第九章 嵐編
俺は夜が苦手だ。あの大戦で俺も萩も夜が苦手になった。最初に鎮守府に配属された頃も、野戦が大の苦手だったし、夜になっても電気をつけて寝る事が多かった。それは萩も同じで、入渠する事すら苦手だった。
そんな頃、ある映像作品に目を通した。それは人のために戦うヒーローの作品で、彼が腰に装着したベルトは、まるで自分のベルトのように個性的だった。
だから、彼の真似をすることにした。彼はヒーローだ。彼になれれば夜なんて怖くない。萩が夜を怖がる分も、このライダーが、頑張るんだ。俺がライダーになって、萩の分も頑張るんだ。
「くっ、退却します! 支援艦隊との合流ポイントまで急いで!」
夜戦の中、旗艦である神通さんの声が聞こえる。確かに今回の敵は想定よりも強い。しかも、このまま無事に退却させてくれるほど甘くもなさそうだ。
「神通さん! 殿は嵐が努めます!」
「! ダメです! 貴女一人では……!」
「嵐! 萩風も残ります!」
「大丈夫です。嵐の損傷は軽微です。神通さんはどうか他の人を! 萩も、俺に任せとけ!」
そう叫んで俺は敵に突っ込む……いや、今の俺はライダーだ。だから、こんな夜でも、一人でも、平気だ。平気なんだ。だから、萩も早く退避させないと。萩まで夜戦に巻き込む必要はない。
「さぁ、行くぞ。ライダーはこんなピンチ、なんてことない」
自分にそう言い聞かせると不思議と夜が怖くなくなる。そうだ、今の俺はライダーだ。だから夜なんか怖くない。
「はああああ!」
この暗闇の中で肉薄は難しい。敵の色も相まってかなり見えにくいけど……大丈夫。やれる。
「これで!」
至近距離に接近し、砲撃を、魚雷を叩き込む。敵の攻撃も同様に飛んでくるが、それを避ける。避ける。避ける! ここで時間を稼がないと大破した人達にまで追手がかかるかもしれない。そうならないためにも少しでも!
「! グアッ!」
後ろからの砲撃を食らいバランスを崩す……けど! まだやれる! こんなものでライダーは倒れない! 足に力を入れろ、心を震わせろ! ライダーなら、こんな夜戦。なんてことはない!
「でええい!」
声をあげ、自分に活を入れる。まだだ、ライダーはまだ倒れられ……。
「やっと見つけた! 何やってるのよ嵐!」
その時、後ろから聞き覚えのある声がした。振り向くとそこに居たのは陽炎姉、不知火姉、黒潮姉の三人だった。
「嵐! 大丈夫ですか!」
「嵐! 後ろさがっとれ! 後はウチ等で対応する!」
三人の声が頼もしく聞こえる。でも……自分はライダーだ。だから倒れられない。倒れてる姿なんて見せられない。
「だい……じょうぶ。まだやれる!」
「! なに言うとるんや! もう艤装もボロボロやん! 無理せんと後ろ下がり!」
「でも……! 嵐はライダーだから……下がるなんて……」
「下がれ言うとるんや! 聞き分けないんやったらどつくぞ!」
普段聞かない黒潮姉の怒鳴り声に思わず体が固まる。その間に黒潮姉は陽炎姉達を追って前に出て、敵を倒していく。
(俺……は……)
その後姿を、俺は見送ることしかできなかった。