第十六章 初風編
私の名前は初風。陽炎型の7番艦。私は提督に、皆に強くなってほしい。それは、提督が強くなれば誰かが轟沈する可能性が減るんだし、提督自身も好きだと思ってる。
だから、私はキツイ言葉で皆に話しかける。甘やかすのは他の人がしてるから、私が強く当たらないと……。嫌な言葉をぶつけることになっても、私がやらないと。だって……誰も沈んでほしくないから……。
「……提督、最近戦果が落ちてるわね。ちゃんと海域攻略について考えてますか?」
「……耳が痛いな。だが、無理をして皆に必要以上の苦労をかけたくはないのでな」
「その気持ちは嬉しいけど、それで戦果が落ちてたら意味がないわよ。ちゃんと作戦を立ててよね」
提督の気持ちは嬉しい。わたしたちを一人の人間としてみてくれてるんだから。でも、だからこそ、私は厳しく、嫌なことでも言わないといけない。それが私の役目だから。
「まったくだな。……と、そろそろ交代の時間か。初風、ご苦労だったな」
「ええと……そうね。それじゃぁ出撃に行ってくるから」
そう言って私は執務室を後にして出撃ドッグへ向かう。今日は黒潮と一緒に出撃だったわね。……黒潮には頑張ってもらわないと。
(……提督の話では、黒潮の改二計画の話も出てるみたいだし)
最近陽炎、不知火と陽炎型にもようやく改二への改造がされるようになった。その流れで黒潮にもその話が出てるけど、その一方で、陽炎型にだけ急に改二を増やしすぎじゃないかって話もでてるらしい。それはまだ秘書艦をしている一部の艦娘にしか知らされない機密情報。だから黒潮
達には言えない。でも、黒潮には頑張ってもらわないと。
(……黒潮だけ改二がないなんてさせたくないわ)
陽炎と不知火に比べれば目立たない。でも、黒潮は二人と一緒にずっと頑張ってきた。だから、彼女にも改二になってほしい。だから、私が嫌なことでも言わないと。
「さぁ、出撃しますよ。皆さん、私についてきてください」
赤城さんを旗艦に川内姉さん、黒潮、私、暁の編成で出撃。この海域ならこの編成で十分だし、黒潮がMVPを取ることも十分なはず。……だっていうのに。
「今回のMVPは暁か。おめでとう暁」
「ふふん、一人前のレディーならこれぐらい当然よ」
提督室で提督に褒められているのは暁。確かに彼女の酸素魚雷が敵の旗艦を倒したからMVPなのは間違いないんだけど……黒潮も十分狙えたはずなのに。
「それじゃぁ皆お疲れさま。負傷しているやつは入渠。無傷の奴は解散な」
提督のこの言葉で私達は解散。小さいながらも損傷を受けた川内姉さんと暁は入渠。赤城さんと私と黒潮は無傷だったからそのまま解散となった。
「それでは、二人ともお疲れさまでした」
「「お疲れさまでした」」
提督室を出た後、私と黒潮は赤城さんと別れて駆逐艦寮向けて歩き出す。
「いやー、今日も疲れたわ。さっさと部屋戻って寝たいで」
「大した活躍してないじゃない。訓練しておくほうがいいんじゃないの?」
「いやぁ、初風。そりゃ勘弁やで」
ノホホンと笑いながら歩く黒潮。その態度に正直イラッとしてしまう。取れたはずのMVPも取らなかったくせに……。
「あのねぇ黒潮。そんなんだったらいつまでも改二になれないわよ。今日の戦闘だって、暁じゃなくてあんたがMVP取れてたのを暁に取らせてるし。それでいいの?」
「改二? あはは、ないない。こないだ陽炎、不知火が連続で改二になったんやで。当分ないって。あってもウチより先に妹達にくるって」
……なによ、妹に先に来ても気にしないって言うの? 暁や白露なんてめっちゃ気にしてるって言うのに。
「黒潮。そんな態度じゃ妹に示しがつかないですしょ。3女なんだから、もっとちゃんとしなさいよ」
「も~。初風は手厳しいなぁ。ほら、早よう寮に帰ろうや」
「あ、ちょ……」
私の手を掴んで走り出す黒潮。それに引っ張られて私も走る。……まったくもう、こんなんじゃ改二になれないわよ黒潮。