今までそれほど詳しい説明をしていなかったのですが、沙綾のデジヴァイスの形は、子供達と同じものをイメージして書いています。時計はタイムスリップをした際に既に正確な時間は分からなくなり、メールは送る相手がいない、と、生きている機能はデータのロードだけです。
少し違いますが、テイマーズのようなものでしょうか。
「まったく…まさかホントにもう一回登らされるとは思わなかったよ…」
「まあまあ、"今日中"に戻ってこれただけ良かったじゃない」
「太一さん…まだ戻ってこないもんね…」
今日二度目となる登山を終えて、すっかり冷めてしまった夕食を食べ、軽い入浴を済ませた後、沙綾は皆に続くように横になる。
彼女のパートナーに至っては、今日一日分の疲れの影響か、少ない夕食を貪るように食べた後床に倒れ込み、そのまま寝息をたて始めてしまった。
「私達ももう寝ましょ。太一はきっと大丈夫よ」
「そうだね…まだ明日もあるんだから…」
気付けば丈やタケル、バートナー達はもう目を閉じている。隣で横になる空とミミも眠りに落ちていく中、沙綾は目を閉じながらも、今日の修行について振り替えった。
(負けた原因……確かに不利な勝負だったけど……それは関係ない…)
不利な戦いなど彼女にとっては何時もの事なのだ。
コロモンと共に初めて街を出た時からずっとそうである。
カオスドラモンとの戦闘を経て、過去に来てからも、始めから沙綾が有利だった戦いなど片手で数えられる程度しかない。
原因は別にあると彼女は考えた。
(……一番の原因は…私の判断ミス……真っ正面から戦い過ぎたんだ……メタルティラノモンがいるからって……慣れてもいないのに…)
沙綾はその経験上、正面から戦うよりも、相手を撹乱する事や、相手の意表つく戦い方の方が優れている。だが、『メタルティラノモン』という強力な切り札を得たために、無意識の内に本来の彼女の戦い方から離れてしまっていた事に気づいた。飛び抜けて強い手札が、逆に沙綾の戦術の幅を狭めていたのだ。
(これじゃダメだ)
真っ向勝負では、経験の浅い沙綾はピッコロモンには敵わない。彼女の導きだした結論は、
(私達なりの戦い方をしなきゃ。負けっぱなしは…悔しいから…それに、こんなんじゃ……アイツには勝てない)
あの時の光景が頭に蘇る。
あの深紅の機械竜に報いを受けさせるには、沙綾はまだまだ遠い。
(今日はもう寝よう…)
原点の想いを胸に、明日に備えて彼女も深い眠りに落ちていく。
筈だったのだが、
「眠れない……」
カオスドラモンを思い出し、意識が覚醒してしまったのか、疲れているにも関わらず沙綾はなかなか眠れない。
結局、小説通りヤマトと光子郎がこっそりとタグを探しに出掛けたその後も、彼女の頭は冴えたままなのであった。
次の日の朝、
ピッコロモンの朝は早い。
彼に合わせるように、子供達はたたき起こされる。それは勿論、厳しいスペシャルメニューを行った沙綾達も例外ではなかった。
「ほら朝だッピー!みんな起きるッピー!シャキッとするッピ!」
モップでバケツを激しく鳴らしながら大声を出すピッコロモンに、一行は眠い目を擦りながら部屋をでる。
しかし、何時もは比較的早起きな沙綾が、今回に至っては一番遅く、まだ焦点の定まらない目をして部屋から出てくる。
「う…ん…あっ…おはよう…みんな…」
「おはよう沙綾ちゃん…ずいぶん眠たそうね」
「……うん……」
「マァマ夜更かししたんでしょー。ダメだよ早く寝ないと。」
「……うん……」
「沙綾君、眠れなかったのかい?」
「……うん……」
空や丈、パートナーの会話も耳に入っているのか疑問な沙綾の表情に、ピッコロモンはモップの持ち手で彼女の頭を強く叩き、バコッという鈍い音と共に沙綾は頭を抑えてしゃがみこんだ。
「たるんでるッピ!」
「いったーい!何するの!」
その衝撃に、有無を言わさず彼女の頭は覚醒する。目に涙を浮かべながら、沙綾はピッコロモンを睨み着けるのだが、彼は毅然とした態度で口を開いた。
「だからたるんでるッピ!罰として、もう一回山を降りて登って来るッピ!ズルしても分かるッピ。真面目にやるッピ。あと連帯責任だッピ、アグモンも一緒にいくッピ!」
「「えっ!?またここを登るの!」」
沙綾とアグモンは驚愕の表情を浮かべて、口を開いたままその場で固まる。
(いや、ちょっと待って…)
しかしその後すぐ、何かを思い付いたように、目をパッチリと開いた沙綾に手を引かれ、彼も渋々ながら入り口の方に向かって歩いて行くのだった。再び皆の同情の目をその背中に浴びながら。
「うう、マァマのせいだからね…」
高い山の階段を沙綾に続くように下りながら、アグモンは下を向いて愚痴を溢す。
「ゴメンね。でも大丈夫だよ。もうこの階段を登る事はないと思うから」
沙綾は顔だけをアグモンの方へ向けてそう話す。
「それに、今はこっちの方が都合がいいの」
「どういう事?」
意図の分からないアグモンは首を傾げながら沙綾へ問いかけ、彼女は一度足を止め、振り返ってその理由をかいつまんで説明した。
「えーと、もうすぐこの下の森で戦いが始まるの。ちょっと心配されちゃうかもしれないけど、相手のデータをロードするにはみんなから少し離れておいた方がいいから…」
先程沙綾が思い付いた事とはこの事である。
歴史通りに進めば、この後すぐにここの結界が破られ、エテモン配下の"ティラノモン"が攻めてくる。
紋章を探しに結界の外へと出掛けたヤマトと光子郎が、エテモンのネットワークに引っ掛かってしまうからだ。
そうなれば、それを感知したピッコロモンを始め、一行は全員山から下りてくる筈である。
「まあそこでみんなから離れるより、最初から別れていた方が自然だからね。遠くからのエテモンの介入でみんなは進化出来なくなっちゃうけど、直ぐに太一君達が戻ってくる筈だからピンチになることもないし。」
子供達に心配をかけるのは彼女の本意ではないが、こればかりは仕方がないだろう。
話しを聞いたアグモンは、何故か目をキラキラとさせて沙綾見つめる。
「流石マァマ!そこまで分かっててピッコロモンに怒られたんだね!」
「えっ、いや…あの…それは…」
「やっぱりマァマは凄いね!ボクじゃそんな事思い付かないよ。よーし、早く行こ」
アグモンは嬉しそうに沙綾の前へと躍り出た後、先程とはちがい、階段を元気よく降りていく。
「そんなつもりはなかったんだけど……」
呟き、"最初から全て計算していた"と間違った解釈をしてしまったパートナーの後ろを、沙綾はバツが悪そうについて下りていくのであった。
そして、
「「!」」
沙綾達二人が山のふもと近くまで下りて来た時、ガラスの割れるような音と共に、結界を破って大きな赤い恐竜が、口から灼熱の炎を吐き、その姿を表す。
「来た!森の中で太一君が来るのを待つよ。ついてきてアグモン!」
「うん!……って、あれ、ティラノモン!」
驚くアグモンの手を引き、沙綾は階段を急いで下りたのち、周囲の森の中へと姿を隠す。
彼女達から遅れること数十分後、事態に気付いたピッコロモンを含む一行が山のふもとに到着し、ティラノモンに追われるように逃げてきたヤマト、光子郎と合流を果たした。
だが、そこで暴れているデジモンが歴史と同じティラノモンでも、子供達の反応は歴史とは少し違う。
「ヤマト!光子郎君!大丈夫!…これはどういう事!?」
「なんでティラノモンが暴れてるんだよ!?沙綾君はどうしたんだ!?」
事情を知らない子供達にティラノモンの違いなど分からない。うろたえる一行であるが、幸いにも、原因であるヤマト、光子郎がいたことにより、彼らの疑問は解決された。
「あれは沙綾のティラノモンじゃない。俺たちが結界の外で会った別のティラノモンだ」
「その様子なら、沙綾さんは何処かに行ってしまったんですか?」
「朝寝坊しちゃって…ピッコロモンに『たるんでるからもう一回山を登って来い』って……ここに来るまですれ違わなかったし、もう!沙綾さんは何処に行っちゃったのよ!」
「とにかく、今はアイツを止めるんだ。行くぞガブモン!」
「私達も行きましょう、ピヨモン!」
"沙綾の行方"と言う新たな疑問が生まれたものの、一通りの情報を共有した子供達は、ヤマトの指示の元、ひとまずは目先の驚異に対抗するために、それぞれのデジヴァイスを掲げてそれに立ち向かおうとするのだった。
一方その頃、子供達が合流した場所とは別地点の森の中に、沙綾とアグモンはいた。
敵のティラノモンは二人の視界の中に入っているが、距離はまだ十分ある。もし見つかっても、森という地の利
を生かせば、沙綾とアグモンにとって逃げる事は容易だろう。
「マァマ、ここからは近づかないの?」
「うん。とりあえずここでいいよ。見つかっちゃうと困るから」
「?…どうして困るの?」
「見つかった時に戦えれば良いけど…さっきも言ったみたいにエテモンがねえ…あっ、ほら…丁度出てきたよ」
沙綾は森の木々の隙間から見える空を指差す。アグモンがその方向に目を移すと、そこには始めて見た時と同じように、晴れ渡った空に浮かび上がる、巨大なエテモンのホログラムが映しだされていたのである。
「そこまでよー選ばれし子供達!聞きなさーい、ラブ、セレナーデ!」
「うっ…」
これもまた始めて見た時と同じく、エテモンのギターから発せられる旋律が、デジモン達の戦う気力を削っていく。メタルティラノモンの状態で受けたのならば、強引に対抗出来るだろうが、所詮は成長期のアグモンでは彼の必殺には抗う事は出来ない。
「マ…マァマ、大変だよ!このままじゃみんなもやられちゃうよ!」
「心配しないで。直ぐにグレイモンが来てくれる筈だから……」
うろたえるアグモンとは対照的に、沙綾は冷静に話す。
しばらくした後、彼女の予想した通りに、修行を終え再び進化が可能になったグレイモンが、持ち前の闘争心を剥き出しに雄々しく登場し、エテモンのネットワークを引きちぎりながら、単身ティラノモンへと勝負を挑む。回線を切られた事でエテモンのホログラムは姿を維持出来ず消滅し、グレイモン、ティラノモンの一対一の構図となる。
小説と同じく、戦いは終始グレイモンが優勢を保ったまま、彼は見事に敵のティラノモンの撃破に成功した。
致命傷を受け、ティラノモンがデータの粒子に変わっていく時、沙綾も目的を果たすためにデジヴァイスの操作を開始する。だが、仕方がないとは言え、やはり自分のパートナーと同じ姿のデジモンが消えていく様を見るのは辛いのか、その時の彼女は無言で下を向いたままなのであった。
「はぁ…行こっか、アグモン…」
「うん。自分とおんなじデジモンをロードするのって不思議な気分…」
踵を返し、二人は子供達を探すため、ひとまず自分達が下りてきた山のふもとを目指して歩き出す。当てもなく森を歩き回るよりも、目印になる場所を起点に探す方が早く見つけれると考えたからである。
森から見える太陽が真上に昇る頃、沙綾とアグモンは無事に皆と合流を果たす。彼女達を見つけ、安心の笑顔を浮かべて走りよってくる一行に、沙綾は小さな罪悪感を胸にしながらも、大きく手を振り返すのであった。
1話あたりの文字数が少ないためか、話がなかなか進みません。もう少し文字をふやそうかな。
後、今後の展開について活動報告にも書いているのですが、皆様のご意見を参考にしようかなと考えております。
よろしければ覗いてみて下さい。