黒潮お姉ちゃんシリーズ   作:雨宮季弥99

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第十六章 初風編2

 それから一週間。私は少しイライラしていた。黒潮に改二の案が出てることを告げて発破をかけたい。でも喋ることは許されていない。だからそこをボカして黒潮を焚き付けるしかないのに、黒潮はいっつも改二に興味がないように振る舞って……あー、もう。腹が立つわね。

 

「なぁ、初風姉。初風姉」

 

「ん? ……なによ嵐」

 

 寮の庭でボーッとしてたら嵐に声をかけられた。何の用かしら?

 

「初風姉。最近黒潮姉にキツくないか? あれじゃ黒潮姉も疲れちまうぜ。なんかあったのか?」

 

「……なんでもないわよ」

 

「そうか? でも、前はあんまり黒潮姉に厳しく言ったりは……」

 

「なんでもないって言ってるでしょ!」

 

嵐にそう怒鳴り、私は庭から離れる。誰の……誰のせいだと思ってるのよ! でも、私はちゃんと言わないと。だって、黒潮は陽炎と不知火と一緒に頑張ってきたんだから、黒潮だけ仲間外れになんてさせれるわけがないじゃないの。

 

 

 

 

 今日、私は陽炎、不知火、黒潮、親潮、川内姉さんと一緒にタンカーの護衛任務に赴いていた。普段より人数が多いのは、最近この海路で出現する敵の数が増えてるからなんだけど……もう、こんな任務じゃなくて、もっとちゃんとした任務で黒潮には頑張ってほしいのに。

 

「なんやぁ、どうしたんや初風? 眉間に皺寄っとるで」

 

「なんでもないわ」

 

 黒潮に声をかけられるけど、素っ気なく返す。仕方ないし、さっさと任務を終わらせて帰るしか……。

 

「! 皆、偵察機からの報告。敵の戦艦を含む艦隊を発見。こっちに向かってきてるよ!」

 

 その言葉に私達は一斉に気を引き締める。私達のほとんどが駆逐艦。戦艦を含む艦隊を相手にするには火力も装甲も足りない。でも、私達が逃げたらタンカーも、それに乗っている人達も見捨てることになる。

 

「皆、気合い入れていくよ!」

 

「はい!」

 

 川内姉さんの声に皆が頷き艤装を構える。そして、程なくして会敵した敵に向かって先制の魚雷を叩き込み。そこから先は双方陣形を組んでの戦いとなる。くそっ、やっぱり戦艦相手にこっちの主砲じゃダメージを与えにくいし、随伴艦の重巡も厄介ね。空母がいないだけまだマシだけど……。

 

「チッ、面倒な相手ね。不知火、行くわよ!」

 

「了解です、陽炎」

 

 陽炎が声に応えた不知火と一緒に敵に肉薄。重巡に至近距離から砲撃を加え、離脱の間際に魚雷を発射する。それを受けた重巡が火を吐きながら沈んでいく。

 

「よし、これで勢いはこっちのものだね。皆、頑張ってよ!」

 

 それを見た川内姉さんのやる気があがる。私と黒潮も改めて敵に主砲を向ける。……でも、私の頭の中には別の考えがあった。

 

(私の攻撃で戦艦にダメージを与えて黒潮が止めを刺せば、黒潮がこの戦いのMVPになれるかもしれんない。なんとかしないと……)

 

 陽炎と不知火のおかげで形勢を持って行けている以上、戦闘が終わった後の事も考えないと。なんとか黒潮にMVPを取らせないと……!

 

「! 初風、何してるの!?」

 

「え!?」

 

 川内姉さんの声に頭を上げると、そこには戦艦から打ち出された砲撃が私に向かってくる光景が。慌てて回避しようとするけど、間に合わな……。

 

「初風!」

 

 不意に声が聞こえたと思うと、私の体が横から押される。視線をそちらに向けると、そこには私を突き飛ばす黒潮。そして……彼女に砲撃が直撃する光景だった。

 

「……! 黒潮!?」

 

 すぐに体勢を立て直して黒潮に駆け寄る。彼女は力なく海面に横たわっていて、艤装からは黒煙が立ち上っている。そんな……私を庇って!?

 

「黒潮! 黒潮! しっかりしなさいよ!」

 

「……初風……大丈夫……かいな……?」

 

 慌てて抱き起すけど、黒潮は私の心配をしてきて……何言ってるのよ。なんで私を庇うなんて……。

 

「わ、私は大丈夫よ! それより黒潮こそ……」

 

 私が何かを言うより先に黒潮が私の手を握ってくる。

 

「……なぁ初風……。お願いがあるんや……聞いて……くれんか?」

 

「な、なによ黒潮。まるで最後のお願いみたい……な……」

 

 そんな……まさか……!? だって……だって、黒潮は改造も改修もやれるだけやってる。戦艦の砲撃だからって一撃でやられるなんて……そんなわけが……。

 

「……初風……もう少し……柔らかい態度……とったり……。皆……怖がってもうとる……」

 

「だ、だって……それは……!」

 

「……わかっとる……初風は嫌われ役買っとるんやってぐらい……でもな……初風だけが引き受ける必要はないんや……」

 

 そう言って黒潮は私の手を握っていた手を放し、私の頬を撫でる。

 

「……初風だけ苦労したらアカン……初風だけ嫌われるんは……ウチは嫌や……な……お願い……や……」

 

 そう言って私を見上げる黒潮の表情は……どう表現すればいいのよ。こんな……こんな……。

 

「……わかっ……たわよ」

 

「……よか……た……で……」

 

 私の返事を聞いた黒潮はそう言って笑うと……静かに目を閉じた。……私の頬を撫でていた手が力を失い、海面に落ちる。

 

「ちょっと……やめてよ……起きてよ……ねえ!」

 

 体を揺さぶっても黒潮が起きない。力なく揺れるだけの彼女の様子に私は……私……は……!

 

「やめてよ、ねえ! わかったから! 起きてよ! 冗談はやめて……やめ……て……」

 

「初風! 黒潮は!?」

 

 後ろから陽炎の声がかけられる。顔をそっちに向けると、既に戦闘は終わっていたのか、敵の姿はなく、陽炎の後ろに不知火も親潮も川内姉さんも立っていた。

 

「かげ……ろ……くろ……しお……が……!」

 

 陽炎はすぐにしゃがんで黒潮の顔を覗き込んで、そして……黒潮の両頬を引っ張った。

 

「ひひゃ! ひひゃい!」

 

「な~に~を~……してるのあんたはあああ!」

 

「え……え!?」

 

 陽炎が頬を引っ張った途端に黒潮が痛がり出す。生きて……え!? じゃぁさっきのは!?

 

「黒潮、何をふざけているんですか」

 

「黒潮さん、おふざけがすぎますよ」

 

 陽炎の後ろから覗き込んできた不知火と親潮も呆れた様子でこっちを見てる。私……騙された!?

 

「黒潮、あんたはあああ!」

 

「すまん、すまん初風!」

 

 思わず私も黒潮の頭を叩くと、黒潮は必死に謝ってくる。でも知らない! 人を心配させてえ!

 

「ねぇちょっと。姉妹喧嘩なら帰ってからにしてよ。タンカーの人たちも呆れてるよ」

 

「あ、すいません。ほら、初風その辺にしときなさい。黒潮、罰として初風に牽引されなさい」

 

 そう言うと、陽炎達はさっさと行ってしまったので、私も黒潮に肩を貸して後を追っていく。ちょうどいいわ。鎮守府に帰るまで散々怒ってやるんだから。

 

「……なぁ、初風」

 

「なによ。さっきの事許さないからね」

 

「いや、そりゃ悪かったけど……ウチがお願いしたことは……守ってくれんか?」

 

 黒潮のお願い……私だけが嫌われ役を買うなったことよね……。もしかして。

 

「……黒潮、もしかして……それだけのためにあんな真似したの?」

 

「ん~……まぁ、ちょうどいいとは思ったわ。初風、普通に話して聞いてくれるかどうかわからんかったし」

 

 ……確かに、普段の黒潮に言われたとしても私は聞いてなかったと思う。

 

「……初風。ウチらは姉妹や。初風だけ嫌われ役買って、皆から嫌われたりする姿なんて見たくはないんや。……やからお願いや、もうちょっと、柔らかい態度なったり」

 

「……わかったわよ。その事だけは言う通りにしてあげるわ」

 

「ありがとうなぁ、初風」

 

 そう言って笑う黒潮の笑みは、どこかほっとしたような感じで……。仕方ないわね、さっきの事も許してあげようじゃないの。……ごめんね、黒潮。

 

 

 

 

 

「えーと……陽炎?」

 

「……」

 

「……陽炎、なんか言ってぇや」

 

 入渠から出てきた黒潮を強引に私の部屋まで連れてきた後、私は黒潮を抱きしめる。何も言わず、今ここに黒潮がいるんだと実感するために抱きしめる。

 

「……黒潮。冗談でももうああいうことはしないで」

 

「やられて倒れた事? でも、騙されたん初風だけやん。他は全員気づいて……」

 

「不知火も親潮も、体震えてたわ」

 

「……え?」

 

 私の言葉に黒潮が不思議そうな声を上げる。やっぱり、気づいてなかったのね。

 

「……私も、震えてた。頭ではわかってても、もしかして……万が一が……そう考えると怖かった。あんたが死んだんじゃないかって……不知火も、親潮も、そう思ってたはずよ」

 

 そう言って私はもっと力を込める。服越しに黒潮の体温が伝わってくる。呼吸が聞こえてくる。でも、不安な気持ちは消えてくれない。また、黒潮が私の目の前で消えていくんじゃないかという気持ちが湧き上がってくる。

 

「……ごめんなぁ陽炎。ウチがちょっと考えが足りんかったわ」

 

「本当よ。後で不知火と親潮にも謝ってきなさい。いいわね」

 

「うん……ごめんなぁ、陽炎……ごめんなぁ」

 

 私の背中に黒潮の両腕が回される。そうして私はやっと、黒潮がここに居てくれてるという実感を感じた。

 

「……本当……もうやめてよ……」

 

「……勿論や……ごめんなぁ……」

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