(そんな……まさか……)
医務室を後にした磯風は間宮さんの厨房を少し借りて料理を作る。今回作るのは目玉焼きだ。シンプル故に皆食べ慣れている。
「ん? ……い、磯風さん……何を作ってらっしゃるんですか?」
声の方向を向くと、そこには赤城さんが居た。ちょうどいい、彼女なら。
「赤城さん、目玉焼きを作ってみたんだ。試食していただけないか?」
「え……えーと……」
「大丈夫だ。焼き加減が赤城さんの好みではないかもしれないが、ちゃんと作った。不味くはないはずだ」
皿の上に乗せた目玉焼きを赤城さんの前に持っていく。大丈夫だ、あの赤城さんなら多少まずくても食べてもらえるはず!
「わ、私お腹いっぱいなので……失礼しますね!」
「あ、赤城さん!?」
赤城さんは汗を流しながら走り去ってしまった。そんな……あの赤城さんが逃げ出すなんて。まさか……私の料理は本当に不味いのか……。
「……ふふ、悲しいな」
自分なりに勉強してきたと思っている。折角人の姿になったのだから、姉妹達と同じように戦闘以外の趣味を持ちたいと思って始めた料理。だが、実際は赤城さんですら逃げ出す程の腕前だったとは……。
それを自覚したとき、私の目から涙が零れ落ちた。……もう料理は止めよう。お医者さんからも言われたんだから……仕方がないんだ。しかた……ない……んだ。
「……磯風? どうしたんや? なんで泣いとるんや?」
そんな時、新しい声が聞こえてきた。顔を上げるとそこには黒潮の姿があった。
「黒潮か……なに、現実を突きつけられてしまったんだ。ふふふ……私の料理は赤城さんが逃げ出すほどの不味さだったんだな」
「……え! 今更気づいたん!?」
黒潮の言葉に思わず胸を押さえてしまう。そうか、磯風はそんなにも……そんなにも私は……。
「……で、磯風。磯風はどうしたいん?」
「……何をだ?」
「自分が料理が下手なんを自覚して、それからどうしたいんや? このまま料理をやめたいんか? それとも、うまくなりたいんか? どっちや?」
……そんなの決まっている。料理をうまくなりたい……だけど……。
「……黒潮、私は医者にも作るなと言われたんだ……。やめるしかないじゃ……」
そこまで言ったとき、黒潮が私の顔を挟んで持ち上げる。視界一杯に彼女の顔が映る。
「磯風。ウチが聞いとるんはアンタがどうしたいかなんや。アンタの気持ちだけを聞いとるんや。さっさと答えんか」
そんなの……私の気持ちなんて決まってる。決まっている!
「……黒潮、私は料理がうまくなりたい!」
「……ヨッシャ、よう言うたな磯風! ならウチもサポートしたる!」
黒潮のサポート。そう言えば黒潮も料理はしていたし、中々好評みたいだな。ならば、彼女を見習うべきか。
「黒潮。頼む! 私に料理を教えてくれ!」
「もちろんや。可愛い妹のため、一肌脱ぐで」
私は伸ばされた黒潮の手を握ると立ち上がり、涙を拭う。この磯風。悪評を背負ったままでは終わらせないぞ。