「ふ~、まったく、舞風はもうちょい落ち着かんとアカンで」
あれから寄り道せずに鎮守府へ帰ってきた野分達は今、黒潮の部屋に居ます。途中で舞風がダンスに誘ってきましたが、それは断っています。
「野分、あんたからももうちょっと言っといてや。ウチまーた筋肉痛なるんは嫌やで」
「……わかり……ました」
鎮守府に戻ってからの彼女は普段の様子に戻っていて、今も普段と変わらない雰囲気で話してます。
「……で、野分。あのテレビ局での事はなんなんや? ウチ、あんなん聞いとらんで」
「それは……そ……の……」
「……まさか思うけど、野分。あんた、体売ってるとかやないやろな?」
「ち、違います! それだけは絶対に、違いますから!」
黒潮の言葉に慌てて否定すると、黒潮は野分に顔を近づけて……ちょ! 近い、近すぎます!
「ほんなら何があったんかちゃんと喋ってもらおうか。あんな場面を目撃したんや。今更変な言い訳しようなんて思ったらアカンで」
……確かに今更へんな言い訳なんてできるわけもなく、野分はあの女性に関することを全て話しました。
「なるほどな~……。まぁ、後で司令はんに事の次第を伝える必要はあるな。対応が後手に回っとるんはアレやけど……しゃあないあ。それより野分」
「な……なに?」
目の前の黒潮の眉間に皺が寄ってる。な、なにされるの? あのテレビ局の時の黒潮に怒られたら……。
「ひひゃ! ひひゃい!」
不意に両頬が掴まれたと思うと、そのまま上下左右に引っ張られる。痛い、本当に痛い!
「こないだ聞いたときより前から襲われとったとはどういうこっちゃ! おまけに他の艦娘には相談しとるのにウチが聞いたら誤魔化すとか、そんなにウチが頼りにならん言うんか、ええ!? どういうこっちゃ!」
「ひひゃ! ひひゃう! ひひゃう!」
野分の抗議に耳を貸さず、黒潮はしばらく野分の両頬を引っ張って……ようやく離して貰った時には痛くてちょっと涙目になってて……うう、痛い……。
「まったく……まぁええ。怒るんはこれで勘弁しといたる」
「えっと……まだ何か……?」
野分が恐る恐る聞くと、黒潮は大きくため息をついて……そのまま野分を抱きしめてきました。
「え……っと……?」
「ごめんな野分、気づいてやれんくれ」
突然の黒潮の行動に野分は困惑してしまいます。どういうこと……なんでしょうか?
「ウチがもっとはよう気づいとったら今日みたいになる前になんとかできとったかもしれんのに、ごめんなぁ、気づかんくて」
「え、でも、それは……」
「黙っとったんは怒っとるよ。でも、もしウチが今日来んかったら……野分、えらい目におうとったやん。ホンマ、そんなんなっとったら、ウチ、後悔してもしきれんで……」
黒潮の言葉に、野分は改めてあの女性の事を思い出して……体が震えてきました。もし、あの時黒潮が来てくれてなかったら……。
「あ……あ……」
震える手で、腕で、思わず野分は黒潮を抱きしめてました。そんな野分を……黒潮は優しく抱きしめ続けてくれます。
「野分、次からはもっと早よう相談し。そうしたらウチももっと早ように動ける。助けられるからな」
「……わかった……よ」
背中を撫でてくれる黒潮の手。その温かさを感じながら、野分は舞風が黒潮に懐くようになった理由に気づきました。
(舞風も……きっと、何かで……多分あの盆踊り関係でこうしてもらったんだ……。だから、あんなに……)
そりゃ、こんな暖かく抱きしめられたらそうなっちゃうよ……。黒潮、ありがとう、本当に……ありがとう。
「ねぇ黒潮、踊ろうよー。今度のは簡単なダンスだってー」
「いややー。もう筋肉痛にはなりとうないんやー」
鎮守府の廊下の先から聞こえる声とこっちに向かって走ってくる黒潮と舞風。あ、また舞風がダンスに誘ってるのか。しょうがないなぁ舞風は。
「ん? おお、野分。ちょうどええところにおってくれたな。舞風なんとかしてーや」
野分を見つけた黒潮がこっちに走ってきて手を合わせてくる。もう、しょうがいないなぁ黒潮も。
「うん、任せてよ黒潮」
「おお、助かるで野分」
野分が承諾したのを見て喜ぶ黒潮。その後ろから舞風も追いついてきた。
「のわっち。黒潮と一緒にダンスしよう。今回のは簡単なのだからやりやすいよ」
「もう、舞風。黒潮が困ってるんだから、所構わず誘うのはやめなよ」
「そうやそうや」
野分という援護を得たおかげか黒潮も舞風に反撃する。そして野分はその左腕を掴みました。
「……野分、なんでウチの腕掴んどるん?」
「ほら、こんな廊下で騒いだら皆の迷惑だし。トレーニング場でなら黒潮もきっと承諾してくれるから、そこで誘うよ舞風」
「……野分、グッジョブ!」
「ちょーーーい! なんで! なんでそんな結論なったん!? てか野分、止めてくれんのか!?」
騒ぐ黒潮を他所に野分は舞風と固く握手すると、黒潮を連行していきます。さ、今日のダンスは普段よりきっと楽しいはずです。
「なんでやー! なんでこんな天丼せなアカンのやー!」