私が風邪を引いてから一か月ぐらいが経った。あれから特に風邪がぶり返すこともなく、私はいつも通り、妹達や他の駆逐艦の子の面倒を見たり、他の艦種の艦娘の人達と色んなやり取りをしたり、出撃で頑張ったりと、風邪を引く前と変わらない生活を送っている……。
と傍から見たらそういう風に見えてるんだろうなぁ。実は一個だけはっきりと変わったことがあるの。それは……。
「陽炎の髪は手触りええなぁ。ちゃんと手入れしとる証拠やでぇ。枝毛もないし、羨ましいわ」
「……当然でしょ」
私は今黒潮の部屋で、彼女に膝枕されならがテレビを見てる。あれから私は、誰かに怒られたり、失敗をしたりと気が滅入ることがあった時にこうして黒潮に甘えるようになった。
「しっかし、陽炎がこんなに甘えてくるとは思わんかったで。意外と甘えたがりやったんやなぁ」
顔は見えないけど、多分黒潮は苦笑してるんでしょうね。でも仕方ないじゃない。私をこんなのにしたのはあんたなんだから。責任はちゃんととってもらわないと。
「あんたが甘えてこいって言ったから甘えてるんでしょ。なによ、迷惑だって言うの?」
私がわざと拗ねたような態度を取ると、黒潮の手が私の頭を優しく撫でてきた。
「ちゃうでぇ陽炎。迷惑なんかあらへんて。むしろ普段迷惑をかけとるんやから、これぐらい当然や。まぁ、なんか大きい妹ができたような気分やけどな」
「ふん、普段私がどれだけ苦労してるかよくわかるでしょ。まったく、あんた達はいっつも騒がしくして……」
「ごめんなぁ。陽炎が頼りになるからつい皆頼ってしまうんやし、きっとそれは陽炎にしかできん事なんや。やからな……」
そこまで言うと、黒潮の手が消えて、変わりに黒潮の息遣いが耳元に聞こえてきた。え、黒潮前屈みになってる?
「陽炎に負担をかけてしもうてる分、うちは陽炎を甘やかしたるからな。疲れた時はいつでも甘えてきてええんやで。次からまた頑張れるようにな」
耳元で囁かれた言葉に私は顔が赤くなるのを自覚する。でも、悪い気分じゃないから……いいか。
「……そうね、そうするわよ」
そう言って、私はテレビを消すと目を閉じた。このまま寝てもいい……けど、寝る寸前の微睡の中でもいいかな。ともかく、私は目を閉じて、意識を手放していく。そんな私の頭を黒潮はゆっくり、優しく撫でてくれる。その手の感触、そして伝わってくる温もりを気持ちいいと思いながら、私はゆっくりと眠りに落ちていった。