デジモンアドベンチャー01   作:もそもそ23

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やめてぇぇーー!

 

「……な、何…これ…」

 

「……ひどい……」

 

地獄絵図。

 

部屋の中を一言で表すのなら、この言葉がピッタリだろう。

 

腕を千切られ、床に倒れて動かないメカノリモン。

 

足を切断され、機能を停止しているガードロモン。

 

顔面にヒビが入り、床に転がるハグルモン。

 

そして、 全身至るところに傷を追い、苦しそうに膝を付くアンドロモン。その他無数のデジモンが部屋を埋め尽くす様に横たわっている。辛うじて生きているという者が殆どであり、最早この場所に無事な者など居ないのかもしれない。

部屋の中心に佇む、異様な雰囲気を纏う巨大な深紅の魔竜と、泣き崩れているクロックモン、 そして部屋の片隅で、傷つき、今や虫の息のゴツモンを抱き抱えるアキラ以外は。

 

「……うっ……」

 

想像を絶するその光景と、中央に佇む魔竜の圧倒的なプレッシャーで、沙綾たちは何も言えず、恐怖から足が地面に張り付いたように直立したまま思考が停止している。

 

「バカヤロー! 早く逃げろ!」

 

「えっ!?」

 

アキラの絶叫が響き沙綾らは我にかえるが、もう遅い。

彼女達が背後に目をやった時には、既に分厚い扉は自動で閉まり、沙綾達をこの地獄に閉じ込めていた。内側の開閉ボタンはすでに破壊されており、自力での突破は難しいだろう。

何より、部屋の中央にいるあの得体の知れないオーラを纏ったデジモンに、背を向け続けるのはあまりに危険である。

 

「マァマ!」

 

「ねーさん!私の後ろに!」

 

退路を絶たれたことで、パートナー達は、自らの主を守ろうと前に出る。

あの"破壊の化身"を相手にそれは壁にすらならないことなど、この場の全員が本能で理解している。理解して尚、彼らは主のためにその身を盾に立ちはだかるのだ。

 

『……また、うるさいヤツが増えたか…』

 

「!」

 

魔竜は視線を沙綾達に向け、低く響く声を発する。

 

『…そこで見ていろ…動けば…お前達も破壊する…』

 

「なっ!?」

 

「うっ!」

 

その圧倒的な威圧感の前に、ティラノモン、シードラモンは金縛りに合ったかのようにその身体を硬直させた。

アレの言葉は嘘ではない、その気になれば本当に消される。

パートナー達に守られ、後ろにいる二人ですら、その一声で動けなくなる。バックアップがあろうとも、潜在的な恐怖はぬぐい去ることは出来ないのだ。

 

『……さて……』

 

暫く睨みを聞かせていた魔竜が視線を足元に移す。そして何事も無かったかのように、そこで泣き崩れているクロックモンに口を開いた。

 

『いい加減……ゲートを開く気にはなったか?』

 

言葉と同時に彼は片足を上げ、クロックモンの前、機械竜との間に倒れ伏す瀕死のガードロモンへと降り下ろした。

 

「ギャッ!」

 

ガシャンという音と、短い彼の断末魔が部屋に響く。バラバラに崩壊した体は光の粒子へと変わり、空気に溶けるように消えていく。

 

「もう…止めて下さい。お願い…します」

 

(ひどい…なんで…そんな事が……)

 

一目見ただけで沙綾は理解した。

これは精神的な拷問。理由は不明だが、魔竜はクロックモンを脅し、その過程で一ヶ所に集めた工場のデジモン達を見せしめのように殺しているのだ。

 

『…ならば…今すぐゲートを開け…』

 

ガシャンと、今度は自身の左側に倒れるメカノリモンを踏み潰す。

 

「止め…て」

 

ガシャン、ガシャンと、魔竜はただ機械的に彼の同族を踏み潰していく。その度に飛び散る残骸。まともな精神を持つものならば、目を背けたくなるほど壮絶な光景。

『保険』のある沙綾とミキでさえ、恐怖感から脚が震え、ただそれを見ているしか出来ない。

 

だが、ただ一人は違った

 

「ふざけるな!お前いい加減にしろよっ!」

 

突如響く大声に、意識の有るものはその声の主に目を向ける。勿論あの魔竜も。

 

「お前はデジモンを何だと思ってるんだ!」

 

アキラだ。

彼はゴツモンを優しくその場に寝かせて立ち上がり、目の前の絶望に向かって叫ぶ。

 

「もう我慢できるかっ!オレがブッ飛ばしてやる!」

 

あのデジモンの行動に彼の怒りが限界を超えたのだろう。その言葉と共に、なんとアキラは本当に単身、魔竜竜に向かって全速力で走り出したのだ。

 

「うおおおおおぉぉ!」

 

「やめなさい!」

 

アンドロモンが膝を折ったまま叫ぶが彼は止まらない。

 

「アキラ待って!」

 

「何やってるのよバカ!」

 

アキラの声で思考が動き出した2人も、その特攻をやめさせようと声を上げる。それでも彼は止まらず、効かないと分かっていても、その巨体に渾身の体当たりを仕掛けた。

 

『…何のつもりだ…人間…』

 

「がっ!」

 

しかし、その決死の突進の代償は高い。

彼はそのデジモンの右手、巨大なアームによって体を挟まれ、そのまま宙高く持ち上げられる。

 

「くそっ! 離せ! 離せぇぇ!」

 

腕の中でアキラはがむしゃらに暴れるが、魔竜は意に介さない。人間がいくら暴れたところで彼の腕から逃れる事など出来はしないだろう。

だが、親友が敵の手に落ちた瞬間、それまで張り付いていた沙綾の両足が反射的に動いた。

 

「アキラ!行くよティラノモン!アキラを助ける!」

 

「う、うん!」

 

「ミキも力を貸して!」

 

「う、うん!シードラモン!」

 

沙綾とティラノモンが先行し、その数歩後ろにミキ達がついた。戦ったところで勝てない事など沙綾もミキも承知の上、だが、アキラとは違い沙綾は無策で突撃と言う訳でもない。走りながら沙綾はミキにアイコンタクトを飛ばした。

 

「ミキ!」

 

「……う、うん!分かったわ!」

 

魔竜までの距離はぐんぐんと縮まり、攻撃の射程圏内に入ると同時に沙綾は走りながらパートナーに指示を飛ばした。

 

「ティラノモン!ファイアーブレス!」

 

「オッケーマァマ!」

 

灼熱の炎が激しい勢いで機械竜に放たれる。

それに続き、別の角度からシードラモンが氷の矢を飛ばす。

 

「アイスアロー!」

 

迫り来る二匹の攻撃。

 

『……小賢しい……』

 

魔竜はアキラを掴んだまま微動だにしない。彼からすれば避ける必要などないのだろう。しかし、彼女達の狙いは"当てて倒す"事ではない。

炎と氷、ほぼ同時に着弾するように放たれた2体の必殺が無防備に佇む魔竜の頭へと豪快に直撃する。同時に、急激に温度の上がった氷が激しい勢いで水蒸気に変わった。

それは共に冒険する中で彼女達が学んだ複合技。正に即席の目眩ましである。

 

「よし!今のうちに何とかアキラを助けなきゃ!ティラノモンお願い!」

 

「やってみる!」

 

勝てずとも時間を稼ぐ程度なら何とか出来る。

僅かな希望を胸に沙綾はそう考えていた。

 

しかし次の瞬間、そんな彼女の期待は一瞬で崩れ去る事になる。

 

『…バカ共が…動けば破壊する…と言った筈だ…』

 

そんな冷淡な声が聞こえたかと思うと、魔竜は空いている左手を一閃。なんと目前に迫るティラノモン、シードラモンを一降りで正確に凪ぎ払ったのだ。

 

「うわっ!」

 

「きゃっ!」

 

その動きは早く、不意を突かれた二体は防御の姿勢も間に合わずに大きく吹き飛ばされ、そのままガツンと、部屋の壁にその身を叩きつけらる。

ドサリと倒れ伏す二体の成熟期。

 

「ティラノモン!」

 

「シードラモン!」

 

同時に、沙綾とミキは自らのパートナーに気を取られ、目の前の巨大な敵から目を離す。

それが痛恨のミス。気を散らしたミキに、魔竜の左手が迫る。

 

「きゃあああああ!」

 

「嘘!ミキッ!」

 

魔竜の左手。巨大な3本の爪と爪の間でがっしりとミキを掴み、アキラ同様彼女をそのまま宙釣りにする。

そして両腕を上げた体勢のまま、それは静かに口を開く。

 

『バックアップか…小賢しい…』

 

直後、バチと言う音と共にミキとアキラの身体は、電流が走ったかのように一瞬大きくのけ反った。それ自体の威力は大したことはないようだが、次の彼の言葉がミキとアキラ、そして沙綾にも絶望を与えた。

 

『…お前達のデータを一部書き換えた……これでもう、お前達が消えようとバックアップは作動しない……』

 

"バックアップが作動しない"

その言葉の意味がこの状況においてどれ程致命的であるかなど、言うまでもない。

最初その言葉の意味が分からず、腕の中で驚いた顔をしていた二人も、やがて理由を理解したのか、その表情が恐怖に引き吊る。

 

「嘘…だろ……」

 

「イヤ…イヤーー!!」

 

室内にミキの声が金切音のように響いた。

デジタルワールドに居る人間が消滅した場合、消滅した人間と同じデータのバックアップが自動的に作動し、その人は現実世界に返される。

しかしこのデジモンが今したように、"データを書き換えた"場合、自身の"今"のデータと、バックアップが一致しなくなる。その状態での消滅がどういう意味を持つか分からない3人ではない。

 

『……お前達は終わりだ……』

 

最後の保険を消された2人の顔が完全な絶望に歪んだ。

 

「ちょっと……待ってよ……」

 

まだ機械竜の足元で何も出来ず立っている沙綾も、二人がたどる結末を想像し、頭の中が真っ白になる

 

そして、

 

「助けてぇぇぇ!!沙綾ーー!!」

 

「クッソオォォーーー!!」

 

二人の絶叫が響く。魔竜が二人を掴んだまままま高く挙げた腕を、そのまま床に向かって勢いよく降り下ろす。

 

「や、止めてぇぇーーー!!」

 

その光景をただただ見詰める、涙を流して叫ぶだけしか出来ない沙綾。

二人の体が魔竜の手から解放される。だがその代償として、両者はまるで地に吸い寄せられるかのように落下する。

 

「あ……いや……」

 

沙綾の中で時間の流れが走馬灯のように感じたのも束の間、

 

ドンッ、という鈍い音だけが、広い室内に響いた。

 

 

 

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