翌日、私は再び雷と一緒に出撃しました。そして、彼女は確かに同じ失敗はしませんでした。しかし、それとは別の、しかもより質の悪い失敗をしたのです。おかげで今回の出撃では敵を殲滅できませんでした。
「雷。確かに貴方は同じ失敗はしませんでした。しかし、なんですか? 今回の失敗は昨日の失敗よりも酷いじゃないですか」
「そ……それは! 不知火さんが同じ失敗をするなって言うから……」
……なんて言い訳。自分の非を認めず不知火の所為にするなんて……!
「言い訳にしても酷いですね。そうやって不知火の所為にすれば許されると思っているんですか? では、不知火が居なければ完璧にこなせるのですか?」
「それ……は……!」
不知火の追及に雷の目に徐々に涙が溜まっていくのが見えます。……そうやって泣けば済むとでも? そうすれば敵が見逃してくれるとでも思ってるのですか?
そんな事を考えつつ雷を見ていると、不意に作戦室の扉が開かれ、彼女の姉妹である暁、響、雷が入ってきました。
「ちょっと不知火さん! また雷を怒ってるって聞いたわよ! 雷もう涙目じゃないの!」
「不知火さん、ちょっと怒りすぎじゃないか? 雷は確かに失敗しているが、致命的なものじゃないはずだ。そんなに怒る必要はないだろ?」
「そ……そうなのです。不知火さんは怒りすぎです」
彼女たちは口々に雷を庇い私を悪者にする。……なんですかこれは、なんで私不知火が……。
「大体、不知火さんはすぐに人を睨むんでくるのを止めてもらえないか? それは気分がよくないよ」
「そうよ、ちょっとした事ですぐに睨んで来るなんて、レディのする事じゃないわよ」
口々に私を責め立てる暁達。……なんですかこれは、まるで不知火が居ないほうがいいみたいじゃないですか……。
「ちょっと四人とも、その辺に……」
「……わかりました、もういいです」
赤城さんの声を遮った不知火の言葉に五人の声が止まる。
「それでは、私はもう雷の事は気にしません。どうぞご勝手になさってください!」
吐き捨てるように叫ぶと、不知火はそのまま作戦室を後にし、そして走りました。途中で誰かにぶつかりそうになりながらも、そんなの気にもせず走って走って……。
「不知火! 不知火!」
不意に腕が捕まれ足が止まる。後ろを振り向くとそこには必死な顔をしている黒潮が不知火の腕を掴んでいるのが見えた。
「はぁ……はぁ……まったく、呼ばれたら止まりぃや……。どないしたんや、そんな顔で走って」
「……なんでもありません。放っておいてください!」
黒潮の手を振り払おうと腕を振るが、逆に黒潮は私の両腕を掴んでくる。なんですか、放っておいてほしいと言っているのに!
「アホウ! そんな泣き顔してるのに放っておけるわけないやろ!」
黒潮に言われて、不知火はようやく自分の目から涙が落ちているのに気が付いたわ。何時の間に……? 不知火……は……。
「ッ……ほら、ここじゃ人目に付くわ。移動するで」
そう言って黒潮は有無を言わさず不知火を引っ張り……不知火もそれに抵抗できず、そのまま連れられて行く。そして近くにあった空き部屋に入ると、黒潮は厳しい目で不知火を見てきたわ。
「それで、いったいどうしたんや? 泣きながら走るなんて……。よっぽどの事があったんやないんか?」
そう言われ、不知火の脳裏に先ほどの光景が浮かんできます。しかし、それは黒潮に相談するような事ではありません。
「……黒潮には関係ありません。失礼しま……」
そこまで言ったとき、黒潮が不知火の両肩に手を置いたと思うと、思い切り頭突きをかましてきました。余程勢いをつけていたのか……不知火は痛みと衝撃で思わず蹲ってしまいました。
「もしかしたら言うかもとは思っとったけど、まさかホンマに言うとはな……。うちは妹として心底悲しいで、不知火」
そう言ったと思うと、黒潮は再び不知火の両肩を掴み、視線を逸らさずに話し続けました。
「ええか不知火。うちらは姉妹艦や。姉が泣いとるのに放っておく妹がおると思うとるんか。さぁ、キリキリ喋ってもらうで。喋らんのやったらこの部屋から出すわけにはいかんで」
半分脅しのような言葉でしたが、どうやら黒潮は本気のようね……。どうせ聞いたところで何もできないでしょうけど……。そう思い、不知火は先ほどの出来事を話しました。……おかしいですね、話してる最中に視界がボヤけてきました。さっきの黒潮の頭突きのせい……でしょ……う……。
「う……うう……不知火は……」
気が付けば不知火は泣き出していました。なんで……なんで私が責められなければならいのですか……。不知火になんの落ち度が……なんで……。
「不知火、大丈夫やでぇ」
気が付くと、黒潮が不知火の額に自分の額をひっつけていました。少しでも前に出れば唇が触れ合ってしまうような距離。そんな距離で黒潮は笑顔で不知火を見つめていました。
「不知火はなぁ、確かに目つきがキツイところがあるし、ズバズバ物を言ってしまうけど、それだけ皆が大切なんやろ? 轟沈させたくないから……ついキツイ態度になってしまうだけや」
「でもなぁ、心は繊細やねんなぁ……だからこうしてと泣いてしもうたんやなぁ。大丈夫やでぇ。ウチは分かってるから。ウチだけやない、ちゃんと見る人が見れば不知火が意地悪とかでキツイ態度してるわけやないってのはちゃんとわかるんや」
そう言って不知火を見つめる黒潮の顔はとても……とても素敵な笑顔で……。陽炎とは別の、不知火を包み込んでくれるような、そんな笑顔を浮かべていました。
「黒潮……」
思わず、不知火は黒潮の肩に顔を埋め、そのまま黒潮を抱きしめていました。そんな不知火の背中を、黒潮はまるであやすかのように撫でていきます。
「泣き止んだら、雷達にちゃんと説明しに行こうなぁ。大丈夫や、ウチがついていったるからな」
黒潮の言葉に、不知火はただ頷くことしか……できませんでした。