デジモンアドベンチャー01   作:もそもそ23

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私はまた、知らんぷりなのかな…

「なるほど………」

 

 

隠れ家にしては比較的広い空間の中、

沙綾のこれまでの経緯を全て聞いたクロックモンは、時計型の乗り物の上で腕を組み、頷いた。

 

 

「貴方の話は理解しました。 貴方の言う時間の理屈にも間違いはありません。」

 

「まぁ、未来のあなたの言葉だからね。」

 

 

自信ありげに彼女は頷くが、クロックモンの表情は険しい。

 

 

「未来の私は、他に何か言っていましたか?」

 

 

自分が覚えている限りは全て話したはずと、彼女は首を横に振る。クロックモンは下を向き、少し考えこんだ後、その顔を上げた

 

 

 

 

「貴方が未来人であることは、ほぼ間違いないでしょう。 ですが、時間の移動は大変危険な行為です。万が一にでも貴方が嘘をついている可能性があれば、使う訳にはいきません。何かそれを証明出来るものは持っていますか?」

 

 

クロックモンの言うことは最もである。

悪意のある者が時間を移動する危険性は、未来の彼も語っていた。

 

沙綾はバッグから例の小説を取りだし、クロックモンに手渡す。

 

「これは?」

 

「選ばれし子供達の一人が書いた小説だよ。

この世界で実際に起こったことが書かれてるの。

これからこの本に書かれてることが次々起こるはずだから、それで証明できると思うんだけど。」

 

 

未来でクロックモンがしたように表紙を眺め、次にページをパラパラとめくる。 しかし、この時点ではまだ証明としては弱いと感じたのか「しばらく貸してもらえませんか。」と口にし、元々そのつもりであった沙綾はそれを了承した。

 

 

 

 

 

「この証明は一応の確認です。 私自身は貴方の言うことを嘘だとは思っていません。そして、私のせいでこのようなことになってしまった事を…申し訳なく思います。」

 

クロックモンは未来で彼女にしたように頭を下げる。

だが、

 

「あなたはまだ何もしてないでしょ。 それに、あなたのせいなんかじゃないよ。」

 

 

"悪いのは全部アイツなんだから"と、その目に確かな怒りを秘め、沙綾はクロックモンを庇護するのだが、彼は"それでも、すみません"としばらく頭を下げたままだった。。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日はお疲れでしょう。ここで止まっていってください」

 

落ち着きを取り戻し、しばらくした後、クロックモンが沙綾達へと提案する。

デビモンとの戦闘、及び逃走に加え、昨日の疲労が抜けていない沙綾とアグモンはその提案をありがたく受けることにした。

 

二人が眠るには十分な土の床に横になり、沙綾とアグモンは明日に疲れを残さないため、早めに休む事を決めた。

 

「アグモン、明日、頑張ろうね。」

 

既に寝息をたて始めたパートナーに、彼女は静かに語りかける。

 

 

 

 

明日、この島で子供達とデビモンが激突するのだ。

 

沙綾はそこで、この時代でするべき最初の仕事が待っている。

即ち、デビモンの戦闘データのロードだ。

 

子供達がデビモンを倒し、彼が消滅するとき、デジヴァイスを使い、本来消えていくデータをアグモンへと流す。

 

エンジェモンのパートナーであるタケルや、他の子供達のデジヴァイスにその機能がない以上、沙綾達はその場に居るだけで、それを得る事が出来る。下手に過去に干渉する必要はない。

 

 

だが、

 

 

「みんながピンチなのに、私はまた知らんぷりなのかな…」

 

彼らといた時間は3日程のものだが、それでも、"いっしょに行こう"、と暖かく迎えてくれた者達を、自分はまた見捨てるのか。

 

これから先も、それを繰り返していくのか。

 

最後には勝利するからといって、それは正解なのか。

 

 

 

過去に来る以前は、考えもしなかった葛藤が、今は沙綾の胸を締め付ける。

 

答えは出ないまま、彼女は眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

灯りを消した部屋、クロックモン暗闇の中考えていた。

 

(あの様子では、未来の私は彼女達にあの事を説明していない。 理由は恐らく、彼女達が過去に行くことを拒む可能性が高くなるから。)

 

 

 

 

 

あの事、即ち、未来のカオスドラモンを倒した後のこと。

 

 

 

 

 

(彼女達が未来でカオスドラモンを倒すと言うことは、まず前提として彼女達が過去に来なければならない。)

 

 

 

 

それは当たり前の事、未来で勝てなかったからこそ、彼女達は過去で力を付ける選択をしたのだ。

 

 

 

 

 

 

(だが、未来でカオスドラモンが過去に行く前に、それを倒した場合、そもそも彼女達は"過去に来ることがない")

 

 

 

 

沙綾達は"カオスドラモンが居たから過去に来た。"

言い換えるならば"カオスドラモンが居なければ過去には来ない"

 

 

 

 

 

 

(これは深刻なタイムパラドックスを生み出してしまう。 カオスドラモンを倒した後、その矛盾を修正するため、私を含め。過去で彼女達と関わった全ての者の記憶から、彼女達は消える。)

 

 

 

 

 

 

(そして、元の時代の少し前に戻らなければカオスドラモンに会えない以上、その世界には必ず、もう一人の自分がいる。

"過去に行かない"、言い換えれば、"時間の移動が出来ない"、その状態で同じ時間に、同じ人間が居ることはありえない。それはつまり…)

 

 

 

 

 

これは、たった一つの方法を除いて、最早修復出来ない矛盾。その方法とは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(カオスドラモンを倒せば、彼女達も消滅する。)

 

 

 

 

 

 

 

 

親友を救いたいと願った少女は、それを行えば自身が消える運命にある。その残酷な結末を彼女はまだ知らない。

 

 

 

 

(しかし、彼女の言う通りなら、カオスドラモンを倒さなければ、世界は最悪の結末を迎える。)

 

 

 

 

 

明かりを消した暗い地下の中、クロックモンはいずれ訪れる沙綾達の運命を思い、未来の自分を呪う。

 

 

 

(私は、なんと言う事を……)

 

 

 

 

未来の自分と同じ言葉を呟く、朝日が昇まで、彼は眠る事さえ出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、選ばれし子供達は、それぞれの試練を乗り越え、このムゲンマウンテンへと集結する。

 

空、丈、沙綾を除く子供達は、歯車による暴走から助けたレオモンと共に、再びこの島に上陸した。

 

 

一方、空、丈の二名も、パートナーと共に海を渡り、ムゲンマウンテンを目指して進む。

 

 

そして沙綾は………

 

 

 

 

 




今回で未来の伏線を一つ回収しました。

これについては、皆さんも想像がついたかもしれません。

「親殺しのパラドックス」の亜種ですね。

ここからの回は少し考えながら書かなければならなそうです。

矛盾が起こってしまう可能性がありますので、

ご意見、ご感想、評価等々、あればよろしくお願いいたします。
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