そう思い立った私はこっそりと黒潮から離れて露店のほうに足を向ける。黒潮には後で連絡すればいいしけど、うっかり気づかれる前に早く……。

 

 その時、不意に私は腕を掴まれ、抵抗する間もなく引きずられていったと思うと、人気のない路地まで連れ込まれました。私の腕を掴んでいるのはいかにもチンピラと言った感じの人で、その人以外にも、もう一人後ろに似たような人が立っていました。

 

「へっへっへっ。かわいこちゃんゲットだぜ。見てみろよ子の胸、最高じゃね?」

 

「ああ。こりゃ上玉だな。将来が楽しみだぜ……今のうちに手出しておかねえとな」

 

「は、離してください!」

 

 私はがむしゃらに暴れようとしますが、男二人には勝てず、そのまま両腕とも掴まれ、蹴ろうとした右足も掴まれてて……。

 

「ヘヘヘ、だめだぜお嬢ちゃん。そんなスカートでキックなんかしちゃあよぉ」

 

「上だけじゃなくて下も自信ありますって事なんじゃねえの? それじゃぁ楽しませてもらおうじゃねえの」

 

 そう言うと男の一人が私の胸を掴んで……いや、いや!

 

「誰か! 誰か!! モゴッ!」

 

「へへへ、声なんか上げさせねえよ。それにここじゃ助けなんかこねえぜ」

 

 男の言葉に私の体はどんどん震えていき、体の力が抜けていって……、そんな、なんでこんな事に。神様……。

 

 涙が零れ、絶望が心を支配していく中、私は神様に助けを求める。でも、神様は助けてくれなくて……。

 

「おんどれら! うちの妹になにしてくれとるんや!」

 

 突然聞こえた聞き覚えのある声。それと同時に私の口を押えている男が突然手を放してその場に蹲った。

 

「な!? なんだてめえ!」

 

 もう一人の男が慌てて後ろを向くけど、それより先に飛び掛かった黒潮のパンチが男の顔面に突き刺さっていた。

 

「それはこっちのセリフやこのクソどもが! うちの可愛い妹に乱暴するとはええ度胸や、生きて帰れる思うな!」

 

 そう叫ぶ黒潮の姿は普段の姿からはとても想像できないような荒々しさで、そのまま男二人相手にガチの大喧嘩をしだした。私はそれを、ただ見ていることしかできなかった。

 

 

 しばらくして騒ぎを聞きつけた人が通報したのか、警察の人が来て騒ぎは収まった。男の人たちは暴行、傷害等で逮捕され、私と黒潮はパトカーで鎮守府まで送ってもらうことになった。私はその間、ただ泣いているだけで、何もできなかった。警察の人への事情説明も、提督への事情説明もできず、今は黒潮と一緒に入渠しています。

 

「アタタ……ちょっとやられすぎたなぁ。もっと鍛えなあかんなぁ……しかし、浜風、体は大丈夫かいな? なんもされてへんよな?」

 

「……だいじょう……ぶ……」

 

 私を心配してくれる黒潮の体にはあちこちに擦り傷や殴られた跡があって……。直視できないよ。私のせいで……。

 

「しっかし、今日は災難やったなぁ。初風達のケーキもグシャグシャにしてもうたし……。後で謝らんとアカンで。それに、浜風も災難やったなぁ。今日はもう間宮でええもん食べてさっさと寝て忘れような?」

 

 そう言って私を気遣ってくれる黒潮……私のせいでこうなったのに……そう思ったとき、私はこらえることができなかった。

 

「う……うぇぇ……ん……くろ……しお……ごめ……なさ……」

 

「へ? は、浜風!? 大丈夫か? まだ怖いんか!? 大丈夫やで、ここなら大丈夫や」

 

 黒潮の言葉に私は首を横に振って否定します。違うんです黒潮……違うん……です。

 

「ちが……ちがう……くろ……うぇぇん」

 

「……ようわからんけど……とりあえず急がんでええから。ゆっくり喋りぃや」

 

 そう言って頭を撫でてくれる黒潮に余計に申し訳なくなりますが……少しずつ気持ちを落ち着けた私は改めて黒潮のほうを向きました。

 

「ごめんなさい黒潮……全部……私が悪いんです」

 

「いや、なに突然言うとるんや。悪いんはあの男達やん。浜風はなんも悪うないで」

 

「違うんです! 私は……」

 

 私は言いました。初風達に頼まれたのも本当は断りたかったけど断れなかったこと。普段から責任感が強いという事で色々頼まれるのが嫌なこと。今日も黒潮が一緒で正直ちょっと邪魔だと思ったこと。あのお饅頭の露店に行くためにワザと黒潮からはぐれたこと。全部言いました。

 

「そうかぁ……そうやったんやなぁ……」

 

 全部を聞き終えた黒潮は大きく大きく息を吐きました……。呆れられたんでしょうか? 見放されてしまったんでしょうか? でも仕方ないよね、だって私はそれだけ……。

 

「……よし、今日のぐちゃぐちゃになったケーキの弁償。それと浜風が見たっていう饅頭の露店の商品を一種類ずつ全部買ってきてもらうで。それで勘弁したるわ」

 

「へ?」

 

 予想外の黒潮の言葉に私は呆気にとられてしまいました。え、そんなのでいいの?

 

「へ? てなんやねん。まさかお金ないとか言わへんよな」

 

「ち、違う! そうじゃなくて……黒潮、そんなのでいいの? 私の事……幻滅してないの?」

 

「幻滅てなんやねん。そもそも浜風は13番艦やん。末のほうの妹やのにぽんぽん物事を頼んどったのがおかしかったんや」

 

「で、でも! 私は今日黒潮が邪魔だと思って……それでわざと逸れたせいで男たちに……」

 

「そら、そんな日もあるやろ。うちかてたまには一人でノンビリしたい日かてあるで。わざと逸れたんは怒っとるけど、男達に襲われたんは完全に向こうが悪いやろ」

 

そこまで言うと、黒潮の視線が不意に私の胸に注がれた。

 

「それとも何か? 自分の男に襲われるような胸がいけないんです。とか言う自虐風自慢でもしたい言うんか? そんならその喧嘩は買うで。値引きなんかいらへん、定価で買うたるわ」

 

「ち、ちが! そうじゃなくて……」

 

 黒潮の言葉に私はどう返せばいいかわからないよぉ。なんで許してくれるって……そんな簡単に言えるの?

 

「……あんなぁ浜風。あんたは妹や、しかも末のほうの妹や。責任感が強い言うんは大切やけど、やからって無理する必要なんかあらへんやん。妹は姉に甘えてええんや。多少なら我儘も言うてええんや。やから今回は許したる。その代り、次からはもうちょい我儘になりぃや。妹が一人で抱え込んで疲れとるなんて姉として放ってはおけんのや」

 

 そう言って肩を叩いてくる黒潮。傷だらけの顔に浮かべるその笑顔に……私は申し訳ないと思って……でも、それ以上に嬉しくて。私は黒潮に抱き着いていた。

 

「おわ! ……痛い痛い! 浜風、痛いって!」

 

「ごめんなさい! でも、ちょっとだけ我儘にさせて、お願い!」

 

「いや! 抱き着くのはええけど傷に沁みるんや! ……アイター!」

 

 黒潮が騒ぐのにも構わず私は黒潮を抱き締める。だってそうしないと……嬉し過ぎてまた泣きそうだったから。

 

 

 ……入渠が終わった後黒潮に思いきり叩かれたけど、私は後悔しなかった。

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