第十四章 天津風編
私の名前は天津風。陽炎型駆逐艦の9番艦。
私は陽炎型駆逐艦19人の中のちょうど真ん中ぐらいだから、妹として姉さん達に接するのも、姉として妹達に接するのも慣れている。だからこそ、彼女のことが気になる。
島風 私の建造時の技術を元にして作られた駆逐艦。その実力は艦娘として生まれ変わった今でも変わりなく、改までしかないにも関わらず改二のメンバーに負けない。場合によってはそれすら上回る実力を持っている。
でも、彼女には姉妹が居ない。そのせいか彼女はよく一人でいることが多い。だから私はよく彼女と関わるようにしている。確かに彼女は陽炎型がないけど、私にとっては妹のようなものだから……でも。
「アハハ、おっそ~い」
「クッ、ちょこまかと!」
今、私は島風と演習を行っている。でも、私の攻撃は全然当たらなくて、逆に島風の攻撃でどんどん艤装が破損していく。このままじゃ……!
「こっちだよ!」
「え? きゃあ!」
一瞬視界から消えたと思うと、視覚から砲弾が飛んできて直撃を食らう。く……艤装も全壊、実戦ならこれで轟沈してる。
「ねぇ天津風ちゃん。こないだからこんなのばっかりだよ? 調子悪いの?」
「……別に、そんなんじゃないわよ」
「ふーん、でも無理はしないでね。それじゃぁ、私は先に戻るから、後で間宮で何か食べようね」
そう言うと島風は一人で先にドックへ戻っていった。私も後を追っていく。……無理しないとダメなのよ。だって、私は……。
後日、私は訓練場で一人で訓練していた。少しでも島風に追いつかないと。私は彼女のプロトタイプ。島風よりも早く着任しているから島風よりも錬度は高い。だから、私はいつまでも彼女にやられっぱなしなんでできない。私が強くならないと、強くならないと!
「おーい、天津風、特訓かいな?」
ふと声がかけられて後ろを向くと、そこには黒潮の姿があった。
「あら、黒潮じゃない。黒潮も特訓なの?」
「せやでぇ……そうや天津風、軽く模擬戦でもせえへんか? 的に当てるよりは訓練になるで」
「いいわよ、宜しくね」
黒潮は最近改二になって実力を伸ばしている。彼女との特訓なら私にとっても実があるわ。
「それじゃ、いくでー」
「ええ。甘く見ないでよ」
互いの言葉を合図に特訓は始まり……そして私はあっさりと負けた。
「嘘……」
海面に膝をついた私は呆然とするしかなかった。確かに黒潮は改二になったし、元から錬度も高い。でも、何もできずにやられるなんて……。
「……天津風」
ふと気が付くと黒潮が目の前に立っていた。
「天津風、あんた、心ここにあらずって感じやで。なんか心配事でもあるんかいな?」
「べ、別にないわよそんなの、それじゃぁ私行く……キャッ」
立とうとしたら、黒潮に肩を抑えられて立てない。な、なにするのよ!?
「天津風。自覚あるんかは知らんけどな。天津風が嘘言ったりしたときはな、目がめっちゃ泳いでるねん」
「え!? う、嘘!?」
「嘘やで」
「……」
だ、騙された!
「だ、騙したわね黒潮!」
「まぁ騙した事にはなるんやけど、そもそも嘘ついたんは天津風やん。さ、理由を話してもらおうか。話さんのやったら……」
「……わかったわよ、話す。話すから」
こうなった黒潮が止められないのは他の姉妹達への行動で見てきたから知ってる。あんまり言いたくないけど、諦めないと……。
「……私、陽炎型だけど、島風のプロトタイプでもあるじゃない」
「せやねぇ。よう島風と一緒におるし、仲がよさそうで羨ましいで」
「……プロトタイプだからって、私が島風より弱くていい理由なんてないじゃない。むしろ、私のほうがお姉ちゃんなんだし、私のほうが強いほうがいいのに……最近全然勝てないのよ。あの子のスピードに追い付けなくて、いっつも負けてるの」
「……まぁ、島風のスピードはホンマ早いからなぁ。てか、艦であった頃は馬力だけで言えば赤城はんより上やったいうんやから、とんでもないで」
そう、島風は根本的な部分からして、最強クラスの駆逐艦なの。でもね……でもね……。
「だからこそ、私は負けたくないの。だって……私まで追いつけなかったら、島風は一人ぼっちになるじゃない」
島風は早い。一人だけが早い。本人は気にしてる様子はないけど、それでも……私だけでも追いつけないとダメなのよ。そうじゃないと、島風は本当に一人になっちゃう気がするから。
「……なるほどな。よし! ウチも協力するで! 可愛い妹がそんな真剣に考えとるのに、見なかったことにはできん!」
「……協力してくれるのは嬉しいけど、どうするつもりよ?」
黒潮は確かに強くなったけど、根本的には島風より強いわけでもないし、何をするつもりなんだろう?
「その前に確認なんやけど、天津風は島風に速さで追いつきたいんか? それとも、戦いで勝てるようになりたいんか?」
「……私の艤装じゃどう足掻いても島風には追いつけないわ。だから、勝ちたいの。スピードだけが勝負を決めるんじゃないもの」
「……なるほどな。よっしゃ、ちょっと待っとれ、応援呼んでくるわ」
そう言って黒潮はその場から離れて寮のほうへ走っていった。応援って……誰を呼んでくるのかしら?