黒潮お姉ちゃんシリーズ   作:雨宮季弥99

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第十章 時津風編
第十章 時津風編


 あたしは先の大戦で沈みました。それも無茶苦茶な作戦に参加して……今でも時津風の胸を貫いたあの一撃の痛み……忘れられない。

 

 だから、あたしは司令の元へ通います。もうあんな作戦をして欲しくないから。あたし達を見捨てないで欲しいから。

 

 

 

「ねぇねぇ。しれいしれい。あそんであそんでー」

 

 今日もあたしは司令の膝の上で彼に甘える。しれぇがあたしを見捨てないように、精一杯アピールする。

 

「こらこら、そんなにじゃれつかれたら仕事ができないだろ。仕事が一段落したら遊んであげるから少しどいてなさい」

 

「はーい」

 

 司令に怒られたから仕方なく膝から降りてソファーで司令の後姿を見続ける。大丈夫だ、この司令はあたし達に無謀な作戦を命令したりしない。あたし達を使い捨てたりしない。大丈夫なんだ。

 

 

 

 

 さぁ、今日も司令の所に遊びに行きます。今日も司令はきっと困った顔をしながらもあたしに構ってくれて、それであたしは安心できるんです。ここならきっと、あの時と同じような事は……。あれ?

 

 司令の部屋の前まで来たら中から何か声が聞こえます。なんでしょう? また霞さんが司令を怒ってるんでしょうか? まったく、霞さんはいっつもしれぇを怒ってます。あれじゃぁしれぇが疲れるから、あたしが癒してあげないと……。

 

 そう思って扉を少し開けたところで、あたしはその手を止めてしまっていた。中から聞こえた声を聴いてしまったから。

 

「だから、なんなのよこの作戦は! こんな作戦でうまくいくわけないでしょ!」

 

「ほう、やる前から無理だと言い切るのか? やってみなくてはわからないだろ?」

 

「やる前からわかるぐらいひどい作戦だって言ってるのよ!」

 

 ……ひどい作戦? まさか……あの時みたいな作戦を? しれぇが? あたし? あたしじゃなくても……誰かを……誰か……を?

 

それ以上を聞くことは時津風にはできなくて……あたしは覚束ない足取りのまま歩き出してました。

 

 

(しれぇが……しれぇが……)

 

 覚束ない足取りで部屋に戻ってきたあたしはそのままベッドに倒れこんで先ほど聞いた言葉を思い返す。しれぇが……無茶な作戦を? まさか……あたし達を捨てるような作戦を?

 

「やだぁ……やだよぉ……」

 

もうあんな作戦なんて嫌だ。あんな作戦で戦いたくない。あんな作戦で誰かが死んでほしくない。あんな作戦で死にたくなんてない。見捨てられたくない。

 

 嫌な予感が頭の中をぐるぐると渦巻いて、知らず知らずのうちに涙が零れる。

 

「いやぁ……いやぁ……」

 

 頭の中の嫌な考えを拭うことができないまま……あたしは泣き続けていた。

 

 

 

 

「……かぜ……とき……か……」

 

「……ふぇ……?」

 

 体を揺さぶられて少しずつ意識が目覚める。あれ、あたし……?

 

「時津風。目覚めたんか? 時津風」

 

「……黒潮?」

 

 肩に置かれている手を追っていくと、そこにあったのは黒潮の顔だった。

 

「時津風、どうしたん? なんか怖い夢でも見たんか? ……泣き跡、残っとるで」

 

 言われて顔に手をやると、そこには確かに泣き跡が残ってた。……寝ながら寝てたんだ。

 

「時津風、なんか怖い夢でもみたんなら、一緒におろうか?」

 

「だ、大丈夫……それより、黒潮はどうしてあたしの部屋に居るの?」

 

「司令はんから次の作戦について時津風にも話しておきたいって事で呼びに来たんや。そしてら返事はないのにカギは開いとったんや」

 

 作戦。その単語を聞いたとき、あたしの体に力が入る。……やだ、司令からの作戦……聞きたくない。

 

「……時津風、どうしたん? ……なんか怖いことでもあったんか?」

 

「……」

 

 どう話せばいいの? あの司令が怖い作戦を計画してるなんて……言って信用されなかったら? ……怖い。怖い。

 

「……時津風、心配せんでええで」

 

 不意に黒潮があたしを抱きしめてきて……あ、頭撫でられるの……気持ちいい。

 

「大丈夫や。ウチは時津風の味方や、お姉ちゃんや。せやから、怖がらんと話してくれへんか? 妹が怖がっとるのを放ってはおけんで」

 

 そう言いながら頭を撫でてくれる黒潮の手が、体温が心地よくて、あたしは少し迷ったけど……司令と霞が話していた事を伝えました。

 

「……マジかいなぁ。司令はん、霞と口論するような作戦立てとるんかいな」

 

「あ、で、でも、もしかしたらあたしの聞き間違いとかそう言うのかも……」

 

「いいや、そんななぁなぁで済ませられる話ちゃうで。よし、行くで時津風。司令はんに事の真相を確かめるんや」

 

 そう言うと黒潮はあたしの部屋を出ていき、あたしも慌てて後を追います。黒潮は一直線に司令の部屋に足を運ぶと、ノックもせずに扉を開けました。

 

「司令はんおるか? ちょっと聞きたいことがあるんやけど!」

 

「な、黒潮!? ど、どうした?」

 

「今日、作戦の内容で霞と口論なったって聞いたで。司令はん……いったいどんな作戦立てたんや? まさか……ウチらを見捨てるような作戦立てとるんやないやろうな」

 

「な、なんで俺がそんな……時津風?」

 

 司令はあたしに視線を向けて……それから大きく息を吐きました。

 

「……そうか、時津風に聞かれていたのか」

 

「……それで、どうなんや司令はん。いったいどんな作戦を立てたんや?」

 

 黒潮の再度の問いに司令は机から書類を取り出して黒潮に手渡す。あたしも後ろからそれを覗きこ……なにこれ? サンマ漁?

 

「……ソナーと爆雷によるサンマの捕獲? ……なんやこれ? 爆雷で漁なんて禁止漁の類ちゃうん?」

 

「深海棲艦の跋扈によって漁が行えなくなっている分、海産資源は増加の一方だ。皮肉な話だがな……。それで、プロパガンダを兼ねてサンマ漁を行うように大本営から通達が来てるんだよ」

 

「……そんじゃ、霞が怒っとったんって」

 

「そりゃまぁ深海棲艦と戦うんじゃなくてサンマを取ってこいと言われたら怒りもするだろう。だからと言ってやらないわけにはいかないんだ」

 

 ……それはまぁ仕方ないと思う。いきなりサンマ取ってこいって言われたら何言ってるんだってはあたしも思うし……でも、そうかぁ……無茶な作戦とかじゃないんだ。

 

「……すまなかったな時津風。お前に怖い思いをさせてしまっていたようだ」

 

「え? ち、違うよ……悪いのは早とちりしたあたしだから……。黒潮もごめんねぇ……」

 

「いや、ウチは構わへんよ。時津風が怖い思いせんで済むんならそれで問題ないで」

 

 そう言って頭を撫でてくれる黒潮に、あたしは恥ずかしくて顔を俯かせて……あ、でも本当……本当に良かったぁ……。

 

 

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