デジモンアドベンチャー01   作:もそもそ23

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やっと沙綾とアグモンの物語が再始動です。

今回は、その序章って感じです。





えと、じゃあ……行ってくるね……

選ばれし子供達が現実世界へと帰還したその二日後。

 

「……はぁ……」

 

東京都、光が丘病院の個室病棟に沙綾とアグモンはいた。

 

「どうしたのマァマ、何処か痛いの?」

 

つい先日抜け出した筈の病院のベッドの上で、ため息を付く沙綾の顔を除き込むようにしてアグモンは心配そうな顔を浮かべる。

 

 

 

 

あの戦いの後、沙綾はアグモンの飛び付きによって意識を刈り取られたのだが、幸いな事に、後から到着した太一達が即座に彼を引き離し、沙綾を抱えて直ぐにその場を離れた事で、どうにか野次馬が集まる前に逃げる事が出来た。

 

しかし、

 

「太一! マァマは! マァマは大丈夫なの!?」

 

「くそっ! こんな体で無理しやがって!」

 

太一の背中で眠る沙綾の見た目は、どう見ても重症患者のそれ。更に、意識までも失っているとなっては、既に子供達の手に負えるものではない。

 

結果、一行はしばらく裏路地をさ迷った後、光子朗の提案によって、近くの公衆電話から救急車を呼び、沙綾は再びこの病院へと輸送される事になったのだ。

 

その際、付き添いとして子供達全員がパートナーを『ぬいぐるみだ』と偽って半ば無理矢理搭乗し、共にこの病院まで来たのだが、無理が祟ったのか、日が落ちてもまだ目覚めない沙綾に、仕方なく、太一達は一度帰宅する事を決める。

 

ただ、ヴァンデモンが沙綾を狙いに来る可能性を考慮して、沙綾のアグモンだけは、『お見舞いのぬいぐるみ』として彼女の隣で警備を任された。

 

というのが、次の日、沙綾が目覚めた後に、泣きじゃくるアグモンからなんとか聞きだしたその後の内容である。

 

(ここが個室じゃなかったら、今頃大問題になってたんだろうね……)

 

さも"当然"のように自分の隣に腰を下ろすアグモンに、沙綾は内心苦笑した。たが、彼女はそれを責めるつもりはない。何故なら、他ならぬ彼女自信、再び目が覚めた時に、その狭い視界いっぱいにパートナーの姿が映し出された事を、何よりも嬉しく思ったのだから。

 

「……ねえ、マァマったら!」

 

少し物思いにふけるような沙綾の様子に、アグモンはツンツンと、爪の腹で沙綾の腕を優しくつついた。

 

「……あっ、ごめんね……大丈夫、じっとしてれば体は痛くないよ……」

 

「でも、さっきからよくため息ついてるよ? 」

 

「それは……その……ヒカリちゃんに悪い事しちゃったなって……」

 

沙綾の先程からのため息の原因、それは混乱の中、タクシーの車内へと放置してしまったヒカリの事である。

何せ、自らの我がままに付き合わせた挙げ句、最後にはヒカリを放ってアグモンの元へとしてしまったのだ。

 

「しかも、また此処に戻ってきちゃってるし……」

 

しっかり者の彼女の事である。恐らく心配はないと沙綾は思ってはいるが、気にするなと言う方が無理であろう。再び顔を合わせた時、沙綾はなんと言って彼女に詫びれば良いのか分からない

自分を気遣うあの年下の少女の顔を思い浮かべると、ますます申し訳なさが込み上げてくる。

 

「……はぁ……」

 

「うーん……ボクはそのヒカリって子の事はよく分からないけど、悪い事したなら、ちゃんと、ごめんなさいしないと」

 

アグモン本人も見に染みているのだろう。いつもながらの無邪気な口調ではあるが、その言葉には強い説得力がある。

ちなみに、沙綾は昨日の内に『自分がいない間に起こった出来事』も、全てアグモンの口から聞いている。

勿論、彼自身の凶行についても全て。

だが、彼女はそれを『自分の責任』と受け止め、アグモンを責める事はしなかった。むしろ『ちゃんと謝ったならいい』『みんなが許してくれて良かったね』と、優しく彼を抱き締めたのだ。

 

「そうだね……アグモンも頑張ったんだもんね、」

 

「……うん」

 

「……よし! くよくよしてても仕方ない。ため息は此処まで! アグモン、作戦会議だよ! 」

 

「えっ!? う、うん、分かったよマァマ」

 

暗くなってしまった雰囲気を察し、沙綾は気分を変えるようにムクリと体を起こした。

"決戦"の時は刻一刻と近付いている上、只でさえ彼女達は寄り道までしてしまったのだ。何時までも此処で横になっている訳にはいかない。

今、この個室には彼女達二人しかいない。人に聞かれたくない話をするには持ってこいである。

 

二人は向かい合ってベッドに腰掛け、沙綾は声を抑えて静かに口を開いた。

 

「聞いてアグモン。この後……えと、たぶん明日か明後日ぐらいになると思うんだけど、ヴァンデモンがお台場って街を一日で丸々占拠しちゃう筈なの……」

 

「えっ、一日で!? 」

 

「ちょっとアグモン、声大きいよ!」

 

「ご、ごめん」

 

沙綾の語る近未来の出来事に、アグモンは心底驚いた表情を見せる。

実際小説にも書かれていた事ではあるが、ヴァンデモンの侵略の手腕はかなりのものである。

 

まず外界との接触を深い霧によって断ち、続いて情報の発信源であるテレビ局の電波を潰す。その後、街全体に配下のデジモンを放ち、人々を殺すことなく一ヶ所に集めさせる。

 

これを僅か一日の間にやってのけたのだ。鮮やかとしか言いようがない。

 

だが、

 

「アグモン、大事なのはそこじゃないよ」

 

「あっ……そっか」

 

そう、彼女達にとってそれは特に大した問題ではない。極論をいえば、結局沙綾達が何もしなくても、この問題自体は選ばれし子供達によって勝手に解決されるのだから。

では、何が重要なのか?

そんなことは一つしかない。

 

沙綾は真剣な眼差しをアグモンへと向け、口を開く。

 

「うん……それでね……選ばれし子供達とヴァンデモンが決戦する時に、相手は"もう一段階進化するの"……完全体のヴァンデモンが……。 私達は、何がなんでもそのデータをロードしなきゃいけない……」

 

現状、メタルティラノモンの戦闘力は、沙綾の支援を含めても精々ヴァンデモンに届くかどうかのものである。

そんな彼らが、迫る"決戦"を前にして急激に成長するには、"究極体のデータ収集"は絶対に外せない必須事項なのだ。

 

「……うん、ボクが、今よりもっと強くなるために……みんなの敵を……この手で……」

 

「そう……今のままじゃ、私達は絶対にカオスドラモンには勝てない……少なくとも、私達も究極体まで進化出来るようにしとかないと……これから先、アイツと戦うまでに究極体のデータを手に入れるチャンスは合計"四回"。 一つだって逃せないよ」

 

未来の世界でも、これを手に入れた者は間違いなく冒険者として名を上げている。

それほどに究極体のデータが与えるデジモンへの影響力は計り知れないのだ。

しかし、彼らには他を寄せ付けない程の絶対的な力がある。それこそ、物語後半の選ばれし子供達でも、限られた者以外はまともな戦闘すら困難な程に。

そんな中で、圧倒的に数が少ない野生の個体を見つけ出し、尚且つそれを撃退するなど、どれ程の難易度なのかは語るまでもない。

そんなデータを計四回獲得出来たのなら、カオスドラモンに対しても十分な勝算が見込めるだろう。

 

「四回……」

 

「うん……まずこれから戦う"ヴェノムヴァンデモン"。それから、ダークマスターズのメタルシードラモン、ピノッキモン……そして、ムゲンドラモン……」

 

ムゲンドラモン。

その名前を口にしながら、沙綾の表情は僅かに固くなる。当然だ。彼女達の怒りの矛先はカオスドラモンだけではない。彼の前世とも言えるムゲンドラモンも同様なのだ。いうなれば、アレさえ居なければ、彼女は親友を失うこともなかったのだから。

 

『助けてっ! 沙綾!』

「…………」

 

頭の中に甦るあの時の光景に、彼女は唇を強く噛む。

助けを求める親友を前に、ただ立ちすくむしかなかった絶望感。振り返ってみると、あの日から既に沙綾の体感で一ヶ月と半月もの時が流れていた。

 

(もう、あんな想いはしたくない……アイツは、私達が絶対に倒す……)

「……アグモン、夜になったら、此処から抜け出そう」

 

静かな決意を胸に、沙綾はパートナーを見つめる。

 

「……お台場に行くんだね、でも大丈夫なのマァマ? 動くと痛いんでしょ」

 

「うん……でもまあ動けない訳じゃないからね……それに、こんな体だからこそ早めに準備はしておかないと。 それに、もしもの時も貴方が助けてくれるんでしょ」

 

心配そうに見つめてくるアグモンに対し、沙綾は彼の頭をポンポンと撫でながららそう答えた。

その信頼に、アグモンの顔はパァと明るくなり、ピンクの右腕で自身の胸をポンっと叩きながら、ベッドから跳ねるように声を上げるのだった。

 

「……マァマ……。うん! 任せてよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その日の夜。

痛みに耐えつつシャワーを浴び、包帯を取り替えた後、消灯時間を待って、沙綾はアグモンと共に病室を抜け出した。

彼女が元来ていたシャツとショートパンツは、所々が破けてはいるが、幸い、洗濯によって"何とか着れる"程度には血を落とす事が出来たため、外では異常に目立つ患者服は脱ぎ、今はこちらを着用している。

 

(うぅ……ちょっと恥ずかしいけど……これもファッションだと思えば……)

 

人気の無くなった薄暗い廊下を音を立てないように歩きながら、沙綾は窓に写る自分の姿を見て思う。

破けた箇所とまだ少し残る血の後を誤魔化すためにシャツを着崩し、一部裂けたショートパンツ履いたその姿は、包帯と眼帯さえなければ"ロックな少女"といった所だろうか。

 

だが、

 

「ふ、ふふ……マァマ、面白い格好だねー」

 

いつものイメージとは違うその姿に、隣を歩くパートナーは口許を抑えて小さく笑っている。

 

「わ、分かってるよ! でもこれしかないんだから仕方ないでしょ!」

 

「マァマ! 声! 声!」

 

「あっ……」

 

静まり返った廊下に、沙綾の声が響く。

 

(うっ、やっちゃったかも……)

 

軽率なその行動に、彼女は慌てて自分の口を抑えた。

一度脱走している手前、誰かに見つかれば『トイレに……』という言い訳すら恐らく通らないだろう。

何より、『彼女の今の格好が既に脱走する気満々』なのだ。

 

二人はその場で呼吸を止めて固まり、ゴクリと唾を飲んで回りを見渡した。だが、幸いにも今の声で誰かが近付いてくる気配はない。病院特有の不気味な雰囲気だけが、辺りを支配している。

 

しばらくした後、彼女達は『ハァ』と息を吐き、お互いの顔を見合わして安心した。

 

「……よかった……気付かれてないみたいだね……」

 

「ボクまでヒヤッとしたよ……もう、気を付けてねマァマ」

 

「うっ……ご、ごめんね……行こ、アグモン」

 

今した失敗を再び犯すことは出来ない。

『元はと言えばアグモンのせいでしょ!』と言いたい気持ちをぐっと抑えながら、彼女達はそそくさと、足早に病院の出口へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

そして、

 

(そういえば……アグモンはどんな究極体に進化するんだろ?)

 

ふと、病院を上手く抜け出した所で沙綾はそんな事を思う。

 

「……ん……どうしたのマァマ? ボクの顔に何かついてるの?」

 

(メタルティラノモンからの進化だから、やっぱり恐竜っぽくズッシリした感じになるのかな……あっ、でもウォーグレイモンみたいな竜人型っていうのも頼もしいかも……)

 

月明かりと街灯のお陰で、深夜にも関わらず周囲は比較的明るく、見つめ返してくるアグモンの顔をじっとみながら、沙綾は腕を組んで彼の"到達点"を想像してみた。

 

(うーん、普段ポケーっとしてるアグモンの事だから、案外可愛い感じになったりして……いや、でもメタルティラノモンの時は性格も変わっちゃったし……)

 

人通りのない裏路地を、首をかしげるアグモンを余所に、彼女の想像は膨らんでいく。

 

(デジモンって進化するまで本当にどうなるか分からないからねぇ……ヌメモンみたいになっちゃったらどうしよう……)

 

実際、デジモンについてはそれなりに詳しい沙綾も、"究極体"の情報についてはあまり知識がない。

というのも、未来に置いてですらそれらはやはり希少個体。なかなか研究も進んではいないのが現状だ。そんな中で、"ティラノモン系統"のものはまだみつかってすらいないのだ。

余談ではあるが、デジタルワールドが普及した未来でも、"究極体に進化可能なパートナー"を従えている者は、太一を初めとする現在の選ばれし子供達8人に加え、ごく少数の熟練冒険者程度のものであろう。

 

それでも、"デジモンは皆究極体に到達できる"というのが、未来で光子朗が唱えた定説である。

ならば、必要な経験値さえ得ることが出来れば、沙綾のティラノモンも、いずれまだ見たこともない究極体へと進化する可能性があるのだ。

 

(なんか、楽しみなような、ちょっと怖いような……寂しいような……)

 

どこか、巣だって行く雛を見送る親鳥のような心境に、沙綾は歩きながらしんみりとした。

 

のだが、

 

「ねえマァマァ、そんなに見られると照れちゃうよぉ」

 

彼女の直視し続ける視線に耐えかねたのか、体をくねくねさせながら恥ずかしがるパートナーに、沙綾は思わず口許を緩ませる。

 

「……ふ、ふふ……やっぱり、アグモンはアグモンだね」

 

「? 」

 

二ヶ月以上離ればなれになっても、以前と変わらずに寄り添ってくるパートナーに、彼女は確信する。

『どんな姿になろうとも、最終的には"何時も通りのパートナー"が自分の元へと戻ってくるのだ』と。

一瞬感じた寂しさは、もう心の中にはない。

 

「さ、行こうアグモン、明日までにお台場についておかないと!」

 

痛む体を堪えつつ気持ちを切り替え、沙綾は元気よくアグモンの一歩前に出た。時刻は零時を回ったあたり。仮に明日の正午にヴァンデモンが動き出すとしたなら、あまり彼女達に時間はないのだ。

 

 

しかし、

 

それからしばらく裏路地を進み、やがて広く、深夜でも車通りの多い大通りが見えてきたところで、後ろをテクテクと歩くアグモンが、何気なく口を開いた。

 

「……そういえばマァマ、お台場って何処にあるの?」

 

それは本当に何気のない。彼にとっては別に聞かずとも構わない程の些細な質問である。

だが、返ってきた解答はアグモンが予想だにしないものであった。

 

「私も分かんないよ。 初めて来たんだから……」

 

「ええ!? じゃあどうするの!?」

 

全てを沙綾に任せ、信頼して何も聞かなかったアグモンは、その突然のミングアウトに目を丸くして驚く。

 

「どうするって……」

 

当然だが、彼女はこの時代の地理には疎い。

更にタクシーやバスを使おうにも現金はなく、言わば身一つで外国を旅しているような感覚である。最も、今はその"身"すら満足には動かない訳だが。

 

「えーと……それは……ね」

 

そんな沙綾が、どうやって光が丘からお台場まで移動するつもりなのかというと……

 

「本当はやりたくないんだけど……」

 

明らかに言いにくそうに、沙綾はアグモンに向け、引き吊った顔で親指を立て、『そのポーズ』を取って見せた。

 

「……その……ヒッチハイク……かな……?」

 

「……………………?」

 

シン、とした夜の静寂が二人を包み込む。

 

それは小説で、選ばれし子供達が家に帰る際に取った最終手段。

彼女も、出来るならこのような手段は取りたくはない。

今の顔がその全てを物語っている。

こんな深夜に少女が一人でヒッチハイクなどしようものなら、普通は録な事にはならない。

 

しかし、昼間からいくら考えようと、お台場に自力でたどり着くには、最早これ以外の方法が思い付かなかったのだ。

幸い、今の彼女には『最強のボディガード』がいる。ぬいぐるみとして車内に乗せさえすれば、後は何が起ころうとも心配はない。

 

問題は、彼女のその奇抜な格好である。

 

顔には眼帯。

薄手のインナーは着ているが、大胆に着崩したシャツ。

一部が破けたショートパンツ。

両足にはぐるぐるに巻かれた包帯。

 

時間帯も合間って、通報されても不思議ではない容姿だろう。

何より、それを分かっている沙綾自身が一番"恥ずかしい"。

 

「……うーん、よく分からないけど、マァマにはちゃんと考えがあるんだね!」

 

「えっ!? う、うん……その、任せなさい……」

 

だが、"ヒッチハイク"という言葉も、ましてや沙綾の葛藤も知らないアグモンは、『流石マァマ! すごい!』と只々彼女を持ち上げてきたのだ。

そのキラキラした視線を前に、彼女は"恥ずかしい"や"ちょっと怖い"など、余計な愚痴を溢すことすら許されない。

 

結局、

 

「えと、じゃあ……行ってくるね……」

 

何か物言いたそうな沙綾が、トボトボと一人裏路地から出ていく。

奇抜な少女の自分との戦いが、この光が丘で、今ひっそりと開始されたのだった。

 

 

 




今回は新しい沙綾の容姿の紹介パートといったかんじでしょうか。

眼帯に包帯にパンクなファッションの黒髪ロングヘアーのロリ。
うん。属性の塊みたいな主人公ですね。

ちなみに
この頃の子供達は、丁度ヤマトとタケルがパンプモン、ゴツモンと出会ったり、空とミミがデスメラモンと戦闘したりしてる筈ですね。光子朗対レアモンは、沙綾が目覚める直前といったところです。

子供達が各々動く目的も、原作の『八人目を見つける』から『ヴァンデモンを見つける』に変わってたりしますが、やってる事に変更はない上、特に物語に重要でもない気がしますので、このあとがきに書いておきます
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