自分の作品が日間ランキングに上がっているのを見て、歓喜しました。これも一重に皆様のお陰です。
ティラノモンの襲撃によってピッコロモンの結界が破壊されたその夕方、太一達の修行も無事に終了した選ばれし子供達は、この地を離れる事を決めた。
「そろそろ行こうぜ。もたもたしてるとエテモンが来ちまうかも知れないからな」
「そうね。ありがとうピッコロモン」
「「ありがとう」」
空に続くように皆はピッコロモンへとお礼の言葉を口にし、一行は結界を抜け、再び砂漠へと足を踏み出す。
しかしそんな中、ただ一人だけ結界から出ようとしない者がいた。
沙綾である 。
彼女は結界の手前で立ち止まり、一番後ろから皆に声をかけた。
「ごめんねみんな、ちょっと先に行っててくれるかな…」
「どうしたんだよ…あっ、忘れ物か?」
「うん、まあそんな感じかな…直ぐに追い付くから、行こうアグモン」
「…うん、そういうと思ってたよ」
太一の言葉に相槌を打った後、彼女はクルリと反対側に向き直り、自分のパートナーと共にもう一度森の中へと入って行く。
「先に行ってるからなー、早く来いよー」
背中を向けた子供達が砂漠へと繰り出していく中、沙綾はこれからの作戦を頭の中でまとめながら反対側へと進む。
沙綾達の目的はただ一つ。
「ピッコロモーン!何処にいるのー!」
夕暮れの深い森の中を、沙綾は声を上げながら歩いていく。そして、
「やっぱり戻って来たかッピ」
「!…ビックリした……分かってたの?私が戻って来るって」
森の中心地点、昨日沙綾達がスペシャルメニューをこなしたその場所に、まるで彼女が戻って来ることを知っていたかのように、ピッコロモンは高い木の枝に腰を下ろして彼女達を待っていた。
「私を誰だと思ってるッピ!」
そのまま枝から飛び降り、彼は丁度沙綾の視線の高さに会わせるように宙を飛ぶ。
「それより…修行、やるのかッピ。」
「勿論そのつもりだよ…負けっぱなしはイヤだしね…太一君だって乗り越えたんだから、私達もこのままじゃ終われないよ」
これは沙綾にとって自身の本来の戦い方を再確認するための修行である。カオスドラモンと渡り合うためには、一つの強力な切り札だけでは足りない。持てる手札は全て使えるようにしていなければならないのだ。
「分かったッピ…でも、今からだと時間は昨日よりも短いかもしれないッピ。だいたい15分くらいで日が沈むッピ。早く準備するッピ!」
「うん、行ける?アグモン」
「いつでも大丈夫だよ」
昨日と同じように魔法で風船を出現させながら、ピッコロモンは早くするようにと二人を促し、沙綾もアグモンをティラノモンへと進化させてそれに答える。
「ティラノモン、ちょっと聞いてくれる?」
「なあに?」
少し距離をあけてお互いが向き合った後、沙綾はティラノモンへとさりげなく、ほんの一言二言の耳打ちをした。
今回の修行の要となる、"彼女達本来の戦い方"をするために。
ビッコロモンが修行開始の声を上げる。
「一晩で何が変わったかを見せてみるッピ!よーい、スタートだッピ!」
「ティラノモン!」
「任せてマァマ!」
声を張り上げ、ティラノモンは一気にビッコロモンへと距離を詰め、両足を使って飛び上がる。そのまま勢いをつけ、必殺の一つである飛び蹴りを放った。
「ダイノキック!」
「その手は喰わないッピ!」
が、彼はヒラリとそれをかわし、空中からのティラノモンの蹴りは、森の湿った地面に突き刺さり泥混じりの土が激しく飛び散る。その一瞬身動きの取れない着地後を狙って、ピッコロモンはティラノモンの背中に向けて槍の先端から炎を放った。
「ティラノモン、"アレ"!」
沙綾の掛け声と共に、ティラノモンは迫りくる火球を尻尾を使って強引にはたき落とす。足を抜いて振り替えった後、今度は腕を振り上げながら再度ピッコロモンへと突撃を開始した。
「スラッシュネイル!」
接近戦に持ち込み、鋭い爪で風船を割ろうとティラノモンは両腕を振り回すが、ふわりふわりと避けられるばかりで、それが当たる気配はない。
「ふん、未熟者め!昨日から何も変わってないッピ!」
その行動に、ピッコロモンの表情は明らかに落胆しているのが分かる。むしろ、これは怒りに違いのかもしれない。
襲いかかる爪を全てかわし、反撃としてティラノモンの腹部に向けて、ピッコロモンは先程よりも遥かに強い火球を至近距離から放つ。
「うおあっ!」
"ピッドボム"には及ばずとも、完全体として十分な威力を持ったその技に、爆発音を上げてティラノモンの身体は軽々と撥ね飛ばされ、地面を抉りながら森の木々へと衝突し、
「ぐっ!」
うつ伏せに地面へと倒れ付したのち、彼は沈黙した。
「君達は昨日の失敗から何も学ばなかったのかッピ!これならまだ昨日の方がマシだッピ!」
「………」
ピッコロモンの怒声に沙綾は何も答えない。
辺りはゆっくりと薄暗くなっていく。残された時間はもうあまりないのだろう。
だが、ピッコロモンのその様子はまさに、
沙綾の作戦の成功を意味していた。
「…今!」
その沙綾の掛け声と共に地面に伏せていたティラノモンが勢いよく身体を起こし、四つん這いの状態からピッコロモンに向かって灼熱の火炎を放つ。それは昨日までの物に比べて遥かに大きく、ピッコロモンの視界を奪うには十分な炎だ。
「まだ動けたッピ!?」
完全体の一撃が直撃して尚、これほどの威力の技で反撃出来る成熟期はあまりいない。怒りと油断が招いた隙を完璧に付かれたピッコロモンは攻撃を避けず、咄嗟に前方へ出現させた結界によって身を守る。
「ぐっ!危なかったッピ…」
しかし、彼女の狙いはここではない。はなから『今の攻撃で勝つ気などない』のだ。
「行って!ティラノモン!」
沙綾の合図でティラノモンは身体を起こし、炎を吐きながらもピッコロモンに走りよる。その速度は先程よりも一段と速い。
沙綾がティラノモンに指示した事は二つ
一つ目は、『合図するまで手を抜く事』
相手の油断を誘う手段の定番であるが、これを普通に行っても、ピッコロモンには悟られていただろう。
しかし、昼間の戦いでティラノモンの戦闘力はまた一つ上がっているため、いわば『昨日の全力が、今日の9割』といったところだ。そこから少し手を抜いて8割の力で戦っても、その程度ならば恐らくばれる事はない。
更に、ピッコロモンは今までティラノモンの『防御力』を知る機会がなかった。成熟期である彼が完全体の一撃を受けた後、普通はこれほどの反撃が来るとは考えない。
二つ目は『機敏に大きく動く事』
メタルティラノモンでは相手の警戒が強く、奇襲にはむかない。だが、進化しなければそれはそれで「何かある」と警戒される。
そこで、メタルティラノモンにはないスピードと多彩な技を持って相手の意識をそちらに流し、進化しない不自然さをカモフラージュするのだ。
そして、彼が"勝ち"を確信して動きを緩めたその時、持てるポテンシャルを全て解放して一気に攻め落とす。
「うおぉ!」
視界を奪われ、常に襲いかかる強烈な炎にピッコロモンは防御の姿勢を崩せない。火を吐きながらも、ティラノモンは怒濤の勢いでピッコロモンへと迫り、
「スラッシュネイル!」
一閃
クワガーモンに行ったように、すれ違い様に居合い切りのような斬撃を浴びせる。"前方"にしか結界を張っていないピッコロモンは、その"横"からの攻撃に対応が間に合わず、
「くぅ!」
パンッという乾いた音と共に、彼の背中の風船は破裂し、ここに決着が着いた。
時間にして役10分、沙綾達の勝利である。
「いやあ、見事だったッピ!」
決着が着き、あわや大火事という程の炎を自身の魔法によって消火した後、ピッコロモンは感心したかのように二人を誉める。
「まさかあれほどの反撃がくるなんて正直思わなかったッピ!」
「アグモンが上手く動いてくれたおかげだよ」
「マァマの作戦が凄かったからだよ」
「ふふ…いや、二人共だッピ」
お互いがお互いを誇る二人のその様子に、ピッコロモンは小さく笑う。
「ともかく!君達のスペシャルメニューも、これで完璧に終了だッピ。そろそろ行くッピ、みんなが待ってるッピ」
暗がりの中ピッコロモンは槍を振るい、沙綾とアグモンの身体をふわりと宙に浮かせ、自身と共に空高く飛び上がった。
「わわっ!どうしたの!?」
「落ちたら死んじゃうよ!」
「"勝負に勝ったから"、森の外まで送ってやるッピ」
「えっ?」
ピッコロモンは普段あまり見せない暖かな笑みを浮かべ、もう一度槍を振るう。すると、二人の身体は子供達のいる結界の外に向かって進み始める。
「頑張るんだッピ!選ばれし子供達よ!」
「元気でねーピッコロモン」
「…ありがとうピッコロモン……またね……」
ピッコロモンが激励の言葉を送る。遠退く彼に無邪気に手を振るアグモンとは対照的に、沙綾は何処かせつなげな表情で別れを告げた。
彼女は知っているのだ。このデジモンがこれからどういう運命を辿るのかを。
(今度ピッコロモンに会う時…私はどんな顔して会えばいいの……)
暗闇に姿が見えなくなる彼を最後まで見つめながら、沙綾は考える。
クロックモンは"命を救うな"とは言ってはいない。
だからといって、それが歴史を大きく変える可能性を秘めていることぐらいは、彼女も理解している。
仮に、それ自体が未来を変えなくとも、結果として彼の消滅があるのならば、結局それを変えるためには歴史を大きく変更しなければならないのだ。
最悪未来に帰れなくなる事も否定できない。
(デビモンの時と同じ…でも…ピッコロモンはみんなと違って助からない……)
救いがあるとすれば、それは彼がまた生まれ変われる可能性がある事だろうか。だが、それでも、
(見捨てたくなんてない………)
過去に来て以降彼女の悩みは尽きることはなく、もうすっかり暗闇しか見えなくなったピッコロモンのいた場所を、沙綾はずっと見つめていたのだった。