このペースなら完結まではまだまだかかるでしょう。
「エテモン…お前をここから先には行かせない…」
先程までとは打って変わって、ドスの効いた低い口調でメタルティラノモンはエテモンを威嚇する。それに対し、突然の彼の進化に動揺を見せていたエテモンも、ゆっくりと落ち着きを取り戻しながら、顔付きを真剣なものへと変えた。
「……まさか進化出来るなんて思ってなかったわ…どうやら…"本当"に他の子供達とは違うようね…」
口調自体は今までと同じであるが、エテモンの雰囲気は違う。進化する前に見せていた慢心が、今の彼からは消えていた。両者は睨み合い、緊張感が高まる。
「…それでも…勝つのはこのあちきよ!」
「来るよ!構えて!」
言葉と同じにエテモンが動きを見せる。それを合図に、完全体同士の戦いの幕が切って落とされた。
一方、エテモンを沙綾に任せてナノモンを追う太一、光子郎は、やはり部屋を出てすぐの金網の前で一度立ち止まる。
「確かこの辺りだったよな!」
「待って下さい!ちゃんと調べないと」
「何いってんだ!ナノモンが逃げちまうだろ!沙綾が時間を稼いでくれてるんだ、俺達ももたもたしてられない!」
パソコンを開いて電流の流れていない部分を探す光子郎を無視して、太一は動く。だが、
「ダメです!テントモン、アグモン、太一さんを止めてください!」
「た、太一はん、落ち着きなはれ!」
「そうだよ太一、もし間違ってたら死んじゃうんだよ!」
通路に出る際、移動しやすいよう退化したパートナー二体が彼の体を押さえ付ける。
「離せよアグモン!どうせ俺達はデータなんだ、失敗したらやり直せばいいだろ!」
「まさか太一さん…ここがデータの世界だからって、自分がゲームの登場人物みたいな気でいるんじゃないですよね…」
「えっ…違うのか?」
「全然違います!僕達はここで生きてるのと同じなんです!…ここで死ねば……」
「本当に…死ぬんですよ…」
光子郎の告げる衝撃の事実に太一の表情が強ばり、体から力が抜ける。それによって、テントモンとアグモンもまた、大人しくなった彼の体から手を離した。
「そんな……」
目の前で行く手を阻む金網が、今の彼にはどうしようもなく遠く感じるのであった。
「ダークスピリッツ!」
「ぐっ!」
エテモンの必殺が防御姿勢のメタルティラノモンへと直撃し、彼は後退しそうな身体をなんとか踏み止まらせる。
「はん!随分な大口を叩いておいて結局防御だけじゃないの!」
エテモンが吠える。
それもその筈、戦闘が始まってまだものの1、2分であるが、その間メタルティラノモンはエテモンに対してろくに攻撃をしていないのだ。
「大丈夫!」
「ああ…"まだ"問題はない…」
「ごめんね…後少しだから…」
不利な室内戦闘とはいえ、別に防御に拘る必要はない。
沙綾が積極的に戦闘を行わない理由、
それは勿論、あくまで時間稼ぎと言うこともあるが、一番大きな理由は、"ナノモンが実はここの更に地下に逃げている"という点である。
メタルティラノモンの必殺がこのピラミッドの地下を崩落させかねない以上、彼の主砲、副砲は使えない。最悪空だけでなく、太一達まで巻き込む恐れがある。また、エテモンの足止めという意味では彼はこの入り口手前からあまり動けない。
故に今メタルティラノモンに出来る事は、この場を動かず、接近してきたエテモンに攻撃を行うしかないのである。
(でも、なかなかエテモンは近づいて来ない…やっぱり警戒はしてるみたいだね…)
先程からエテモンは一定の距離を保ちながら戦闘を行っている。結果、メタルティラノモンは防御に回るしかないのだ。
(もう少し、多分今頃ヤマト君達が異変に気付いてこっちに向かってる筈…)
「うおっ!」
再びエテモンの必殺がメタルティラノモンに命中する。
防御力の高い彼でも、攻撃を受け続ければ体力は消耗していく。それでもまだ、グレイモンやカブテリモンがこの場に残るよりはマシであろう。
「ほらほらどうしたの!」
エテモンは手首を返して挑発をする。どうやら彼も沙綾達が遠距離技を使おうとしない事に気づいているのだろう。進化したことで気性が荒くなっているメタルティラノモンは、歯軋りをしながらエテモンを睨み付ける。
「あのサルめ…言わせておけば…」
「落ち着いて、今は耐える事に集中して」
「ああ…分かってる」
「入り口は…そこから一メートル右です」
「あ…あぁ…」
(どうしちまったんだ俺は……空のピンチなんだぞ……沙綾が体を張ってエテモンと戦ってるんだぞ……)
金網の解析を終えた光子郎の言葉に太一は頷くが、今度は足が固まってしまう。文字どおり"命"が懸かっている事を自覚したのだ。その反応は当然といえるだろう。
そばに立っている彼のアグモンは、心配そうに太一を見つめる。
(なんで足が動かないんだよ!)
「太一…」
(ちくしょう……)
手を伸ばせば触れる距離にありながら、太一にはそれが出来ない。目をぎゅっと瞑り動かない彼に代わり、アグモンが口を開いた。
「ボクが先に行くよ…太一達はその後に続いて」
「アグモン……」
彼はそのまま太一の前へと身体を滑り込ませ、その手をゆっくりと金網へと進ませる。
「えいっ!」
太一と同じく目を瞑ったまま、彼は金網に手を突っ込む。電流は流れない。その場の全員がふぅ、と息を吐く中、今度は彼らの頭上からガラガラという音と共に天井の一部が崩れ落ちた。反射的にアグモンは手を戻す。
「みんな、大丈夫か!」
「余計な戦闘はするなっていったじゃないか」
「ヤマト、丈、」
先程のエテモンとナノモンの戦いによって事態の異常を感知したヤマトと丈が、地上から足元を破壊して強引に侵入してきたのだ。
「とにかく一度逃げるぞ!……って、おい、空と沙綾はどうしたんだ?」
周囲を見渡したヤマトは疑問を投げかける。それに答えたのは光子郎だった。
「沙綾さんは向こうでエテモンの足止めをしてくれています……空さんは…敵に捕まってしまって……とにかく、沙綾さんを呼んできます、詳しい話はここを出てからにしましょう」
「来た!」
防戦を続けながらその時を待っていた沙綾は、すぐ近くで響く何かが崩れ落ちる音に即座に反応した。
「退くよメタルティラノモン!ヤマト君達が来たみたい」
「了解した…オレもそろそろキツくなって来たところだ」
メタルティラノモンは遠距離からのエテモンの必殺を両腕を使って防ぎ、沙綾の言葉に頷く。
直ぐ様アグモンへとその身を退化させ、二人はくるりと反対側を向いて一斉に走り出したのだ。エテモン自らが距離を大きくとっていた事も手伝い、敵との間隔は十分にある。よって目眩ましの必要はない。
「ちょっと何処いくの!これからが楽しいんじゃないの!」
走り出す二人の後ろからエテモンの声が上がるが、役目を終えた以上長居は無用である。沙綾達は相手にすることなく、急ぎ地下室からでる。
「うわっ!光子郎君!?」
「沙綾さん!こっちです、ヤマトさん達が来てくれました」
「うん!」
彼に先導されるように沙綾とアグモンは通路を走り、直ぐにヤマト達と合流する。既に皆はガルルモンの背中に乗っており、逃走の準備は出来ていた。
「一旦逃げるぞ!お前達も早く乗るんだ!」
「くそ!待ちなさい、選ばれし子供達!」
迫るエテモンを背後にしながら、ガルルモンの背中に三人は飛び乗る。直後、ガルルモンは一気に天井の穴から地上へと跳躍し、敵を振りきるために砂漠を走り抜ける。
そして、
夕陽が沈みかける頃、敵を振り切って安全な場所へとたどり着き、ミミ達とも合流することが出来た沙綾は、子供達にピラミッドで起こった事を話す。やはり仲間の一人が捕らえられたというのはショックが大きいのだろう。皆の口数は少ない。
「そんな…空さんが捕まっちゃうなんて…」
「ごめん…」
「ちくしょう……ちくしょう…」
沙綾は頭を下げ、太一はその時の自分の不甲斐なさに涙を流す。
「みなさんは少し休んでいてください…僕が空さんの行方をさがしてみます…」
そんな中、光子郎はパソコンを開きながらそう口を開く。彼もやはり責任を感じているのだろう。
"お前も休め"と気遣うヤマトの言葉に耳を貸さず、キーボードを叩き出す。
現状、空を探す手段が他にない以上、皆もその行動を強く止める事はなかった。
その夜、
「ねぇアグモン…」
冷ややかな風が通る夜の砂漠で、空の行方を追うためにパソコンを叩く光子郎や、これからの行動を話し合う子供達とは別で、少し離れた見通しのいい場所に、沙綾はパートナーと共に並んで腰を下ろしていた。
「どうしたのマァマ?」
何時ものように、アグモンは沙綾の方を向き、首をかしげる。
「うん、これからの事…どうしようかなって…」
沙綾は呟くように答える。勿論彼女も空の心配はしているが、質問の内容はそれではない。
明日、太一によって空は救出され、同時に愛情の紋章も手にはいる。歴史の流れを考えてもそれは間違いないだろう。
そしてその後、恐らくエテモンとの決着が着くことになる。
それだけならばいいが、問題はその後、太一と子供達が離れ離れになることにある。
"メタルグレイモン"と共に次元の歪みに巻き込まれて現実世界に戻る太一と、デジタルワールドに残される子供達、用は"どちらに着いて行くか"である。
「うーん…ボクには難しい事は分かんないし、マァマに着いて行くよ」
アグモンはきっぱりといつも通りに答える。"全て任せる"と、ある意味で一番困る答えではあるが、そのあまりにも想定内の答えに、逆に沙綾は笑みを溢す。
「ふふ、そっか…なんと言うか、何時も通りだね…一応アグモンの意見も聞いておこうって思ったんだけど…」
実際のところ、彼女の中では答えは出している。この質問は、言わば最終確認の用なものだ。勿論、アグモンが反対意見を言えば、沙綾はそれも考慮するつもりではいたのだが。
「じゃぁ……」
「沙綾ー!」
「!」
結論を口にしようと彼女が口を開きかけた時、不意に背中の方から声が聞こえた。太一である。驚いた彼女は冷や汗と共に口を閉ざして振り返る。
「おーい、沙綾!…あ、いたいた…光子郎が空の居場所を見つけたんだ!ちょっと来てくれ」
「えっ!あ、うん…分かったよ…」
(ビックリしたー……今の話は…聞かれて……ないみたいだね…)
太一の様子から、取りあえず今までの話を聞かれていた節はないと、沙綾は胸を撫で下ろす。しかし、彼のとった次の行動に、再び彼女は驚く事になる。
「えっ!?」
「こっちだ!アグモンも来てくれ!」
急いでいるのか、なんと太一はガッチリと沙綾の手を握り、そのままは走り出したのだ。
スカルグレイモンから逃げる際に太一の手を握った事はあるが、それは緊急事態である。
平時に異性から手を握られた経験の少ない彼女は、突然の出来事に声を上げるが、太一は気にしていない。
「それと…今日はごめんな…せっかく沙綾が時間を稼いでくれたのに…俺は空を助けられなかった…」
「いや…あの…そんなことは……」
「とにかく今は光子郎の話し聞く事が先だ…行こう」
結局、子供達のところに着くまで、太一の手が離される事はなく、終始沙綾は顔を赤くし、下を向いたまま彼に着いて行く事となるのだった。
おや…もしやフラグが……
今後の展開を楽しみにしていただければ幸いです。