カオスドラモンが消えた後も、未だ残り続ける歪みの前に、沙綾、アグモン、そしてクロックモンが並んで立つ。
「過去に行くにあたって注意しなければいけない点を捕捉しておきます。」
クロックモンが二人の方に向き直り、先程の話の捕捉を始めた。
「まず始めに、本来の歴史からあまりにも外れたことはしないで下さい。 "現在"に帰れなくなる可能性がありますので。」
最もな意見である。自分が過去を変えてしまっては、そこに行く意味がない。
「多少のズレ程度であれば、過去から今に向かって歴史は流れていますので、些細な違いは出来るかもしれませんが、帰れなくなる事はない筈です。」
少し難しいが、川を流れる笹舟が分かりやすい。
上流から下流、過去から未来へ流れる川に、現在である笹舟を流す。
川の向きを強引に変えない限り、笹舟は今ある流れに乗って流れる。
些細な違いと言うのは、笹舟が川の右側を流れるか、左側を流れるかの違いであり、行き着く場所は同じである。
「うん。とにかく、必要なこと以外はするなってことだよね。」
「その通りです。特に、命を奪うことは、本来その結末を迎える者以外には行わないで下さい。 もし、デジモンに襲われた場合も、撃退程度にとどめてください。」
「?………でも、それじゃぁアグモンが強くなるのに、時間が掛かすぎると思うんたけど…」
更に捕捉を続けるクロックモンに、沙綾は疑問を挟む。
パートナーを強くするための、最も効率的な方法は、相手を倒して、その戦闘データをロードしていく事だ。
30年前は、まだこのシステムが存在していないため、完全体以降に進化するためには、長い時間を掛けるか、タグ、紋章などの外部の補助を受ける事で一時的にその姿になるか、例外を除いて、主にその2つが基本であった。
しかし彼女にはタグも紋章もなく、選ばれし子供達と行動する以上、時間にも限りがある。
「はい。ですから、これが二点目の捕捉なのですが、本来子供達によって倒されるデジモンのデータをロードして、アグモンを強くしてください。」
沙綾の疑問にクロックモンは即答した。
確かにこの方法ならば、歴史を変えずにすむ。
選ばれし子供達が倒すデジモンには、完全体や、究極体も含まれているため、そのデータを奪えば、旅が進むほど、確実にアグモンは強くなれる。
「そっか! デビモンとかの事だね。」
「はい。そして3つ目、過去の私に自分が未来からきた"証拠"を見せて欲しいのですが、何か在りませんか?」
その言葉に、沙綾は少し考えたあと、バッグの中から一冊の本を取り出す。
彼女の宝物の一つ、過去が変わらないかぎり、完璧な予言書となる小説をクロックモンに見せる。
「これでいいかな…?」
彼はその本を手に取り、タイトルと作者の名前を見て頷あた。
「問題ないでしょう。 これを過去の私に見せて下さい。ただし、この本は決して過去の私以外の者には見せないで下さい。」
理由は語るまでもなく、未来が変わる可能性を考慮したからである。
クロックモンは一度息を吐き、改めて沙綾に向き直り頭を少し下げる。
「あなた方に全てを押し付ける事を、申し訳なく思います。」
「気にしないで、私は友達を助けるためにやるんだから。」
彼女がこの話を受けたのも、親友を助けられる可能性があるからであり、"過去を守る"と言うのはあくまでその過程でしかない。彼女はきっぱりと言い切った。
「じゃぁ行ってくるね。アグモン、行くよ。………あれっ」
先程まで並んで立っていたはずのパートナーの姿はそこにはなく、周囲を見渡してみた沙綾は、床に倒れ付す無数のマシーンデジモンの先に、その黄色い体を見つけた。
それとほぼ同時に、デジヴァイスが反応する。
「ごめんね。ゴツモン、ベタモン、君たちのパートナー、守れなかった。」
「オマエの…せいじゃ…ないんだ。謝るなよ…」
「そうよ、ねーさんが……死んじゃったのは、あたしが弱かったから…うっ…ねー……さんっ…」
部屋の隅で3匹のデジモンが声を交わす。
一匹は頭を下げて謝り、一匹は苦しそうにそれを否定し、一匹は自分の弱さを嘆いている。
彼らのパートナーは親友同士である、ならば彼らデジモンも、何度も一緒に冒険した仲間なのだ。
消えていったアキラのパートナー、ゴツモンは、3匹の中で一番始めにこの部屋に入り、カオスドラモンに挑んだ末、返り討ちにあった。
苦しそうに息をしながら、彼はアグモンに問う。
「それより…アイツ…追うんだろ……オレのデータ…オマエにやるよ…持ってってくれ」
自身のデータを相手に渡す。要は、データをロードさせると言うことだ。それは、自身の消滅を意味する。
パートナーデジモン達が戦闘で敗北しても、先にバックアップが作動するのだが、自分から相手にデータを渡すことに関しては、これは作動しない。
ここに規制を掛けると、ジョグレス進化に支障をきたすためである。
「……アキラの敵を……取ってくれ」
その言葉に、ベタモンも続く。
「あたしのデータもあげる」
ティラノモンほどの体力も防御力もない彼女は、凪ぎ払われた後、力尽き、そのままベタモンへと退化してしまっていた。
ミキが消された時も動けなかった彼女は、沙綾と同じようにただその無力感に涙を流していた。
「あんたといっしょにアイツを倒す」
二匹の言葉はアグモンにとって聞き入れたくはないものだ。仲間の命を文字通り貰うことなどしたくはない。
だが、彼にはそれをイヤだと断る事が出来なかった。
立場が違えば、自分も間違いなく彼らと同じことを言う自信があったからである。
そして、
「分かったよ。……キミ達の…力を…ボクに貸して。」
断腸の思いで、その言葉を口にした。
二匹が一瞬光り、徐々にその身体をデータの粒子へと変えていく。それはまるで吸い込まれるかの様に、アグモンの身体へと流れていく。
「頼んだぜ。」
「負けたら、承知しないわよ。」
そんな言葉を残し、アグモンに自身の全てを託して、2匹はこの世界から姿を消した。
「キミ達の思いは、絶対無駄にしないから…」
もう居ないゴツモンとベタモンに祈りを捧げる様に、目を閉じて呟く。再び開いたその目に強い決意を秘め、アグモンは沙綾の元へ戻る。
「良かったの?」
自分の元に帰って来たアグモンに沙綾が問いかけた。
「うん……ゴツモンもベタモンも、ボクに託すって。」
先のデジヴァイスの反応はやはり、アグモンが二匹をロードしたものだったのだろう。
一瞬目を離した隙に、さっきまでとは違う決意を、沙綾はアグモンから感じた。
「準備はよろしいですか?」
二人は同時に頷く。
「このゲートを潜り、こちらがゲートを閉じた時点で、あなた方は過去に送られます。 では……御武運を。」
カオスドラモンが過去に行った後からゲートを開けっ放していたのは、このゲートさえ閉じなければ、歴史は上書きされないからだろう。
「行くよ。アグモン。」
「うん。マァマ。」
二人は振り替える事なく、ゲートを潜潜る。
(アキラ ミキ、絶対に助けてみせるから)
(ゴツモン、ベタモン、絶対にアイツを倒してみせるから)
一見違うようで、その実同じ想いを胸に抱き、彼女達の長いようで、時間にして一秒も進まない旅が、今始まる。
二人を見送った後、クロックモンは思う。
(あの事を言わずに良かったのか? 過去を守るためとはいえ、私はとんでもない事をしたのではないか?)
クロックモンは一つ、意図的に説明を省いたところがある。
それは二人にとって致命的な、ある一つの事柄。
(私を許して下さい。)
懺悔をするように目を瞑り、彼はゲートを閉じた。
タイムトラベルの説明が難しいですね。
伝わり難かったらすみません。
伏線を幾つか残して、次回から過去編になります。
誤字なんかも多分多いと思います。