次の日の朝
5日振りとなる陸地での休息を取った子供達は、目覚めてすぐ、昨日の深夜に起こった事を、沙綾とトコモンから聞くことになる。
パグモンがトコモンを誘拐した事、
"たまたま"起きていた沙綾が後をつけ、隙を見てトコモンを奪還した事。
パグモンの仲間が"エテモン"というデジモンに、子供達の居場所を伝えに行った事。
すべてを聞いた一行は、タケルを始め、パグモン達を問い詰めようと村の中を手分けして探すが、もう逃げた後、やはり一匹たりとも見つけることは出来なかった。
「くそっ!何処にもいない。」
「逃げたんなら、やっぱり村の外か?」
「そうだと思います。今ならまだ近くに居るかもしれません。」
「"エテモン"っていうデジモンの事も気になるし、もう一度手分けして探してみましょう。」
一度元のテントの前に集合した彼らは、その捜索範囲を村の外へと広げることにした。
勿論、沙綾達も一緒にパグモン達を探してはいる。
だが、彼女にとって重要なのは、ここでパグモンを見つけることではないのだ。
(早くコロモン達を助けてあげたいけど…)
そう、沙綾が今優先したいのは、捕らえられたコロモン達の救出である。だが、それを彼女が行うには一つ問題があるのだ。
(でも、何時エテモンが来るのかは、小説じゃはっきりとは書かれてない。トコモンとコロモンを助けた直後って事くらいしか…)
コロモンを救出するタイミングは、エテモンの登場に合わせるほど、被害を抑えられる確率が高い。早過ぎると、村の壊滅に皆が巻き込まれる恐れがある。全員が逃げ切れるという結果がある以上死ぬ事はないだろうが、その過程で負傷する危険性は十分あるのだ。
しかし沙綾には、肝心の"エテモンの登場"がいつになるのかが分からない。
(やっぱり、ここはみんなに任せるのが一番確実なのかな。)
そのため、彼女は今の歴史を信じて行動することにした。
「アグモン。付いてきて、滝の近くで様子をみるよ。多分だけど、太一君のアグモンがもうすぐそこに行くと思うから。」
「オッケー。」
村の外れで勢いよく流れ落ちる滝、コロモンが幽閉されている場所の近くに二人は移動し、茂みの中で待機する。
「ここで待つの?滝の裏からコロモンの匂いがするんだけど…」
「うん。太一君のアグモンも、それに気づいてここまで来るはずだから。」
(その後で一緒にコロモンを助ければ、タイミングは丁度揃うはず。)
一時間程待っただろうか。
沙綾の予想通り、やがて太一のアグモンが匂いを辿る様にこの場所へとやって来たのだ。
(来た!、探しているのがトコモンからパグモンに変わっちゃってるのが不安だったけど……でもやっぱり不思議…私が歴史に関わっても、行きつくところは同じなんて…まぁやり過ぎちゃうとダメなんだけど…)
おもちゃの街でのトゲモンの進化、
ムゲンマウンテンでのエンジェモンの進化及び消滅、
風呂場でのミミと太一、光子郎の遭遇、
この後起こるこのコロモンの救出、そしてエテモンからの逃走、
一連の事柄を思い、沙綾は改めて歴史の流れの強さを感じるのだった。
(邪魔しに来るガジモン達は昨日の夜倒しちゃったから、コロモンを助ける時に妨害はないはず…)
「マァマ、アグモンが滝の裏に入って行ったよ。これからどうするの?」
「私達も行こっか。こっちにもアグモンがいるんだから、コロモンの匂いがしたって言えば不自然じゃないし。」
沙綾と彼女のアグモンは、茂みの中から出て、太一のアグモンが入って行った滝の裏にある洞窟へと足を進める。
そこには、やはり歴史通りに捉えられているコロモン達と、それを助けようとしているアグモンの姿があった。
狙った訳ではないが、沙綾達の現れたタイミングは、本来の歴史でガジモンが登場したそれと、同じである。
「あっ!沙綾、それにアグモン、懐かしい匂いがしてここまで来たんだけど、見てよ、コロモン達が捕まってるんだ!」
「うん、私のアグモンも匂いを感じたみたいで。みんなにもこの事を知らせないと。アグモン、進化して!」
「分かったよマァマ! アグモン進化ー!ティラノモン!」
「よし、じゃぁまず、滝の方向いて。」
進化が完了してすぐ、沙綾はティラノモンにそう指示する。てっきりコロモンを閉じ込めてる檻を破壊するための進化だと思っていたティラノモンは疑問に感じるも、要望通りに後方の滝へと振り返った。
「「ねぇマァマ(沙綾)、何するの?」」
ティラノモンとアグモンは口を揃えて質問をする。
「だからみんなに知らせるの。ティラノモン、滝に向かってファイヤーブレス!」
これは本来、ガジモンに追い込まれたアグモンが、太一に自分の場所を伝える為に取った行動。
村が破壊される時には、小説の様に全員この場所にいる方が、迅速な逃走が出来る。
今回は確実性を上げるため、あえて成熟期でそれをやろうというのだ。
強烈な火炎放射がティラノモンの口から放たれ、滝の水が沸騰、凄まじい水蒸気が森へと上がった。晴れた青空の中、真っ白な雲が大量に立ち上る光景は、この森の何処から見ても非常に目立つ。
「これだけやれば、みんな何かあると思ってここに来るでしょ。」
「へぇー、さすが沙綾。頭良いね!」
(元々貴方の作戦だけどね…)
心の中でそう思いながらも、沙綾はティラノモンに次の指示をだした。
「ティラノモン、コロモンを閉じ込めてる檻、壊せる?」
「うん! これくらい簡単だよ。」
そういった後、彼は鍵の掛かった鉄檻を強引に破壊していくのだった。
「誰か居るのか!」
沙綾達がコロモンを全員檻から出した所で、後方から太一の声が聞こえる。彼女達が振り替えると、彼を先頭に全員が揃って洞窟の入り口に立っているのが分かった。
(よし、タイミングはバッチリ。)
「あっ、アグモン、沙綾にティラノモンも、じゃぁ、さっきの煙みたいなのはお前達が起こしたのか?」
「それより、なんでこんな所にコロモンが?」
太一とヤマトがそれぞれの疑問を口にし、太一のアグモンが口を開こうとしたその時、
遂に"その独特の声"が、遠くの空から響いて来る。
「もしもーし。選ばれし子供達ー、聞こえるー。」
(来た!)
沙綾を含む全員が、洞窟の入り口から外を見ると、サングラスをかけ、エレキギターをもった何ともファンキーな猿が、映像として空に浮かび上がって来たのだ。
その独特の口調も含め、インパクトの強さでは他の追従を許さない。
コロモン達は驚愕の表情を浮かべて、彼の名を口にした。
「エテモンだ…」
「あいつが…エテモン…」
「よくもこのあちきをコケにしてくれたわねー、腹が立っちゃったからー、この村ごと破壊してあげるわー、ダークネットワーク!」
立体映像として空に大きく写し出されたエテモンは、その見た目に反した強力な闇の力で、無差別に村を破壊して行く。空を始め、選ばれし子供達はそれを阻止するため、パートナーを進化させて立ち向かおうとするが、彼の技の一つ『ラブセレナーデ』により、強制的に成長期へと退化させられてしまう。勿論それは沙綾のティラノモンも例外ではない。
「うーん、何でだろ、力が出ない…」
(やっぱり、強化されても成熟期じゃエテモンの技は防げないみたいだね。)
「みんな!ここに居ると危ないよ!コロモン、この洞窟は何処に繋がってるの?」
突然の出来事に戸惑っているのだろう。
呆けているコロモン達に向かって、あえて沙綾は答えの解っている質問をする。それは少しでも早くこの場所から全員を遠ざける事を優先したからである。
コロモン達は何かを思い出したかの様に洞窟の奥へと向かい、現状ではまともに戦う事が出来ない子供達もそれに続く。
ほんの少しの差で、洞窟の入り口が崩落を始めるが、もうそこには誰もいない。
洞窟の最奥で、太一の紋章が手に入り、向こう側の景色が見えたところで、沙綾はやっと、今回の歴史への介入の成功にほっとするのだった。
(良かった…上手くいった…)
今回彼女がコロモンの村で変えた過程は
トコモンの早期救出、
ガジモンの撃退によるアグモンの危機の回避、
エテモンからの素早い離脱
決して大きな物ではないが、それでも、沙綾自身が始めて子供達の旅の助けになれたと感じることは出来た。
最も、それはあくまで彼女の視点で、歴史を知らない子供達から見れば、既に何度となく助けられてはいるのだが。
(この調子で、次もがんばろう。)
誰にも気付かれない小さなガッツポーズをして、沙綾とアグモンも、皆に続いて洞窟の向こう側へと歩いて行くのだった。
このコロモンの村は、沙綾にとって"自ら進んで歴史を変えた"初めての出来事になります。
そのため、原因、過程、結果などの説明を要所要所でつかい、長くなってしまいました。
次回、ティラノモンが進化するかも