その日を境に、萩風は食事のときに気を遣うようになりました。多少味が強くても普通に食べますし、あんまり刺激の強いものでも我慢して食べています。でも、それは他の人にも伝わってしまっているようで……彼女達が遠慮している空気も感じています。
「はぁ……」
そんな日が続いて正直憂鬱です。萩風は……皆さんに健康になって欲しい。その為にも自分も健康じゃないといけない。そう思って料理をしてきただけなのに……。
(それと言うのも黒潮さんがたこ焼きを持ってきたから……いえ、あれはキッカケに過ぎないです。そのはず……)
ふと脳裏に過ったのはあの時の黒潮さんの持ってきたたこ焼き。わかってはいます、あれは単なるキッカケに過ぎなかったって。でも、少し……恨めしいのも事実で。
「なぁ萩。最近ため息増えてないか?」
「え!? いえ、大丈夫ですよ!」
慌てて誤魔化しますけど、嵐は怪訝そうな顔のままでお茶を飲んでいます。今日は第四駆逐隊で昼食を食べていますが……皆さん、萩風の料理を美味しいと思ってくれてるのでしょうか? 前はその殊に疑問は抱いていませんでしたが、今は……。
「おーい、四人とも、ちょっとええか?」
そう思っていると黒潮さんが話しかけてきました。手には……またたこ焼き!?
「なに? くろし……ってなんでまたたこ焼き持ってるのさ!?」
「こないだのリベンジや。自家製ソース吐き出されて捨て置けるほど大阪生まれは穏やかちゃうで。大丈夫や、ちゃんと間宮はんや鳳翔はんにも手伝ってもらって作っとる。萩風の舌にも合うはずや!」
そう言って目の前に置かれたたこ焼き。……正直食べたくありません。こないだの事が脳裏を過ります。嵐もその事を思い出したのか少し嫌そうな顔をしてますし、舞風と野分も……。
「あ、本当だ。こないだより辛くないけど美味しくないとかじゃない」
「うん、これはこれでいけるね。ポン酢で食べてるのに近いかな?」
ってあっさり食べてますし!
「おう、せやろ。萩風の舌に合わせて辛さは薄く……それでも味を損なわんよう作るのに苦労したで。ほら、嵐と萩風も食べてみてえや。口に合わんかったら遠慮なく言って構へんで」
「それじゃぁちょっと……。お、萩、これは本当に美味しいぜ」
嵐までそう言って……仕方ないです。本当はあんまり食べたくは……あれ?
「……美味しい……」
三人が言うように、辛さはあまりない。それなのに萩風が知ってるたこ焼きとそん色のない味で。これなら十分食べれます。
「おっし、萩風の口にも合ったようやな。いやー……苦労したでぇ」
そう言って深く息を吐く黒潮の顔は……あれ、よく見たら隈ができてる?
「そう言えば最近は黒潮よく間宮に出入りしてると思ってたけど、これ作るためだったんだ」
「せやでー。いやぁ、京料理の手法なんて久しぶりやったから、中々うまくいかんくてなー」
「え!? これ、京料理の手法使ってるのかよ?」
「せやで。素材の味を生かすんはやっぱり向こうの手法のほうが上手や。いやー、大阪の味とのミックスには苦労したで」
「黒潮……そんな器用な真似ができたんだね」
「おうどういう意味や野分。ウチが大阪の濃い味の料理しか作れんとでも思っとったんか。分かった、今度失敗作のクッソ濃いソース使ったお好み焼き食わせたろやないか」
「ちょ、ごめん! ごめんなさい!」
みんなが騒ぐ中、萩風はもう一度たこ焼きを食べてみます。……うん、美味しい。
「そうそう、萩風、これレシピや、渡しとくで」
「え? い、いいんですか?」
「構へんよ。元々萩風にも美味しく食べれるようにって作ったんやもん」
「えー、萩風だけそんなにしてもらってずるーい。黒潮、あたしにももっと構ってよぉ」
「そう言うてウチを何回筋肉痛にさせるつもりやねん」
黒潮さん、楽しそうです。そんな彼女の作ってくれた……目に隈を作ってまで作ってくれたレシピ……あれ、なんだか目の前がぼやけて……。
「萩、涙出てるぜ。ほら」
「へ? おおう、どないしたんや萩風」
嵐がハンカチで涙を拭いているのを黒潮さんに見られて驚かれます。……仕方ないじゃないですか、こんな、折角作ってくれたたこ焼きを吐き出した萩風の為に作ってくれたなんて言われたら……。
「黒潮さん……ありがとうございます。このレシピ、大切にしますね」
「おう、大切にしてーや」
「……ところで、どうしてここまでしてくれたんですか?」
こう言ってはなんですが、萩風と黒潮さんは別に大きな接点もありません。それなのにどうして?
「何言うとるん。妹のために一肌脱いどるだけやん。それに、こないだの件以降、なんか微妙な空気になっとるって聞いたからな。罪滅ぼしも兼ねとるんや」
その言葉に思わず三人を見ると、舞風と野分が咄嗟に視線を逸らしました。お二人ですか、そう言うのを言ったのは。
「あのなぁ萩風。食事ちゅうんは大切なことやし、萩風みたいに健康を意識した食事するのもええ事やと思うで。でも知っとるか? あの外国のくっそ体に悪いドリンク。あれを一日三本飲み続けて100歳以上生きとるおばあちゃんおるんやで」
「え? ええ!? ほ、本当ですかそれ!?」
あのドリンクは萩風も知っています。あれを飲んでいて100歳以上生きておられるなんて……とても信じられません。
「ホンマの話や。せやから、食事ちゅうんは大切やけど、絶対条件ちゃうと思う。むしろ、健康を意識しすぎて食事のたんびにストレス抱えるようなんなったら本末転倒や。あ、萩風の料理がまずいとかそういうのやないから勘違いせんとってな」
「え、ええ。勿論です」
「で、話し戻すけどな。このソースのレシピ使こうたら、萩風ならもうちょい料理のバリエーション増やせる思うねん。それなら、四人で食事するときも健康料理とは別のもんも出せるやろ。バリエーションは豊富に越したことはないからな。萩風も、たまには皆で心置きなく美味しいって言い合える料理作れるようになっとくほうがええやろ?」
「……そう、ですね。萩風……健康の事ばかり考えて、そう言うのを失念してました」
「萩風の気持ちもようわかるんやけどな。でも、たまには多少健康に悪いもんでも、皆で遠慮なしに美味しい言い合える料理があればええんと思うんや。押しつけがましい事言うとるのは自覚しとるが……。どうや、やってみんか?」
「……そう……ですね。わかりました、やってみようと思います」
萩風の言葉に黒潮さんが笑顔になって……あ、こうしてみるとけっこう可愛らしいんですね。今まで接点があんまりなかったので気づいてませんでしたけど……。
その後は黒潮さんも混ざった五人でお食事を続けました。ああ、なんでしょう。凄い心地良いです……黒潮さん、萩風のいけない所を教えてくださって、本当にありがとうございました。
「黒潮さん、黒潮さん、新しい料理を作ったんです、食べてください」
「黒潮さん、私も今までの料理に手を加えてみたんですよ。食べてもらえませんか?」
「おおう……食わせてくれるんは嬉しいけど、こんな食べ取ったらマジで黒豚なってまうで。つうか、最近はマジに体重増えて困っとるんやけど……」
「大丈夫です。ちゃんとカロリーを抑えたヘルシーな料理ですから」
「大丈夫です。そもそも最近の黒潮さんは節約と言ってオヤツを抜いたり、量が少ない料理を頼んだりしてますから、これぐらいでバランスが取れてます」
二人で大丈夫な事をアピールすると、黒潮さんはなんか微妙な顔でこちらを見てきました。
「……なんでそんなウチの逃げ場塞いどるん?」
「「黒潮さんに食べてほしいからです」」
「お……おう、ありがとうな」
萩風と親潮さんの言葉に黒潮さんは若干引いている感じはしますが料理を食べてくれます。ふふ、美味しそう食べていただけて萩風は幸せです。
最初は親潮さんとかち合うことが多かったですが、今ではこうして一緒に黒潮さんと食事をすることで落ち着いています。親潮さんも料理をされるので、一緒に料理を作ったりするのも楽しみになりました。
ふふ、こうして親潮さんとも親しくなれましたし、本当に、黒潮さんには感謝しかありません。ありがとうございます、黒潮さん。