「ほい、不知火笑顔やで笑顔。こうやるんやで」
「こう……ですか? ……口角が痛いですね」
「最初はそんなもんや。慣れれば痛くもなくなるで」
今、不知火は、自室で黒潮と一緒に笑顔の練習をしています。あの、黒潮の元で泣いたあの日、あれから泣き止んだ不知火が作戦室に戻ると、不知火達を見た雷達が謝ってきました。どうやら不知火は最後に吐き捨てた時には既に泣いていたようで、それを見て驚いたのと、赤城さんに諭されたのとで、自分達が悪かったと結論を出していたようです。
結局不知火と彼女たちとの謝罪合戦になってしまったのを赤城さんと黒潮に止めてもらい、今後もこれまでと変わらないようにするということで話は纏まったのですが、それから黒潮が言い出したのがこの笑顔の訓練でした。
「不知火はなぁ、笑顔の練習をしとくほうがええで。今回みたいな誤解をまたされるのも嫌やろ?」
と言われては否と言えるわけもなく、あれから時間を見つけてわ黒潮に笑顔の訓練に付き合ってもらっています。しかし……こないだのこともあるので、こうして黒潮と二人きりでいるのは恥ずかしいわね。
「なんや不知火。ちょっと顔赤いけど、まさか恥ずかしいんか?」
「それは……まぁ、少し……」
「不知火、恥ずかしがってたらアカンで。笑顔は心から、楽しそうにするのが一番なんや。ほら、こんな風にするんや」
そう言って、黒潮は不知火の顔を両手で挟んだと思うと、とても素敵な笑顔を浮かべてきました。とても眩しくて、顔がどんどん赤くなってしまっているのがわかります。こんな……今まで黒潮でこんな事になった事なんて……。
「……あんたら、姉妹で何やってるのよ?」
不意に聞こえてきた声に不知火は慌てて黒潮から離れると声のした方向を向き、そこに陽炎がいるのに気づきました。
「なんや陽炎、普段うちがノックせんかったら怒るくせに、自分はノックせえへんのか?」
「したわよ。したのに返事はないけど話し声はしたから開けたの。で、何やってるのよあんた達は?」
陽炎が聞いてきますが、不知火はそちらを向けません。恥かしすぎます。それは黒潮の笑顔に見惚れていた事と、それを陽炎に見られてしまった事です。恥ずかし過ぎて陽炎のほうを向けません。
「不知火の笑顔の練習してたところやで。それで、陽炎は何か用があるんかいな?」
「そうそう、黒潮に用事があるのよ。不知火、黒潮借りていってもいい?」。
「へ? 用事って……あれかいな? でもうち、不知火に付き合っとるところやで」
「だから借りて行っていいかって聞いてるでしょ?」
「……そうですね。笑顔の練習は後でしますので……大丈夫です……今はその……」
こんな真っ赤な顔の状態ではとても陽炎の顔も黒潮の顔も見られません。ここは申し訳ないですが時間を置いてもらわないと、恥ずかしくて逃げだしそうです。
「ほら、不知火も良いって言ってるし、行くわよ黒潮」
「待ってえな。そんな引っ張らんでもちゃんと行くって」
二人の声が消えてからしばらくして、ようやく顔の熱が収まった不知火は大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせます。
「ふぅ……ようやく落ち着けました……しかし、陽炎の黒潮への用事とはなんだったんでしょうか?」
黒潮があれって言っていた辺り、黒潮にも何か心当たりがあるようですが……もしかして、二人で何かをしているのでしょうか?
そう考えたとき、ふと、胸が痛くなった気がしました。しかし、その痛みはすぐに消えたので、不知火は深く考えることはせず、黒潮に言われたように笑顔の練習を続けました。