更に一か月が経過した。私はついに黒潮からのお墨付きを貰った。そして今、浜風を食堂に呼び出した。
「……ねぇ、磯風。なんで私食堂に呼び出されたの?」
そう言って私を見る浜風に目には怯えの光が見える。これも磯風のせい……だが、今日は違うぞ!
「浜風、これを食べてくれ!、私の料理だ!」
そう言って私は用意しておいた肉じゃがを浜風の前に置く。その途端、浜風の体が明らかに逃げ腰になった。
「……いや、私はその……お腹空いてないから……」
逃げようとする浜風の腕を咄嗟に掴む。
「は、放して磯風! お願い放して!」
力づくで私を振りほどこうと浜風が暴れるのを強引に引き留める。
「大丈夫だ浜風! あれから黒潮に付きっ切りで教えてもらったんだ! だから食べられるはずだ!」
それを伝えると、浜風は暴れるのをやめて磯風を見てきた。
「……黒潮が教えたの?」
「ああ。だから大丈夫……なはずだ」
そう言うと、浜風は恐る恐るという感じではあるが席に着いた。そして私が手を放すと、しばらくの間に肉じゃがを観察し……意を決したような表情で口にした。
「……」
「……」
口に入れたジャガイモをゆっくりと咀嚼する浜風を私は見つめる。……どうだ、浜風。食べれるのか?
「……割と美味しい」
「ほ……本当か!?」
浜風の口から出てきた言葉を私は尋ね返す。
「……うん。黒潮の料理に比べるとまだまだだけど……食べれる。磯風の料理、美味しい!」
「そう……か……」
浜風の言葉に私は安堵し……なんだ、視界がボヤけて……。
「……い、磯風!? なんで泣いてるの?」
「……ああ、嬉しいんだ、浜風。……私の料理を食べて倒れた君が……美味しいと言ってくれて……嬉しいんだ」
「……ごめんなさい磯風。そんなに私……磯風の事傷つけていたんだ……」
「謝らないで……くれ、浜風……。さぁ、冷めてしまうから、食べてくれ」
私が促すと浜風は再びに肉じゃがを食べ始める。ああ、良いものだな、誰かに自分の料理を食べてもらうというのは。黒潮が居なかったら私は料理を作るのをやめていただろう……感謝するぞ黒潮。
「黒潮、これならどうだ?」
「ふむ……うん、これならさっきより味のバランスがええで。親潮はどう思う?」
「そうですね。悪くはないですが、いっそこう突き抜けてみるのも……」
「ふーむ。それも確かにありやなぁ。せやったらこっちの調味料を……」
今、私は黒潮、親潮と一緒に厨房で料理をしている。浜風に肉じゃがを食べてもらってからも、私はこうして黒潮達と一緒に料理をしている。彼女の元でならきっと……私はもっと料理をすることが好きになれると思う。なぜなら……。
「磯風。あとちょっと頑張るで。美味いもん食わせたいやろ?」
「勿論だ黒潮。私はもっと料理を美味くしたいんだからな。親潮も、これからも頼む」
「ええ、喜んでお手伝いしますよ」
黒潮と親潮は力強く頷くと、再び料理作りに意識を向ける。ふっ、こうして複数で料理を作る事がこんなに心躍るなんて思わなかったぞ。ましてそれは愛しい姉と共にであり、愛しい姉が嬉しそうに食べる様子を想像するのがこうも心躍ることだなんてな。黒潮、責任は取ってもらうからな。