黒潮お姉ちゃんシリーズ   作:雨宮季弥99

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第一章 陽炎編2

 どれだけ時間が経っただろう。目が覚めた私がアイマスクを外すと蛍光灯の光が眩しくて思わず目を閉じる。

 

「あ、陽炎起きたんか? 体調のほうはどうや?」

 

「ん……少し楽になったと思う……今何時?」

 

「今は一一○七やなぁ。ちょっと早いけどごはん食べるか? 朝何も食べとらんし」

 

 黒潮に言われた途端、お腹が大きな音を立てて鳴った。……うう、恥ずかしい。

 

「お腹のほうは食べたい言うとるようやな。喉のほうは大丈夫なんか?」

 

「……今は大丈夫……」

 

 恥ずかしくて布団を顔まで被っていると、黒潮が近づいてくる気配がした。顔を出してみると、そこにはおかゆの入った器とレンゲを持ってる黒潮の姿があった。

 

「冷めても美味しいように作っとるからすぐに食べられるで。はい、アーン」

 

「ちょっと……恥ずかしいってば……」

 

 レンゲでおかゆを掬った黒潮がそのレンゲを私に近づけてくる。だから恥ずかしいって!

 

「アカンで陽炎。そんな赤い顔の病人が自分で食べようとしたら零すかもしれんやん。ほら、諦めてアーンや、アーン」

 

 そう言ってレンゲを口元に持ってこられると流石に諦めるしかないわけで。私は口を開けるとレンゲを銜えておかゆを食べる。冷めてるけど、確かに美味しい。お腹が空いていたのもあって、私は夢中で黒潮から差し出されるレンゲを銜えてはおかゆを食べていき、あっという間に空にしてしまった。

 

「美味しかった……。ありがとうね、黒潮……ゴホッ」

 

「ええって、これぐらい。じゃぁ次は薬やな、さっき軍医さんから貰っておいたけど……ありゃ、これ粉薬やな。陽炎、苦いの大丈夫か?」

 

「……私はあんたのお姉ちゃんよ……。それぐらい飲めるわよ……」

 

 なんて言い草よ。元気になったら覚悟しなさいよ……まったく。

 

「それじゃぁちょっと体起こすで。せーのっと」

 

 背中に回された黒潮の腕に頼ってなんとか体を起こすと、私は薬を飲む。うえ……確かに苦いわね……。黒潮から渡されたコップの水を一気飲みしても苦味は取れず、もう一杯飲み干す。

 

「陽炎、やっぱ苦いのだめそうやなぁ。うちの部屋に薬を包む甘いジェルがあったはずやから後で取ってくるわ」

 

「要らない……わよ……。雪風達……じゃないんだから」

 

 そんなの使ったなんて知られたら次から何言われるかわかったものじゃないわ、まったく。

 

「そんなの気にせんでええと思うけどなぁ。あ、服のほうはどないする? 寝汗凄いし、着替えんでもええか?」

 

 確かに寝汗で気持ち悪いけど……どうしよう。そこまで体動くかな?

 

「体動かんくってもせめて上だけは着替ええや。それにタオルで体ぐらいは拭かんと、気持ち悪いやろ」

 

「……そうね、お願い……」

 

 恥ずかしいけど、このまま汗べっちょりで寝るのも嫌だし……我慢しないと。

 

 私が頷くと、黒潮はタンスから新しいパジャマの上と下着、それにタオルを持ってきて私の隣に置く。

 

「それじゃぁ脱がすからな。腕だけバンザイしとって」

 

「ん……」

 

 黒潮の言われた通りバンザイすると黒潮が丁寧に私の服を脱がしていく。そして裸になった私の上半身をタオルで優しく拭いていく。

 

「凄い汗やなぁ。後は服着たらもっかいスポーツドリンク飲んで寝ておかんと」

 

「わかって……ゴホッ、るわよ」

 

 されるがままの自分が情けなくてつい悪態をついちゃうけど、黒潮は軽口を止めずに私の体を拭いていき、新しい服を着せると私をベットに寝かせる。

 

「黒潮……あんた……は、ご飯どうするのよ?」

 

「大丈夫やでぇ、後で食器を返しに行くときにちゃんと食べてくるからな。陽炎はうちの心配なんかせずにちゃんと大人しゅうしとき」

 

 そう言うと、黒潮は氷枕を新しいのに変えて私に布団を被せると、スポーツドリンクのペットボトルに刺さっているストローを私の口元まで持ってくる。私がそれに口をつけてスポーツドリンクを飲むと、またのど飴を差し出してくるが、今度は流石に自分の手で受け取って食べる。そのままベットで横になり続けるけど、流石にさっきまで寝てたからすぐには寝れそうにはなさそう。

 

「ほな、うちはお鍋とか返してくるから、陽炎、おとなしくしとるねんで」

 

 そう言って黒潮は電気を消して部屋を出て行った。まったく、とことん私を子ども扱いして。……まぁ、駆逐艦は子供だけど、私はあんた達のお姉ちゃんなんだから……本当、早く風邪治さないと。

 

 そんな事を思ってると、部屋の扉がノックされ、それから私の返事も待たずに不知火が入ってきた。

 

「陽炎、起きてますか? お見舞いにきたんですが」

 

「ん……起きてるわ……電気つけて」

 

 そう言うと不知火は電気をつけて私の近くに来る。

 

「黒潮から容態は聞いていましたが、少し回復されてるようですね、心配しましたよ」

 

「ゴホッ……大丈夫よ……それより……皆はどう? ちゃんとやれて……る?」

 

「はい。黒潮が早くに陽炎の事を伝えてくださったので、手早く皆で数日分の陽炎の仕事の分担を決めれました。陽炎はこちらの心配はせずに養生に専念してください。他の妹達には陽炎の風邪が移るかもしれないからお見舞いは控えるようにとも言っています」

 

「そう……ごめんね、手間かけさせちゃって」

 

「別に構いません。それでは、あまり長居しても気が散るでしょうから不知火はこれで失礼します。こちらの事は心配せずにゆっくり休んでいてください。それと、これを置いておきますので、余裕のある時に食べてください」

 

 そう言うと不知火は一礼し、枕元に袋を置いて、電気を消して部屋を出て行った。相変わらず淡々としてるけど……心配してなかったらそもそも来ないし、もしも風邪が移ったら私が気にするって思ったんでしょうね。まったく……黒潮もその辺気を使いなさいよ……。

 

 頭を動かして不知火の置いた袋を見ると、中にクッキーが入っているのが見えた。これは後で食べようかな。

 

 そう思っていると瞼が重くなってくる。短い間だったけど、不知火と話してて体力を消耗したのかしら? なんでもいいや。取りあえず寝よう……。

 

 私はアイマスクをつけると、そのまま眠りに落ちた。

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