黒潮お姉ちゃんシリーズ   作:雨宮季弥99

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終章
エンディング


 こないだの大規模作戦。その成功をもって戦争は終わったわ。深海棲艦の本拠地を叩いてから数か月。深海棲艦は海から完全に姿を消したんやから当然なんやけど。これで、艦娘としてのウチらの役割は終わった。鎮守府も解体になって、ウチらもそれぞれの道を歩いてくことになった。

 

「さて……ウチはどうするべきなんやろなぁ……」

 

 部屋の中で書類を見ながら考える。戦艦や空母の人らは就業支援コースに行く人もおるけど、ウチみたいな駆逐艦はまず学業支援を受けなアカン。それを終えてから改めて学校に通って、ほんで就業するなり結婚するなり色んな道があるんやろうけど……。

 

(……陽炎達とも離れ離れになるんかなぁ……)

 

 それは嫌だなぁと考えながら書類をみとると、不意に部屋の扉がノックされる。出てみるとそこにおったんは陽炎やった。

 

「黒潮、司令官が呼んでるわ、付いてきて」

 

「司令はんが? 何の用なんや?」

 

「来たらわかるわよ。さ、さっさと来なさい」

 

 そう言って陽炎が歩き出したから慌てて追いかけるけど、ホンマなんなんやろ?

 

 疑問を浮かべながらも司令室に入ると、そこには司令はんの他に……え、なんで陽炎型が全員おるん? なんか怖いんやけど……。

 

「えーと……司令はん、何の用なん? それに姉妹全員おるし……一体なんなんやこれ?」

 

 ウチの問いに姉妹達はなんやニヤニヤしながらこっちみとるけど、司令はんはなんや真剣な顔しとると思ったら……懐から小さい箱取り出してきおった。

 

「黒潮、これを受け取ってくれ!」

 

 そう言うと差し出してきた小箱が開けられると、そこには指輪があった……って、え? 指輪?

 

「……司令はん、戦争は終わったんやで。今更ケッコンカッコカリしても意味ないんやけど……」

 

「違う! これは結婚指輪だ! 黒潮、俺と結婚してくれ!」

 

 ……へ? 結婚? ウチと? ……ええ!?

 

「し、司令はん、突然何を言うとるんや! ウチと結婚って……ええ!?」

 

「本気だ黒潮! 俺はお前が好きなんだ!」

 

 そんなわけないやん! 艦娘にはウチより魅力的なんが山ほどおるんや。司令はんがウチに告白なんてありえへん!

 

「は……はぁ!? 何言うとるんや司令はん! 冗談にしてはタチが悪すぎるで!」

 

「冗談でこんな事が言えるわけがないだろ!」

 

「だ……だって、艦娘にはウチより魅力的な人が山ほどおるやん! ほ、ほら! 姉妹の陽炎やら浜風やら……ウチより魅力的やで!?」

 

「確かに艦娘には魅力のあるやつばかりだ! でもな、俺が好きなのはお前なんだよ! お前の容姿も、性格も、全部ひっくるめてお前が好きなんだよ!

 

 そう言って司令はんはウチの肩を掴んで、ウチの目をまっすぐ見てくる。……真剣な表情や。こんな真剣な表情の司令はんは初めて見た……ホンマ……なんか?

 

「……ホンマ……なん? ……ウチ……信じてまうで……?」

 

「信じてくれ黒潮! 俺はお前と結婚したいんだ!」

 

「……もし冗談やったら……ウチ、司令はんの事、ホンマに嫌いになるで……?」

 

「冗談なんかじゃない! 俺は、本気で、黒潮が好きなんだ!」

 

 ……アカン、こんな真正面から言われたら……信じるしかないやん……ウチも……ウチも……!

 

「く、黒潮!? 泣くほど嫌だったのか!?」

 

 言われて初めて自分が泣いとるのに気付いた。違う……違うで司令はん……。

 

「……ちゃう……ちゃうよ……。司令はん、ウチな……諦めとったんや。周りは皆司令はんが好きな……魅力的な人ばかりや……ウチなんかじゃ……見向きもさ……れんって……」

 

「……司令はん。指輪……付けてくれる?」

 

ウチがそう言うと、司令はんは左手をとって、薬指に指輪を付けてくれた。サイズはピッタリ。銀色の指輪が光を反射して輝いとる。……アカン、また涙が出そうに……。

 

「黒潮、婚約おめでとう!」

 

「おめでとー!」

 

「おわああああ!?」

 

 そ、そうや、ここには姉妹全員おるやん! スッカリ忘れとった!? ……全部見られとるやん!

 

「えーと……な。黒潮。それで、ちょっと頼みがあるんだが」

 

「ん? ええと…… なんや?」

 

 この状況でお願いってなんなんやろ? 式は……できれば和風のほうがええけどなぁ。

 

「黒潮。俺は姉妹を離れ離れにしたいとは思っていない。戦艦や空母のような大人ならともかく、子供である駆逐艦なら尚更だ」

 

「そらまぁ……そう思ってくれるんは嬉しいけど、それがお願いと関係あるん?」

 

「ああ……。陽炎達と相談したが……黒潮。俺はお前を妻として、そして残りの陽炎型全員を養子として迎えたいと思っている」

 

「……は?」

 

 え? 何を言うとるんや司令はんは? ウチを奥さん……はわかるで。でも、姉妹全員を養子……養子!?

 

「な、なにを言うとるんや司令はん!? 自分が何を言うとるんかわかっとるんか!? じゅ……18人やで!?」

 

「わかってる! 18人全員を養子にするつもりだ!」

 

「そ、そないなん言うても無理やろ! 全員合わせて20人も住める場所があるんかいな!?」

 

「俺の家は一応豪農の出だったから、田舎にでかさだけはある家がある。少々不便ではあるが、そこでなら全員住める!」

 

 そ、そうやったんか……って、問題はそれだけやない!

 

「で……でも、お金はどうするんや? んな20人も生活するお金なんて……」

 

「そこは私達の貯金から出すわよ。艦娘を辞めることになって支払われる退職金に、これまで貯め込んだお金があれば、全員が成人するまでなんとかなるわ。それに、学業しながらでもバイトとかしてればある程度は賄えるしね」

 

 陽炎が平然と言ってくる。いや、確かに退職金はべらぼうな金額やったし、親潮や野分なんかはキッチリ貯金しとったみたいやけど……いや、せやけど!

 

「黒潮! もう準備はできてるんだ! 後は……お前次第なんだ! ……どうなんだ黒潮。やって……くれないか……?」

 

 司令はんがこっちを見とる。姉妹全員もこっちを見とる。……あーもう、しゃあない! こんなお膳立てされとったらやるしかないやんか!

 

「わかったわ……やったろうやないか! 司令はんの奥さんになって、陽炎型全員のおかんになったるわ!」

 

 ……正直場の雰囲気に流されてるだけな気がするけど、こうなったらやったろうやないか!

 

「……皆、聞いたわね!」

 

「はい!」「ばっちり!」「もちろん!」「しっかり聞いたわよ!」

 

「じゃぁ、例のあれ、行くわよ!」

 

「へ? 陽炎、例のあれって……おわああああ!?」

 

 突然司令はん以外に取り囲まれたかと思うと、そのまま持ち上げられる。ちょ、待って! この体勢ってまさか!?

 

「不知火、親潮、黒潮の袖はちゃんと持ったわね」

 

「大丈夫です。陽炎姉さん」

 

「こっちも問題ありません。陽炎も、襟首をちゃんと掴んでますね?」

 

「大丈夫よ。それじゃぁ……お母さん! これからよろしくね!」

 

 陽炎がそう言うたと思ったら、そのまんまお母さんを掛け声に胴上げが。ちょ、アカン! アカン! 吐く! 口からなんか出したらイカンもんが出る!

 

「ちょ、やめ! やめてえええええええ!」

 

 悲鳴を上げる中、視界が何度も上下する。アカン、こんなん心の準備もなしにやるもんやないいいいい!

 

「はい、終わるわよー」

 

 何回やられたんや……ともかく、胴上げが終わり床に降ろされたけど……こ・い・つ・らー!

 

「……いきなりなにするんやあんたらはあああああ!」

 

「ヤッバ、お母さんが怒ったわ。皆逃げろー」

 

 陽炎の声を合図に全員が扉に……ってええ!? いつの間に壁に回転ドア作っとったんや!? ってちょおお! 窓から飛び降りとる!

 

「ちょ! ここ三階……!」

 

 慌てて窓から下を覗くと……下には火災時の飛び降りに使うマットが敷かれとった。そこから降りて逃げとるんは嵐に舞風に磯風に谷風……いつの間にあんなもん用意しとったんや!?

 

「……ハッ!」

 

 慌てて後ろを振り向けど、そこにはもう司令はん以外誰もおらんかった。

 

「……全員、後でしばいたる」

 

「ま……まぁ落ち着け黒潮。皆、お前のためにやったことなんだし」

 

「……それで全てが許されるわけやないんやで司令はん……」

 

 ……あー、アカン。頭がまだ混乱しとる……ちーとばかし深呼吸をして……ふぅ。

 

「……はぁちょっと落ち着けたわ……」

 

 まったくもう、まさかこんな事になるとはなぁ……。驚きが行き過ぎるとこれ以上は驚けん……。あー、いかんいかん。あれやらんと。スッカリ忘れとった。

 

「……陽炎達の事は後でどうにかするとして……司令はん」

 

 改めて司令はんを向き直る。ほんで、三つ指をついて、司令はんを見上げる。

 

「黒潮……?」

 

「司令はん……いや、旦那様。不束者ですが、よろしくお願いします」

 

 そう言ってウチは頭を下げた。こういうのはちゃんとしとかんとな。

 

「ああ。よろしくな、黒潮」

 

 気付いたら思ったよりも近いところから旦那様の声が聞こえてて、頭を上げると目の前に旦那様の顔があった。

 

「黒潮……」

 

「旦那様……」

 

 旦那様の手がウチの顔をしっかり挟んで……初めてのキスはレモンの味や言うけど、味なんてなくて……ただ、旦那様の熱と感覚で心が満たされるだけやったわ。

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