黒潮お姉ちゃんシリーズ   作:雨宮季弥99

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第十一章 谷風編
第十一章 谷風編


 なんでかねー。そりゃさぁ、黒潮は三番艦で、この鎮守府でも陽炎、不知火に次いで最古参の駆逐艦さ。でもね、身長も見た目も谷風と大きく差はないはずじゃないか。なのにさ。

 

「黒潮~、絵描きたいから付き合ってよー」

 

「黒潮、ダンス踊ろうよ」

 

「黒潮さん、新しい料理作ってみたんです、食べてください」

 

 最近、陽炎型の姉妹の大半が黒潮に懐いてる。別に悪いこととは言わないんだけどさ。なんで黒潮ばっかり懐かれてるのさ。そりゃ、谷風だって末のほうの妹だけど、谷風より末の妹の舞風や野分が谷風をあんまり懐かないのが納得いかないよ。まったくもう。

 

「なぁ、谷風。ちょっとええか?」

 

「んー? 何の用なのさ?」

 

「ちょっと街に食材の買い物行こう思っとるんやけど、谷風も一緒に行かんか?」

 

「え? なんで谷風? 黒潮なら他にも付き合ってくれる人いるんじゃない?」

 

「いやー、舞風や野分はダンスに誘われかねんし、親潮と萩風もなんか食わせてくるし、他は出撃や遠征でおらんからなぁ……。あ、もしかして谷風もなんか用事あるんか?」

 

「いや、別にないけどさ」

 

 別に用事はないけど……わざわざ他に付き合う子がいるのに谷風のところに来られても……いや、これはチャンスだよ。黒潮と一緒に行動して、黒潮が懐かれるようになった要因を探ってやろうじゃないの。

 

 そう結論付けた谷風は黒潮の誘いに乗った。さぁ、頑張るぞ。

 

 

 

 

 街に出た谷風と黒潮は買い物を済ませていく。買い物をしている黒潮の姿は年相応と言うか……見た目まんまというか、鼻歌交じりに上機嫌な姿はどうみても谷風とそんなに変わらないと思うんだけどなぁ。

 

(うーん、でも、浜風や親風が懐いてるんだよねぇ……なんでだろ?)

 

 親潮はわからないでもないんだけど、浜風や、それに第四駆逐隊のメンバーも最近黒潮と一緒にいる姿をよく見る。特に舞風はよくダンスに誘ってるし。うーん、谷風はあんまり誘われないのになぁ。

 

「えーと、後は向こうの店で買い物やな。谷風、行こうか」

 

「はいよ」

 

 黒潮にの後ろに付いて行って歩いていく。うーん、今日はあんまり収穫はなさそうかなぁ。後は出撃とかその辺ででも……。

 

「……むぐ!?」

 

 なに!? なんかいきなり後ろに引っ張られ……腕も口も捕まれ! く、黒潮!?

 

「むぐー!?」

 

「ん? 谷風!?」

 

 振り返った黒潮が走ってくるより早く谷風の体は引っ張られて、どこかに放り込まれ……これ、車!? あ、扉が閉められた!

 

「な、なにをするんだい! 離せ!」

 

「へっ、黙っとけ。黙らねえよ殴るぜ」

 

 そう言って谷風を見下ろすのは屈強そうな男で、他にも三人、男が見下ろしている。

 

「た、谷風に何をするつもりなんだい! 離せ!」

 

「静かにしてろって言ったろうが!」

 

 そう言って最初の男が谷風の頬を叩く。くっそ、こいつ!

 

「おい、車を出せ! なんか追ってきてるぞ!」

 

「あいよ!」

 

 く、車が動き出した!? は、早く脱出しないと!

 

「放せ! 放せーー!」

 

「おい、ガムテ使え! こいつ無茶苦茶暴れやがる!」

 

 暴れる谷風の腕を抑えられ、ガムテープで拘束される。おまけに足も掴んで広げられたから、下着も丸見えで、くそー!

 

「けっ、この野郎。大人しくしやがれ!」

 

 二発、三発、顔を殴られ更に口に猿ぐつわを噛ませられ……あ、これヤバイ……。

 

「むぐ! むぐぅ!」

 

「おい、もう一発やっちまおうぜ! そうすりゃおとなしくならあ!」

 

「おう、ヤッちまえ!」

 

 服が強引に破られて開かれた足の間に男の体が割り込んでくる。ヤダ……ヤダ! ヤダヤダヤダヤダ!

 

(助けて、誰か! 誰かー!)

 

 叫んでも口から出るのはくぐもった声だけ。心の叫びなんて誰かに聞こえるわけもない。やだよ! 初めては好きな人にって決めてるのに、なんでこんな、こんなことになるんだよ! やだ……よ……。

 

 そこまで考えたとき、不意に大きな衝撃が車内を揺らして、男達も私も大きく揺られる。な、なに!?

 

「おい、どうした!」

 

「さっきのガキだ! フロントガラスに牛乳をぶつけやがった!」

 

 前から男の怒鳴り声が聞こえたと思ったら、何かが割れる音と更に男の怒声が聞こえる。

 

「てっめえ! なにしやがッ! ……ぎゃああ!」

 

男が最後まで何かを言う事はなく叫び声が上がる。様子を見ようとこっち側の男が扉を開けると、そこには……。

 

(くろ……しお……?)

 

 そこに居たのは確かに黒潮だった。でも、様子が違う、違いすぎる。普段の温厚な黒潮じゃない。まるで冷たい、氷で作ったかのような温かみの欠片もなくて、その手は……。

 

「てっ、めえ!」

 

 男の一人が黒潮に掴み掛って黒潮の体が見えなくなる。でも、次の瞬間男は叫び声をあげたと思うと顔を覆って倒れてもがく。そして黒潮の手は……。

 

(黒潮! 手に血! 血!)

 

 黒潮の手は血に濡れていて、谷風とそんなに変わらない体付きの彼女の姿のはずの彼女のその様子が余計に冷たい何かに見える。

 

「……てめえ! これ以上近づいたらどうな……ギャッ!」

 

 谷風を持ち上げようとした男に向かって黒潮が何かを投げる。それが当たった男が怯んだ隙に黒潮が距離を詰めたと思うと、その顔面に拳を振り下ろした。

 

「……ようもやってくれたな。ウチの可愛い妹をどうするつもりやったんや? ええ?」

 

 静かに、穏やかな口調なのに、一切の熱を感じないその言葉に顔面を殴られた男が怯む。その隙に何度も、何度も黒潮の拳が振り下ろされる。

 

「誘拐してどうするつもりやったんや? 犯すんか? そのまま監禁か? 殺して捨てるつもりやったんか? ……許さへんで。絶対に許さん。ウチの可愛い妹にそんなことさせへん」

 

「た、たす……たすけ……ゆるし……て……」

 

「助けるわけがないやん。許すわけがないやん。このまま警察が来るより先に……ウチが殺してやるわ」

 

 そう言って黒潮が大きく拳を振り下ろす。鈍くて湿った音がしたと思うと男が動きを止めた。そして黒潮がもう一度拳を振り上げ……。

 

「むー!」

 

 体をよじり、転がってなんとか黒潮の腰に頭をぶつけて、全身で訴える。だめだよ黒潮! 止まって!

 

「……谷風、無事やんな? 大丈夫やんな?」

 

 黒潮が谷風の猿轡を外す。その時に顔に血が付いたけど、そんなの気にしてられない。

 

「黒潮、だめだよ! 殺したらダメ! 谷風は大丈夫、大丈夫だから! 警察を呼んで、それで終わりにしよう! ね!」

 

「……わかったわ。警察にはもう連絡しとるから……離れようか」

 

 黒潮はそう言うと、近くにあったナイフで谷風のガムテープを切って谷風を車外に連れ出してくれる。

 

(う……)

 

 外に出るまでに男たちの様子が見えるけど、谷風を抑え込もうとしていた二人のうち、片方は全然動かないし、もう一人もいまだに顔を抑えて呻いている。運転席からも呻き声が聞こえてるけど、黒潮は一体なにをしたっていうんだい? 大の大人三人をこんな……。

 

 車外に出ると、そこは人通りのない通りみたいで、辺りには人の気配はない。

 

「……谷風。大丈夫なんか? 顔、腫れとるやん。殴られたんか?」

 

「これぐらい大丈夫だよ。それより、黒潮こそ大丈夫なのかい? あいつらに殴られたりしてないのかい?」

 

「ウチの事なんかどうでもええわ……。谷風……ごめんな、本当……本当ごめん……ごめん……」

 

 不意に黒潮の目から大粒の涙が零れ落ちて彼女の頬を濡らす。な、なんだってんだい! なんで黒潮が泣くんだい!

 

「な、なんで黒潮が泣いてるんだい! どこか痛いのかい?」

 

「ちゃう……ちゃう……。ウチがさそ……さそったから……谷か……風に怖い思い……痛い……おもい……させてもう……た。ごめ……ん……ごめん……」

 

 そう言ってボロボロと泣く黒潮の姿は普段の黒潮よりも幼く見えて……、でも、その姿はまさに姉としての姿だった。

 

「黒潮は……悪くない。悪くないから……」

 

 黒潮を抱きしめると、黒潮は谷風を抱きしめ返してごめんと繰り返す。……これがきっと谷風と黒潮の違いってやつなんだねぇ。こりゃ、皆が懐くようになるのもわかるってもんだよ。

 

 

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