もう一度、今度は黒潮に支えられることなく踊りを踊り切ったあたしは、改めて明日の盆踊り大会の事を考えながら眠りについた。そして……夢を見た。
夢は今までずっと見てきた舞風の最後の瞬間。……でも、今日の夢は違った。香取と一緒に沈みそうになった時……アメリカ海軍が突然炎上し、爆発し、沈んでいく。そして聞こえてきたのは陽炎を初めとした陽炎型の艦隊。その先頭に居たのは黒潮で……艦橋から陽炎達が……なぜか野分も一緒に、こっちに向かって手を振ってくれていて。あたしも……舞風の艦橋で手を振っていたんだ。
翌日、あたしは急遽用事がなくなったからと言って盆踊り大会に参加。雪風や野分達と一緒に盆踊りを踊った。もうあのフラッシュバックは起きなくて、あたしは踊り切ることができた。
「舞風の踊り凄いですよ。同じ盆踊りを踊っているはずなのに、舞風だけまるで別の踊りを踊ってるような感じでした」
「ちょっと、それ褒めてるの? けなしてるの? どっちなの?」
「褒めてるんですよぉ」
大会が終わったあたし達は祭りの露店を歩いて回ってる。動いたらお腹空いちゃったし、何食べようかな。
「……本当に舞風の今日の踊りは良かったよ。見てて惚れ惚れしたから」
「ちょっ、野分。そんな言い方されたら恥ずかしいじゃん」
「いや、そう言いたくもなるよ。……実のところ、心配してたんだよ。舞風が盆踊りを踊るって聞いて。……今まで踊ってなかったのは、あの時の事がトラウマになってるんじゃないかって、心配だったんだよ」
……あー、やっぱり気づいてたんだ。それもそうかぁ……でも、うん、大丈夫。
「うん……そうだよ。踊ろうとしたらあの時の事を思い出してずっと踊れなかったけど……もう大丈夫だから」
「そう。……良かった。舞風が踊れるようになって、本当によかったよ」
そう言って野分は嬉しそうに笑ってくれる。あたしもそれに釣られて笑いながら露店を歩いている……すると。
「……え?」
人込みの中、一瞬見えた人影。でも見間違えるはずがない。艦長……萩尾艦長!
「待って、待ってください!」
「舞風!?」
「え、舞風? ちょっと!」
野分と雪風を置いて、あたしは人込みを掻き分け進む。艦長! 艦長はどこ!? どこ行ったの!?
人込みを掻き分け、追いかけ、追いかけ……人気のない木々の中、あたしはついにその背中を捕らえた。
「萩尾……艦長」
あたしの声に振り返った艦長は……笑みを浮かべてくれていた。まるで子供に向けるかのような笑みを浮かべ、敬礼してくれて……。
「かん……ちょう……」
思わず目に涙が浮かぶ。……でも、そのとき不意に大きな風が吹き、葉っぱが舞い散る。思わず目を瞑ってしまい、そして……目を開けた時には艦長の姿はなかった。
「舞風! ……はぁ……はぁ……どうしたの? いきなり走り出して」
後ろから野分の声が聞こえてきて……肩を掴まれる。あ、そうか……二人を置いてけぼりにしちゃってたっけ……。
「……野分ぃ……」
「え? な、なに!? どうしたの!? どこか痛いの?」
「ちが……違うよ……」
あたしが泣いているのを見た野分が心配そうにするけど、違うんだ。これは……この涙は……。
「……艦長が……萩尾艦長がさ……居たんだ……居たんだ……よ」
「え? 萩尾艦長……が?」
野分の言葉にあたしは頷く。あれは見間違いじゃない。居たんだ、見てくれたんだ。あたしを……舞風を、見てくれて……いたんだ。
「……ねぇ、野分。あたし……艦長たちをちゃんと送れたかな? 艦長たち……もう、行ってくれた……かな?」
盆踊り……死者を送る踊り。これまでずっとあたしは踊れなかった。でも、これで……大丈夫だよね? もう、艦長達も残らなくていいんだよね? あっちの世界に……行けるんだよね?
「……大丈夫だよ。だって舞風は踊れたんだ。トラウマを……克服したんだから。きっと……安心してくれてる」
「そう……だ……よね……きっ……と」
それ以上言葉は出なかった。あたしは野分に抱き着いて泣いていた。……そんなあたしを、野分は優しく……優しく抱きしめてくれた。
……艦長。皆さん、見守ってくれていてありがとうございました。どうか、安らかにお眠りください。舞風は、もう大丈夫です。