あれから到着した警察への事情聴取と病院での診察を受けた後、黒潮は一週間の謹慎処分となった。聞いた話では谷風を襲った男三人は喉や眼と言った急所を攻撃されてたらしい。あと、黒潮が殺しかけてた人は精神病院に入院したとかなんとか……。事態が事態だったとはいえ、流石に処分なしにはできなかったって司令官には言われたよ。
しかし、前に浜風や野分が危ない目にあった時のことを教訓に黒潮は随分対人戦闘の訓練を受けたって聞いた時は驚いたねぇ。そんな事もしてたんだ。おかげで助かったわけだけど、本当黒潮には頭が上がらないよ。
だから、今日も谷風は黒潮がいる反省房に差し入れを持ってきてる。
「黒潮。差し入れ持ってきたよ」
「おお、すまんな。でも、別に毎日持ってこんでもええで? 谷風も自分の用事あるやろ?」
「なーに言ってるんだよ黒潮。谷風のために頑張ってくれたのに谷風が何も返さないわけがないじゃないか。遠慮なんかしないでおくれよ」
「んー、そう言うてもなぁ……」
「それじゃ、明日も来るからね」
差し入れを置いて谷風は反省房を後にする。確かに今谷風は忙しい。だって黒潮みたいに対人訓練を受ける時間を設けたんだから。正直出撃の時とかには役に立たないとは思ってるけど……。
(もしまた同じことがあったら、もうあんな事にはならないためにも、誰かが襲われた時のためにも、谷風も頑張るよ、黒潮)
黒潮だけに苦労なんかさせはしないよ。だって谷風だって陽炎型なんだから。
「あー、謹慎はダルかったわー。疲れたわー」
謹慎処分が解けた黒潮はいま私の部屋でしんどそうに話してる。まぁ、反省房での生活が楽なわけはないんだけどね。
まぁ、それより……妹達が出撃や遠征で居ない今のうちにやる事やっておかないとね。
「黒潮、おいで」
私は両腕を開いて黒潮にこっちに来るように言う。
「へ? 陽炎、いきなりなんや?」
「いいから。おいで黒潮」
もう一度、私が浮かべられるだけの笑顔を浮かべて呼びかけると、黒潮が近づいてきたから、私は黒潮を抱きしめる。
「よしよし、黒潮は本当に頑張ってくれたわ。本当お疲れさま。よく谷風を守ってくれたわね」
「……ウチ、なんも頑張れてへんよ……。一緒におったのに……谷風に怖い思いも痛い思いもさせてもうた……」
私の背中に回された黒潮の腕に、手に力が入る。だから、私は優しく、優しく……黒潮を慰める。
「谷風がはそれで黒潮に怒ったりしてないでしょ? 大丈夫よ」
「……谷風は優しいもん……ウチに気使ってるんやないか?」
それはない。そんなのだったら黒潮に差し入れを持って行ったりなんてしてないでしょうし、私も様子は見てたけど、そういう素振りはなかった。
「大丈夫よ。長女の私が保証してあげるわ。それとも、私も信じられない?」
「……信じとるよ……信じ……とるけど……」
「信じてるならそれでいいでしょ。ほら……私の前で気を張らなくてもいいから。本当……黒潮、お疲れさま」
「……うん……うん……」
胸の中で頷く黒潮の背中と頭を撫でながら、耳元で大丈夫と囁き続ける。普段甘えてるときとは逆の構図だけど……これは私にしかできないから。
今回の件は黒潮にとっても堪えただろうというのは予想がついてた。だから、妹達が居ないうちに……私しか居ない時にやらないと、きっと黒潮は皆の前で無理をしちゃう。だから……。
「陽炎……陽炎……」
「大丈夫よ……黒潮、大丈夫だから……」
更に力が籠められる黒潮の両腕。だから私は対照的に優しく、優しく、黒潮を抱きしめる。……黒潮、本当、お疲れさま。