黒潮お姉ちゃんシリーズ   作:雨宮季弥99

21 / 63
第六章 舞風編
第六章 舞風編


 あたしは踊りが好き。踊っていたら暗い雰囲気なんて吹き飛ばせる。嫌なことを忘れられる。でも……あたしには……舞風には踊れない踊りがあるの。それは、本来なら日本人なら誰でも踊れる踊りなのに。あたしは、それを踊る事ができなかった。本当に必要なその時に。

 

「ねぇねぇ舞風。これ見ました? 盆踊りの大会が鎮守府の近くで行われるんですって」

 

 そう言って雪風が見せてきたのは近くで行われる夏祭りで行われるという盆踊り大会のチラシだった。どこで持ってきたんだろう。

 

「舞風、踊りが好きだし一緒に出ません? 楽しいですよきっと」

 

 そう言って笑顔を見せる雪風。行きたい、本当なら行きたいんだけど……。

 

「んー……ごめんねぇ。この日はちょっと用事があるから無理なんだ」

 

「えー……残念です……」

 

 雪風は本当に残念そうにしてるけど……ごめんね雪風。……舞風は……盆踊りは踊れないんだ。

 

 

 あの後、雪風と別れたあたしは自分の部屋で横になりながらさっきの事を思い出してる。盆踊り……かぁ。嫌な事……思い出しちゃうな。

 

 かつての大戦。あたしは轟沈した。盆踊りと称される回避運動すら取れない状態になって、アメリカの艦隊に、香取と一緒に轟沈させられた。その事自体を今更とやかく言う気はない。あれは戦争で、人間同士が戦った結果であって、それを理由にアメリカ艦の人たちを責めるのは間違ってる……それはわかってるけど、やっぱりあれはトラウマなんだ。

 

 それを解消しようと、色んな踊りを踊ってきた。日本のだけじゃなく、それこそアメリカのも、ヨーロッパのも、アジアの踊りだって。

 

 出撃した時にも、舞風の回避はまるで踊っているようだって言われるようになった。でも、盆踊りだけは……。踊ることができてない。

 

「……いやいや、やっぱりダメだよね。これじゃトラウマ解消なんてできないし、艦長達にも顔向けできないよ」

 

 暗い雰囲気なんてあたしには似合わない。よし、頑張ろう。頑張って、雪風と一緒に盆踊り大会に行こう。そうすればきっと……艦長も、喜んでくれるよね。

 

 

 その日のうちに盆踊りの曲を手に入れて……誰かに見られたりはしたくないから夜になってから、倉庫の裏手であたしは準備を整えた。よーし……頑張るぞ!

 

 時刻は二一○○……この時間ならもう人も来ないはずだし……再生機で盆踊りの曲を再生させると、あたしはさっそく踊りだす。

 

「こうしてこうしてこうでっと……」

 

 久しぶりの盆踊り。大丈夫、体は覚えてる。だから踊れる。最後まで、おど……れ……。

 

「ッ!」

 

 踊りが進むにつれてあたしの視界が暗くなってくる。耳に悲鳴が聞こえてくる。あの時……あの時、舞風は踊れなかった。助けられなかった。舞風に乗っている人達が死んでいく。香取が沈んでいく。野分が助けようとしてくれて……でも……どうしようもできずにいて……最後に舞風がしず……しず……ん……。

 

「はあ! はあ! はあ! はあ!」

 

 いつの間にかあたしの体は倒れていて、荒い息を繰り返してる。体が動かない、目の前がよく見えない。陸にいるはずなのに水底にいるように体が……冷たく……うごかな……。

 

「舞風! しっかりせい!」

 

 突然聞こえてきた声に目の前が明るくなる。そして見えたのはあたしを心配そうに見下ろす黒潮の顔だった。

 

「過呼吸になっとる。舞風、次に息を吸ったらウチの合図に合わせて呼吸するんや。大丈夫や、それで治るからな」

 

 そう言って手を握ってくれる黒潮に少しだけ安心感が生まれたあたしは頷く。そして次に息を吸うと、黒潮が息を止めるように言ってきて、それで息を止めて10秒くらいしたら吐くように言われて、息を吐いたら今度は3秒ごとにゆっくりと呼吸するように言われて、あたしはそれを繰り返す。その間ずっと黒潮はあたしの手を握ってくれて、あたしの胸に手を置いて呼吸のリズムを確認してくれて……凄い安心しながら呼吸してたら、しばらくしてやっと落ちついて呼吸ができるようになった。

 

「スゥ……ハァ……うん、もう大丈夫だよ。黒潮、ありがとう。助かったよ」

 

「そりゃ良かったけど……いったい何があったんや。なんや音楽が聞こえる思て見に来たら舞風がぶっ倒れとるんやからびっくりしたで。ウチが偶然ここ通りかかっとらんかったと思うとゾっとするわ」

 

「……いやぁ、ちょっと……ね」

 

 うーん。ちょっと……言い辛いなぁ。でも、見られちゃった以上は事情説明しないと納得しないよね……どうしよう。

 

「……ちなみにな舞風。話さんのやったら、とりあえず野分や萩風らへんに心当たりがないか聞いて回るで。舞風が盆踊りの曲聞きながら過呼吸でぶっ倒れとったけど、なんか心当たりあらへんかって」

 

「わあああ! 待って、待って! 本当に待って! 話すから! 話すからああ!」

 

 野分達に聞かれたらシャレにならないよ! あたしは必死に黒潮の腕を掴んで止める。

 

「じゃぁさっさと話しいや。言っとくけど、変に誤魔化そうもんなら……どうなるかわかっとるやろな」

 

 ……うう、これ誤魔化しがバレたら問答無用で野分達にバラされる流れだぁ……。わかったよ、観念するよお。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。