「陽炎、ちょっと髪傷んでない?」
「あー、加齢のせいかしらねぇ」
「アカンでー、ちゃんとケアせえへんと。ウチの使こうとるリンス貸したろか?」
「……うん、お願い」
正直面倒くさいんだけど……仕方ないか。みっともない恰好するわけにもいかないし……。はぁ、昔はもっと気にしてはいたんだけど、最近は面倒ねぇ。
戦いが終わってから30年以上が経過した。あれから私達は義父さんの元で勉強をし、社会を学んで、無事に皆独立した。
幸い、皆よきパートナーを見つけることができて、結婚し、子供を産んだ。まぁ、舞風みたいに子供を産んでからもダンサーとして働いてるのも居るけど、親潮や磯風なんかは専業主婦をしてる。私も二人の子供を産んで、今はパートで働きながら旦那様を支えている。
「そういや、陽炎とこの子は元気にしとるん?」
「ええ。一人暮らしにはしゃいでるわ。黒潮のとこもそうでしょ?」
「まぁ、そうやなぁ」
世間話をしながら私は黒潮の膝の上から彼女を見上げる。偶然だけど、私の家族と黒潮の家族は同じマンションに住んでる。だから私はたまにこうして黒潮の所に来て甘えている。テレビをつけたりなんてせず、ただこうして、彼女の膝枕の上で彼女と話している。この時……この間だけは、私も黒潮も、妻じゃなく、母親じゃない……駆逐艦陽炎と黒潮に戻っている。それは例え家族のことを話していてもだ。
(……あと、どれだけこうしていられるかしら)
ふとそんな考えが頭を過った。私達ももう40を過ぎた。義父さんは70歳を越えている。……一度生まれ変わった私達だけど、同じ奇跡が起きるなんて甘い考えはない。いずれ……私達はこうすることができなくなると思う。
それは仕方ない事だとわかってる。永遠に存在するなんてのは神様仏様でもないと無理なんだから。だから……。
(後悔なんてないように……甘えようっと)
そう、私は決心した。でも、私の心の中でだけ決めても黒潮が承諾しないと意味ないから……口に出して伝えないと……恥ずかしいけど。
「ねぇ、黒潮」
「なぁ、陽炎」
互いの口が同時に動き、相手の名前を呼ぶ。今タイミングで被らなくてもいいんだけど……なんだかおかしくて、少しだけ笑うと、黒潮も同じように笑った。
「先に言いなさいよ黒潮」
「いやいや、陽炎が先に言ってえな」
「……じゃぁいっせーので。で言うわよ」
「あー……うん、わかったわ。いっせーのーで……」
「これからも甘えるからね、黒潮」
「これからも、存分に甘えてええからな、陽炎」