第十二章 磯風編
この磯風は先の大戦で多くの武勲を立ててきた。それは私の誇りだ。だが、正直味気ないと思う時がある。
私の姉妹たちは皆個性豊かだ。姉達も妹達も、皆何かしらの趣味を持っていたり、特技を持っていたりする。だから私もそういうものに手を出したくなった。だが……。
「ふむ……焼き加減はこれぐらいか?」
今、私は七輪でサンマを焼いている。先日の出撃で取ってきたサンマだ。出撃している最中は浜風も親風も私がサンマを焼くことに反対していたが……なに、こうして実際に焼いたのを食べてもらえば磯風だって料理ぐらいできるということをわかってもらえるはずだ。
「……よし、これぐらいだな」
焼き上げたサンマを皿に移して見てみる。うむ、見事に黒くなっているな。これなら前回みたいな生焼けと言うこともあるまい。さぁ、、後は浜風達に食べてもらえばきっと……。
「磯風!? ま、まさか……」
「ん? 浜風! ちょうど良いところに来てくれたな! サンマを焼いたんだ、食べてくれ」
皿の上に乗せたサンマを浜風に見せると……なんだ、浜風の顔色が青いぞ。体調が悪いのか? ならば栄養のある物を食べなければ。
「い、いえ。今はお腹一杯……だから」
「遠慮するな! 顔色が悪いなら栄養のある物を食べるほうがいい。この時期のサンマは脂が乗っていて栄養たっぷりだ。遠慮せずに食べてくれ」
私がサンマを差し出すと、浜風は意を決したような表情を浮かべて……一緒に乗せていた箸を手にしてサンマの身をほぐして口にして……そのまま倒れた。
「浜風!? 浜風ー!」
なんてことだ、サンマを口にしただけで倒れるほど体調が悪かったなんて。急いで診療室に運ばなければ!
「……一時的なショックで倒れているだけです。少しすれば起きるでしょう」
「そうなのか……良かった」
病室に連れて行ってお医者さんに診せてもらった結果を聞いて安堵する。
「しかし、艦娘は人間より丈夫なはずですが……いったいどんな事があったんでしょう。磯風さんは何か心当たりはありませんか?」
「むぅ……心当たりか。特にないな。折角私が焼いたサンマを食べさせた途端にこれだからな」
その言葉を聞いた途端、お医者さんが目を見開き、椅子から転げ落ちんばかりの勢いで後ずさる。
「!? そ……それが原因です! 良いですか! 貴女の料理を他の人に食べさせないでください!」
「それは心外だな先生。まるで私の料理が毒のような言い方ではないか」
「……自覚がないのですか? 磯風さん、貴女の料理は料理とは言えません。以前にも貴女の作った料理を食べてここに連れて込まれた艦娘さんが居るんですよ。良いですか? 絶対に他の人に食べさせないでください!」
真剣な表情でそう告げるお医者さんの言葉に私は言葉を失った。まさか……磯風の料理がそんな……。
「重ねて言います。磯風さん。貴女の料理を他の人に食べさせないでください。いいですね?」
重ねられた言葉に磯風は頷くことしかできなかった。