黒潮お姉ちゃんシリーズ   作:雨宮季弥99

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第十二章 磯風編3

 それから私は黒潮の元で特訓を受けることになった。まずは私の料理の腕前を再確認することになったのだが……。

 

「……磯風。厳しいこと言うけど……これは食えたもんやないで」

 

 私が作った料理を一口食べただけで黒潮は厳しい表情を向ける。次に私に食べるように言ってきたので食べてみたが……。うん、美味いとは思わないが、食えないほどではないはずなんだが。

 

 その事を素直に黒潮に伝えると、黒潮は次に彼女が作った、私と同じものを持ってきて磯風に食べさせてきた。

 

「……うん、美味いな」

 

 食べた感想を素直に述べると、黒潮は難しい顔をして眉間に皺を寄せた。なんだ、おかしいことを言ってないはずだが。

 

「……磯風。ちょっと待っとってな」

 

 そう言って黒潮は席を外して……しばらくしてさっきと同じ料理を持ってきた。

 

「磯風。こっちのはどうや?」

 

 出された料理を口にするが……うん、これも美味いな。

 

「これも美味いぞ黒潮」

 

「さようかぁ……磯風、最初に出したやつやねんけどな。あれ、ワザと手を抜いて作った手抜きなんやで。はっきり言って、美味しくない。のレベルや」

 

 その言葉に私は思わず目を見開く。そんな……確かに違いはあったが、そんなに違いがあるようには思えなかったぞ。

 

「……こりゃあれやな。磯風、味覚障害の類やな。多分味覚が鈍感でめっちゃ大雑把にしか味が把握できとらんのや」

 

「……そう、なのか」

 

「そうやねぇ。せやから味見してもあんま意味ないし……と言うか磯風の料理ってレシピ通りですらなくて変なアレンジ入れまくりやん。そりゃ変な味になるで」

 

「し、しかしレシピ通りに作っても……」

 

「面白ない? つまらない? そんなもんレシピ通りに作れてから言うセリフや。磯風はまずレシピ通りに作れるようになり。全部それからや!」

 

 私の反論は黒潮に一刀両断される。

 

「まずはこのレシピ本の料理を作るで! ウチが合格言うまではアレンジ一切禁止やからな!」

 

「わ、わかった」

 

 黒潮の剣幕に押されて思わず頷く。それから、私の特訓は始まった。

 

 

 

 特訓はハッキリ言うと厳しかった。黒潮は今まで私が独学で培ってきた全てを否定して、本の通りにする事の一点張りだったのだ。

 

 正直な所、味覚障害だと言われた時点ではまだ私は自分の料理の腕に少しだけ自負があった。野菜の切り方や肉の焼き方等はまだうまくできているんじゃないか? うまくできていないのは味付けとかそういう部分だけなんじゃないかと。

 

 だが、そんな幻想はあっさりと砕かれた。黒潮の目から見た私の料理の腕前は壊滅的だったようで、本当に基礎の基礎の部分から全てやり直すことになった。

 

 辛くなかったと言えば嘘になる。だが、そんな私を支えていたのは倒れた浜風の顔と、黒潮の叱咤激励だった。あの苦しそうな浜風の顔が罪悪を呼び起こし、黒潮の叱咤激励が私の罪悪感の向かうべき先を教えてくれる。

 

 それと、並行して私は亜鉛を多く含む料理を食べるようにした。黒潮曰く、味覚障害は亜鉛不足で生じることがあると言うことなので、間宮ではもっぱら亜鉛を多くとれる料理を食べ続ける。後、サプリメントとやらも飲み始めた。

 

そして、特訓を開始してから一か月……。

 

「……黒潮、どうだろうか?」

 

 今日作ったのは肉じゃが。簡単なイメージを持っていたが、実際に作ったら難しい。ジャガイモが崩れないように煮るのもそうだが、調味料の配分も気を付けなければならない。作るたびに黒潮から具体的な指摘を受け、作り直してきた。

 

「……」

 

 真剣な顔つきで黒潮が私の肉じゃがを口にする。……特訓を始めてからはこの瞬間が最も緊張するようになった。……今回はどうだ?

 

「……60点やな。基礎はでき始めとる。最近は新しい海域の攻略やらで忙しくなっとる中で勉強したと考えるなら上出来やと思うで」

 

「……そ、そうか! 良かった……」

 

「気緩めたらアカンで。まだ美味しいの範疇に辛うじて引っ掛けれたぐらいや。じゃ、次はこれや」

 

 そう言って黒潮が用意したのは二つの皿に載った肉じゃが。片方は間宮さんが作ったもので、もう片方は黒潮が作ったもの。黒潮の作ったものは多少手を抜いているため、普通の味覚の持ち主ならすぐに違いに気づけるという。

 

「……むぅ……こっちが黒潮……のか?」

 

「その根拠はなんや?」

 

「ジャガイモを食べたときにやや固かったと思う。それに味が多少濃いような気もする……どうだろうか?」

 

「……正解や。味覚障害のほうも少しずつ改善できとるっぽいな。いいな磯風。ここで焦ったらアカンで。こういう軌道に乗り出したころに焦って変な事しだしたら失敗するんや。理解しとるな? 理解できとるな? 理解できへん頭やないな?」

 

「……黒潮。いくらなんでも磯風を信用しなさすぎではないか? 私はそこまで信用できないのか?」

 

「……だって心配やもん。磯風あん時泣いとったやん。泣くほど悲しかったんやないん? そんだけ思い入れのある事を勉強しとるんや、焦ってもおかしくないし……ここで何かやってもうたら磯風がまた泣くかもしれへんやん」

 

 そう言って心配そうに私を見上げる黒潮……クッ、教えているときは厳しいのにこんな不意打ちをするなんて……あざとい……!

 

「……わかった。黒潮の言うとおりにするから」

 

「ヨッシャ。それじゃぁ早速おさらいするで」

 

 一転して表情を和らげる黒潮に私は軽く息を吐く。まったく、我が姉ながら大したものだと思う。あんな釘を刺されては、言われた通りにするしかないではないか。

 

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