黒潮お姉ちゃんシリーズ   作:雨宮季弥99

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第十五章 雪風編2

(どうしよう……どうしよう……)

 

 自分の部屋で私は頭を抱えています。しれえにはいくら言っても聞いてもらえませんでした。……怖い、怖い。私のせいで誰かが沈んだら? もしそんなことになったら私は……。

 

 かつての大戦で、私はいくつもの戦場で、何人もの仲間と一緒に戦ってきた。でも私だけ生き残ってきた。姉妹の中でも私だけが生き残った。私は死神だ。仲間の幸運を吸い取って、私だけが生き残った。

 

「……いやだよ。もう、誰かが沈むのは見たくなんてないよ……」

 

「雪風、おるかー?」

 

 不意にノックの音と一緒に黒潮の声が聞こえてきました。慌てて扉を開けて黒潮を迎えます。

 

「雪風。今度の出撃のメンバー表渡しにきたで。しばらくウチと一緒に出撃になるからよろしくな」

 

 そう言って黒潮が差し出してきた出撃表を受け取りますが……自分でも手が震えているのがわかります。これは大規模作戦とは別の普通の出撃……でも……。

 

「……雪風。あんま心配のし過ぎはよくないで。ウチがちゃんとサポートするからな」

 

「……黒潮……でも、私は……」

 

「不安な気持ちはわかるわ。でもな、そんな気持ちのまんまで居ても変わらんのも確かやと思うで。……それじゃぁ、ウチは他の人に表を渡しに行くから」

 

 そう言って黒潮は部屋から出ていきました。……黒潮、不安な気持ちをなくすなんてできないよ……。私は……死神なんだから……。

 

 

 

 出撃表を渡されてから数日後。私は今、赤城さん率いる艦隊に黒潮と一緒に出撃しています。でも、私は不安と恐怖しかありません。今回の出撃先は錬度を考えれば難しい海域ではありません。でも、万が一も十分あり得る……。もしも、私のせいで誰かが沈んだら……。

 

「雪風。俯いてたら危ないで。ちゃんと前見とき」

 

「あ……はい……」

 

 黒潮に声をかけられて顔を上げるが、気持ちは沈んだままだ。

 

「今から偵察機を飛ばします」

 

 赤城さんの声を合図に全員が停止。赤城さんが飛ばした偵察機が戻ってくるのを待つ。程なくして戻ってきた偵察機の報告を聞いた赤城さんの指示に従って進路を進んでいくと、やがて敵の艦隊と遭遇した。敵は戦艦、空母を含む主力艦隊。皆一様に気を引き締めます。

 

「全艦攻撃開始!」

 

 赤城さんの発信させた爆撃機による攻撃を皮切りに、私達は敵に攻撃を行います。私は先陣を切って突撃し、敵の標的になろうとして……でも。

 

(なんで……なんで当たらないの!?)

 

 敵の攻撃は私に当たりません。時に横に、時に私の後方に着弾して水柱をあげますが、それだけです。私に当たることはありません。どうして……どうして当ててくれないんですか!? 私に当ててくれたら……そうすれば誰かが流れ弾に当たることもないのに!

 

「なんで……なんで!」

 

 私はひたすら敵に接近して攻撃する。それなのに敵の攻撃は雪風に当たってくれない。そして、雪風の横を戦艦の砲弾が飛んで行ったと思ったら……。

 

「おわあ!」

 

 後ろから聞こえてきたのは……黒潮? 黒潮!? そんな、戦艦の砲撃を食らったら……!

 

「……舐めんな!」

 

 私が驚く間もなく、艤装の所々から煙を吹いている黒潮が私の横を通って走っていき、敵に砲撃を加えていく。

 

「来るわかっとったらなぁ……いくらでも対処できるわ!」

 

 そう叫びながら黒潮は私よりも早く、正確な攻撃で敵を翻弄する。その間に主力の方々の攻撃が敵を捕らえ、次々に沈めていって……程なくして戦いはこちらの勝利で終わった。

 

「黒潮……大丈夫ですか?」

 

「おう、なんとかやれるで。改二様様や。それに、来るとわかっとったらどうとでもなるで」

 

「……え、来るのわかってたんですか?」

 

 そう言えば戦闘の最中にもそんなことを言っていたような……。

 

「そやで。雪風の後ろおったからな。雪風狙う砲弾の流れ弾ぐらいくるで」

 

「!? な、なんでそんな危険な位置に居るんですか! 雪風は敵の気を散らすために……」

 

「気を散らす? むしろ当てて欲しい思っとったんちゃうんか?」

 

 黒潮から言われた言葉に思わず息を飲みます。な、なんで……。

 

「大方、自分が死神やとか思って、それが嫌やから自分に攻撃が向けられるようにと思ってがむしゃらにツッコんどるんやろ。後ろで見ててようわかったわ」

 

 そん……な。たった一回の戦闘で……そこまで……?

 

「……だったらなんですか? いいじゃないですか! 私は一人だけ生き残ったんですよ? 率先して前に出るべきじゃ……ヘブ!」

 

 黒潮に噛みつこうとする私の頬が掴まれたと思ったら、黒潮が強烈な頭突きをしてきました。これ……は……痛……!

 

「……アホ抜かすな雪風! 生き残ったからこそ、置いてかれるもんの気持ちもわかるやろ! あんたは自分の我儘で全員を悲しませたいんか!」

 

「ッ!」

 

「ええか雪風! 後ろで見ててわかったわ。あんたに飛んできた攻撃が他の艦娘の所に行くのわな、あんたが避けとるからや! 意識せず、ほとんど無意識に最小限の動きで避けとる。せやから雪風にとっては勝手に逸れとるように見えるんや。そのくせ、後ろのことを気にせんでいるから、立ち位置が悪くて味方に攻撃が飛んで行っとる。それだけの話や!」

 

「そ……そんなわけないじゃないですか! 雪風がそんな事、できるわけが……」

 

 雪風が反射的に目線を逸らそうとして……黒潮が顔を掴んで無理やり黒潮の方を向かせてきます。

 

「ええか雪風。あんたの船員の人たちは全員凄腕やった。悔しいけど、ウチに乗ってた人たちよりも、陽炎型に乗ってた人たちの誰よりも凄腕やったと思うし、当時の船員全員で比べても5本の指に入ってるんやないかってレベルやったと思う。あんたにはその人たちの力が宿っとるんや。なら、無意識のうちにでも敵の攻撃を避けててもおかしくないやん。せやから、後はあんたの立ち回りしだいや!」

 

「そん……な……ゆき……かぜがそん……な……」

 

「……やる前からそんな弱気でどうすんねん。ええか雪風。ウチはあんたを信じとる。あんたは死神やないんや。雪風かて死神にはなりたくないんやろ。なら、今はウチを信じてくれんか?」

 

 ……黒潮はズルイです。さっきまで怒ってたのに、なんで今はそんなに悲しそうな顔ができるんですか? そんな顔をされたら……。

 

「……ねぇ二人とも。そろそろいいかな? 姉妹喧嘩も時には必要だろうけど、今私達出撃中なんだよ」

 

「そうですね。そろそろその辺にして頂けますか?」

 

「あ……こりゃすんまへん皆さん」

 

 慌てて私と黒潮は皆さんに謝ると改めて海上を進んでいきます。でも、私の心の中は黒潮の言葉で一杯でした。

 

(……少しだけ……信じてもいいんでしょうか?)

 

 黒潮の言うことに確証があるかはわからないです。でも……あんな真剣に怒ってくれたんですから……少しだけ……信じようと思います。

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